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48 サン(救出済み)

 

 心配したじゃ~~ん

 うそうそっ。大丈夫だと思ってた~~。

 メンゴメンゴ~~~。


 私とロータスは宿屋に備え付けられた椅子に座り、うっかり連れ去られちゃったとめんごる(造語)スライムを無言のまま見つめた。こんなことあるかよ。


 店主のお兄さんの言葉もそこそこに部屋の中に飛び込んでしまったのだ。とりあえずひとしきり落ち着いた後で、より詳しく話を聞くべく、私はお兄さんのもとに向かった。ロータスはウェイウェイするスラ達を、足を組みながら肘をついて見つめる係に任命済みだ。楽しそうでなによりですけど。


 宿屋に帰ってきて話を聞くなり血相を変えて部屋に飛び込んだ私を店主のお兄さんも心配していたらしく、「そりゃ部屋にモンスターがいるだなんてびっくりだよな」と戻ってきた私を見て慰めるように言ってくれたけど、連れてきたのが私ですとはまさか言えるわけもなく、ぬるい笑みでうへへと口元を引きつらせた。愛想笑いのスキルを獲得しました、とこっそり脳内でつぶやくアナウンスはちょっとおだまり。


 お兄さんの話をまとめるとこうである。私達が外出をしてしばらくして、魔道の塔の証明を握りしめた長髪の男は、ゆっくりと宿屋の中を見回した。片手を目前につきだし、ちかちかと腕輪が光ったと思うと、私達の部屋の鍵を開けろと要求したのだ。この街は魔道の塔を中心にして成り立っている。開けろと言われると開けるしかないし、中にモンスターがいるかもしれないとのことで、おっかなびっくり、鍵を開けた。そこには部屋中をとぅるんとぅるんにしていたサンがつるつるむっちりボディでるんるんに腰を振っていた。ギャグかよ。


「いやあ、他の葉の旅人から聞いたことはあったけど、あれがスライムっていうんだな。つやつやしてぷるぷるで、なんだか見ようによっちゃちょっとうまそうにも見えたな」


 というお兄さんの感想に、現在ロータスの前で三匹るんるんで跳ね回っていた彼らが全員同時にくしゃみをしたことを私は知らない。そのときロータスは、『いやお前ら今どうやってくしゃみをしたんだよ』と静かにツッコミを入れていた。ロータスはときおり真顔でマジレスする。


 見知らぬ男が突入してきたそのとき、私から距離が離れていたものだから、サンにかけた幻術スキルはすっかりとけていて丸見えの状態になっていたのだ。そしてまさか扉が開くと思わず、エエエエ~~!? と驚き、なんでや~~!!? と叫んでいるところをやってきた長髪男子に小脇に抱えて確保されて、びちびち暴れながら退散した。そして即座に逃亡した。うちのスライムは本気を出したらチーターよりも速くなる。正直パラメーター的には私よりも上なのではとときおりぞっとした気持ちでイッチ達三匹を見下ろしてしまう。



 お兄さんの話、そしてサンの話をまとめて、私は再度宿屋に戻った。「なる、ほど……」 想像できるような、できないような気持ちで椅子に座りつつ、頷いた。ところでここでそもそも疑問がある。


「っていうか、イッチ達ってモンスターなの?」


 本当に今更すぎる疑問だけど。ん? いや、ん? と首を傾げて瞬きを繰り返すと、イッチ達は、広義でいうとそうで~す、とウェイ系がピースを合わせて星形にするかの如く、みょいんと両手を伸ばして合わせて返事をした。狭義でいうと違うのか、というか人数が足りないからそれ星やなく三角になっているんだけど、とそれはさておき。


 魔族に使役されたモンスターを魔物と呼ぶ。テイマースキルからの縁とは言え、別に私はイッチ達を使役しているわけではない。だから、まあ、そうなのか……となんとか納得して言葉を飲み込んでみたものの、若干の釈然としない気持ちを抱えた。いや別にいいんだけど。


 それから、さらにサンに深く話を聞いてみることにした。彼を誘拐(?)した長髪の男性。灰色のローブを着ていて、片方の瞳には小さなモノクル。大きな杖を持っている、静かな男だったという。ロータスは真っ黒な髪色だが、それよりも少し緑がかった色合いで、長い髪を一つにくくっていて、腕輪をしていた。


「……それって」


 記憶の中を探っていく。しゃんっ、と音を立てながら、杖ならぬ、錫杖を地面に突き立てる男の姿が頭の中で流れ込む。――私は、彼を知っている。


「ゲームの、攻略キャラの一人だ……」



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