1-5 第4王子と王女
父様から判定の儀があると言われて、7日後。今日は、シゼと共に馬車に揺られていた。
この世界も地球とだいたい同じで、1年が12か月。1か月が30日。しかし1週間が9日なので、判定の儀は明後日だ。
1週間は属性と対応しており、風・火・地・水・雷・植物・氷・光・闇の並びだ。知った当初は、希少属性を除いて7日間か、上位属性を除いて6日間でいいのではないかと思ったが、世界を構成している元素だからダメらしい。
そういうことで、地球だと1週間後である今日、私達がどこに向かっているかというと・・・
「さて、着いたようだね。シゼおいで?」
「うわぁー!すごい!おおきー!」
止まった馬車から降り、シゼを馬車から降ろしてあげる。そこに広がっていた光景に、シゼが良い反応を見せてくれる。目の前には、地球のフランスにあるシャンボール城のような、美しく雄大な姿をした王城が存在した。
今日は、シゼの専属護衛契約相手の、王女殿下との面会予定である。ついでに、私も契約相手に会いに来る日であったため、一緒に来たのだ。
仮契約は、王家の者が5歳になった日に行う。王女は現在3歳で、シゼの1つ下だ。その為、契約を交わすのは約2年後なのだが、遊び相手として、友人候補として顔合わせを行う。
仮契約中でどちらも学園の小等部に入学前の期間は、週に3日は王城に通い、親睦を深めることになっている。つまり同い年の私達は、5歳から小等部入学までの間は、3日おきには私が登城し続けるのだ。
城内から案内の者が出てきて、シゼと共に中に入り、シゼに後で迎えに行くと告げて別れる。
私は勝手知ったる道と、第4王子の部屋へ向かっているのだが、何故かシゼたちが後ろから付いて来ていた。どういうことだ?まさか客室じゃなくて、王女殿下の私室ってことはないよね?頭の中が疑問で溢れそうになったころ、王族の生活区域に入ったところで、振り返り、案内の者のところまで戻る。
「ねえ、何でここに来てるの?王女殿下の自室に行くの?」
「いいえ。王女殿下の自室には行きませんよ。」
「ならどこに行くの?」
「レオナード殿下のもとですよ。」
「えっ?」
レオナード。レオナード・ハーデル第4王子。”私の”専属契約相手だ。
「えーっと?ごめん。どういうこと?何でシゼが・・・。」
「申し訳ありません。詳しいことは何も存知上げません。ただ王女殿下があちらにいらっしゃるようで、連れて来るようにとしか。」
よくわからないが、あの野郎、どういう了見だ。不穏な気配を漂わせ始めた私を見て、案内人が慌てて話をずらし、先に進みだした。それを見たシゼが私を押し、レオナード・ハーデルのもとへ向かうのだった。
3日前にも見た、見慣れた部屋に到着する。案内人が、部屋の中に向け到着したことを告げている間に、シゼを背に隠し、扉が開かれるのを待つ。
扉が開かれ、入室許可が出ると、案内人は一礼しそそくさと立ち去って行った。仕方ない。入るしかないだろう。
中には、アクアブルーの瞳に輝く金髪を短く整え、人の好さそうな笑顔を浮かべた腹黒イケメンと、同じくアクアブルーの瞳に、緩く巻いた美しい金髪を垂らし、フリルがたっぷりと使われた淡いピンク色のドレスを着た、可愛らしい少女がいた。
「お初にお目にかかります。アリア王女殿下。バルネリア家三男、ルーデリオ・バルネリアと申します。よくこちらに訪ねてきている為、今後どこかでお会いするかもしれませんね。以後お見知りおきください。そして、こちらにいるのが、私の弟のシゼルスです。是非仲良くしてやってください。」
「しじぇりゅす・ばりゅねりあです。よろしくおねがいします。」
可愛らしい王女殿下に、自然と笑みが浮かぶ。そのまま王女殿下に挨拶し、シゼを紹介する。王女殿下の隣で、面白そうにこちらを見ている奴は無視だ。
「よろちく、おねがいちましゅ。ありあ、でしゅ。」
少し照れたように、赤くなった顔を俯かせて隠す。え、何この子。可愛い。私たちの間に、ほのぼのとした空気が漂い出した時、その空気を、ぶち壊してくる存在がいた。どこぞの腹黒金髪イケメンである。
「ルー、俺、弟君に紹介されてないんだけど?弟君はちゃんと俺の方も見て、挨拶してくれたのに。仕方ないなー。んんっ。初めま「すみません。レオナード殿下、いらっしゃるのに気付きませんでした。」」
挨拶をしようとし出したので、割り入って止める。シゼを紹介なんてしてやらん!するとレオナード殿下が私に近づき、耳元で囁く。
「良いのかな?ルー。周りを見てごらん。今どういう状況かな?」
「・・・・・。」
周りでは、多くの侍従達の目や、耳がこちらに向いていた。さっと、レオナード殿下の前に立ち、シゼの手を引き隣に並ばせる。
「紹介が遅くなってしまいすみません。レオナード殿下。シゼ、こちらは第四王子殿下のレオナード殿下だよ。私の契約相手だ。」
「こんにちは。しじぇりゅす・ばりゅねりあです。よろしくおねがいします。」
「よろしく。君のことはよく、ルーから聞いているよ。」
2人の挨拶が済むと、レオナード殿下が侍従達の方を見て、全員部屋から出ていくように言う。完全に人払いが済むと、レオナード殿下がこちらを見て、
「よし。これでいつも通りに話せるな。酷いよ、ルー。俺は、君の自慢の弟君に会ってみたかっただけなのに。」
「まさか、会ってみたいというだけで、アリア殿下との面会場所をここにしたのか?」
「そうだよ?だってこうでもしないと、簡単には会えないしね?」
専属契約が現在の形に至った原因として、王家のバルネリアの奪い合いがある。その背景より、王家の者は他の者がいない空間で、バルネリア家の者2人以上と会ってはならない、という決まりがある。しかし、アリア殿下が居ればその規則には引っかからない。
まだきちんと理解できてないだろう、兄に利用された王女殿下に目を向けるも、目があった瞬間に逸らされる。軽くショックだ。すると腕を軽く叩かれ振り向くと、私とレオナード殿下の顔を見比べながら、困惑した表情を浮かべたシゼがいた。
「あー、シゼ?僕たちは2人だけの時はいつもこんな感じだよ。ねえ?レオ。」
「そうそう、人がいる時は気を付けないといけないからな。」
どうやら納得してくれたようだ。王族に対して不敬であるから不敬罪、と言われては堪らないからね。これだけでだいたい理解出来るなんて。やっぱり天才だ。そして可愛い。もうサイコー!思わずシゼを抱き締める。姉様とは違って毎度きちんと力加減はしてるよ。本当だって。
その後、4人で遊んだりおしゃべりをしたりした後、遊び疲れて眠ってしまったシゼとアリア殿下を、レオが優し気な眼差しで見つめながら口を開く。
「なあ、ルー。明後日、いよいよ判定の儀だな。」
「そうだね。どんな感じなんだろうね。」
「さあな。ただ、お前は、英雄の再来と呼ばれるほどに、いろんなところから期待されているからな。」
「え?そうなの?初めて聞いたけど。」
「今王城内では、結構飛び交ってるんだよ。」
「そんなに広がっていたんだ。でも、そこまで期待されたらもしもの時が怖いな。」
「確かになー。魔力が多いものは2属性持ちが多い、という傾向があるだけで必ずそうなるとは限らないしな。まあ、折角なんだ楽しもう。」
「うん。そうだね。」
暫くしゃべり続けた後、仕事を終えた父様が迎えに来て、目覚めたシゼと一緒に帰宅のために馬車に乗り込んで行くのだった。