1-48 合同訓練2日目 襲撃後
人数的に厳しい時はあったが、誰も死ぬことなく済んだようだった。ただし、怪我人は全体の半数近くいた。特に学生が多く、レオ達以外は混乱して馬車の外に出てしまった者がほとんどだったが、皆軽い怪我で済んでいた。レオ達も打撲や切り傷といった他の学生よりは少し重い、しかし客観的に見れば軽い怪我だった。これもシゼのお陰だと、襲撃が終わって安心したからか、シゼに助けられた学生たちは騒いでいた。
冒険者の被害は大きかった。命に関わる状態の者はいないが、深い切り傷を受けた者や骨折をした者等様々な者がいた。しかし、彼らは持っていた回復ポーションを服用し、大怪我以外の者はほとんど完治させていた。
この回復ポーションは体力の回復はされないが、聖属性が失われた今では、水属性の治癒の力以外に唯一、怪我を治すことが出来る方法だ。回復ポーションランクがあり、低級、中級、上級、特級と分けられている。低級は軽い怪我しか治せず、特級は失われた四肢の復元さえ可能にすると言われている伝説の代物である。それ故現在市場に出回る回復ポーションの最高品質は上級であり、骨折時の骨の接合や切り離された肉体を繋ぎ合わせることが出来る。中級は、上級と低級の間の効果のもの全般をいう。冒険者が常に備蓄して持ち歩いている回復ポーションといえば、この中級を指す。これらの効果から分かる通り、質が上がれば上がるほど、その金額も跳ね上がっていく。
そう、冒険者の被害は大きかったのだ。彼らの懐具合への被害が。
王都近郊のため強い魔物も出ず、怪我をしない安全な報酬の良い護衛依頼で、まだ資産に余裕もないDランクのパーティが中級ポーションを何本も使うことになったのだ。パーティによっては骨折している人もいるため、上級ポーションが買えるわけもなく、その人が完治するまで数か月は今まで通りに活動出来なくなる。そうなると、受けられたはずの依頼を見送ることもあるだろうし、依頼を受けたとしても支障が出るだろう。長期的な懐具合への被害は押して知るべしだ。
ズィーリオスがいる時点で、回復ポーションは俺には必要ないだろうけど。ズィーリオス、万能過ぎ。
軽傷だった学生たちは、学園側が用意していたポーションを飲み全員完治したようだ。しかしシゼの魔力欠乏だけは時間経過による回復になるので、直ぐに治すことは出来ないようだ。
魔力は空気中の魔素と呼ばれる物質を、生物が体内に取り込むことで変換されるエネルギーのことだと言われている。その為、魔素を体内に取り込む速度、その変換効率に個人差があるので、万人にあった魔力回復の手段がない。回復ポーションのように、摂取することで魔力を一気に回復させる方法があったとしても、急激な魔力量の変化に体がついて行けず、魔力酔いという症状を引き起こしてしまう可能性がある。
魔力酔いは、濃度の濃い魔力に当てられた時に良く起きる症状だ。この状態になると、頭痛、吐き気、嘔吐、眩暈といった症状から、最悪、意識喪失の状態になってしまうのだ。
しかし魔力を回復させる方法として、取り込んだ魔素から魔力に変換する効率を上げてくれる薬草があり、一般的によく使われる回復方法としてその薬草が知られている。この薬草を調合した物が、魔力剤と呼ばれている。ただ、味はとても不味いらしく、魔力剤を飲んだ後のシゼは顔色が土気色になっていた。
絶対に魔力剤のお世話にはなりたくないな。
予定時間がかなりズレてしまっているため、直ぐに村へ向けて出発するようだ。距離もそれほど離れていないので、1時間もせずに到着するだろう。襲撃者たちの遺体は、身元が確認出来る物を誰も持っていなかったので、魔物が集まってこないようにと燃やされた。その後出発しようという話になったのだが、問題があった。レオ達のグループ5人が乗る馬車がなくなったことだ。
他の馬車に分乗すればいいと思うが、貴族の学生たちが冒険者の馬車に乗るはずはないだろうし、そもそも乗るスペースがない。
「他のグループの馬車に分かれて乗るのはどうでしょう?確か、人数的に3台分の馬車に、1人ずつの空きスペースがありますよね。そこに3人は乗りましょう。どうぞ貴方たちが乗って下さい」
レオがシゼ以外の、同じグループの男子生徒に対して3台の馬車を指し示す。その言葉に、促された男子生徒のうちの1人が声を上げる。
「では、殿下とシゼルス様はどうなさるおつもりですか」
「私達は、あちらにいる私達を助けてくれた、冒険者の方と同じ馬車に乗ります。彼1人だけですから、私達2人が乗る分にも問題ないですしね」
なっ!レオからの驚きの発言に、周りの学生たちが慌てて止めに入る。譲られた学生たちも逆に譲り返そうとしているが、柔和な笑顔を浮かべたレオの意志を変えられる者はいない。その様子を離れた所から座り込んで観察していたシゼは、顔の表情筋を一切動かさず、目だけを異様にキラキラとさせていた。
シゼの顔は一体どういう作りになっているんだよ。細かいな。
一向に意見を変える気を見せないレオに、一部の学生たちは俺にターゲットを変えたようで、今まで近づいて来なかったのが嘘のように真っ直ぐに近づいて来る。
「おい。殿下のお言葉を聞いていただろ。お前なんかが殿下と同乗するなんておこがましいんだよ!出来ないと言え!」
「そうだ!平民風情が!!」
「身の程をわきまえなさい」
四方八方から色々な声が飛んでくる。聖徳太子じゃないんだから、お前らが言ってることほとんど理解出来ないっての。本当うるさいなー。身分云々を言うなら、俺が王族に直接話しかけて拒否るのもアウトなんだけど。こいつら頭悪いのか?あれ?レオ?何でこっち来る?
学生たちの向こう側から、レオが近づいて来ていた。レオに気付いた学生は離れていくが、未だ気付かない学生は俺に喚き続けている。おーい。後ろに気付けー。
「君たち、命の恩人に酷いことを言うんだね。君たちがそのような人だとは知らなかったよ」
「で、殿下!?こ、このそれは、違いまして!」
「言葉の綾でございます!!誤解です!」
「殿下!こいつは先ほどの戦いで姿をくらまして、何もせずに居たではないですか。終わるころに現れたのですよ!俺はこの目ではっきりと見ました!」
あー確かに、後方一体はズィーリオスに任せて、他のところにいたからな。後方にいた学生はそう思うのも無理はないが、今のレオにそれを言っちゃあダメだって。目が笑ってねぇ!
「では君は、我々が馬車の下敷きになっていた時、敵に助けてもらったとでも思っているのですか?他の冒険者の方々は、混乱し右往左往していた君たちを助けるために、我々のところまで救出しに来れなかったというのに?」
「え?そ、それは・・・」
「彼に助けられたのは事実です。私が嘘をついていると思うなら、他の助けられた子達に聞けばいいでしょう」
「殿下が嘘をついているなど!!すみませんでした!!」
頭を下げて走り去っていく学生たち。周りで一連のやり取りを眺めていた学生たちに向けて、微笑を浮かべながらレオがゆっくりと見渡す。
「そういうことですから、私の命の恩人に対して失礼なことはしないようにお願いしますね?まあ、命の恩人に対して身分を振りかざすような、人としてどうかと思う様な行動は皆さんならしないと思いますので大丈夫でしょうけどね」
レオの口は昔と変わらず絶好調のようだ。最後の一言が効いたのか、レオが俺と同じ馬車に乗るという意見に反対するものは出なくなった。
やっとまとまった話に、ころころと表情を変えて見守っていた教師がホッと息をつくのが視界に入った。そしてその表情をキリっとしたものに変え、全員に馬車に乗るように告げた。
「あ、すみません。あの、冒険者の方。あそこで座ってこちらを見ている彼を、私達の乗る馬車まで運んでもらえますか?彼が私と一緒に乗るもう1人の学生です」
出発のために移動しようとした瞬間に、レオから声が掛けられシゼの方に視線を向けさせられる。断る理由もないので、微妙に達成感に溢れた顔をしているレオに了承の意を告げ、シゼの方へと歩き出す。お姫様抱っこの形で運んでいる間、ずーーとキラキラした目を向けられながら、シゼと共に馬車へと乗り込んだ。




