1-43 アイゼン
「良い?分かった?」
ロンにギルマスたるシェルの執務室に連れて行かれて、対面のソファに座らされて俺は説教をされていた。なんでも、貴族相手に軽々しく伝言で連絡を取ろうとするのがダメだったようだ。それも、以前に渡したネーデのギルマスからの手紙に、何か色々と書かれていたのが今回の説教に至る原因だった。普通の冒険者であれば、貴族と連絡を取ろうとせず、有ったとしてもカウンターで拒否の返答と共にこの説明をされるらしいが、何故か俺はシェル直々の説明及び説教である。
相変わらず山のように積みあがった書類を横目に、雰囲気はやり手の女社長感を醸し出している、シェルの時間の使い方の下手さは残念だなと思っていると、また怒られる。
「ならどうやって連絡を取ればいいんだよ。いつでも連絡してくれ、と言われたぞ。貴族街のどこの屋敷か知らないから、ここに来たんだ。伝言が出来ないなら場所を教えてくれ。突撃してくるから」
「そんなの余計ダメに決まっているじゃない!?なんで突撃するのよ!」
「突撃訪問?アポ取れないし?」
「はあぁー」
ソファに体を沈み込ませ、頭を押さえるシェルに、その隣に座っているロンは、既に頭を抱え機能停止しているようだった。
アポの為にわざわざ訪問して、後ほどまた訪問するとかダルくね?だから前もって連絡を入れようと、今日ここに来たというのに。
「わかったわ。連絡が取れないというわけではないから、特別に許可しましょう。それで伝言内容は?」
「出来るのか。なら良かった。会って話したいことがある、と伝えてくれ」
「ちょっとだけ待ってなさい」
シェルは席を立ち、出口とは反対の扉の奥へ消えていく。どうやって連絡を取るつもりなのだろうか。不思議に思っているのが顔に出ていたのだろう。いつの間にか再起動していたロンが答える。
「伝書鳩、を使って、いる。王都内、なら、可能、な、距離」
なるほど、伝書鳩か。それならわざわざ貴族街に行かなくていいから楽だな。
暫くシェルを待っていると、呆けた表情のシェルが戻って来た。どうしたのだろう。
「ギルマス?どう、しました?」
「ロン。来るそうよ」
「え?」
「カストレア卿が今からいらっしゃるそうよ」
「ええ!?」
お、まさかの向こうから来てくれるのか。動かなくて良いなんて楽できていいな。ってあれ?どうやら部屋を移動するようだ。室内を見渡す。まあ確かに、ここに賓客を招き入れるのは俺でもどうかと思うからな。
ギルド内の応接室に移動して待つこと1時間ほど。
「おい。起きろ。来たら寝てるってどういうことだ」
体が揺すられているのを感じて目が覚める。目を開けるとそこには、ドアップのおっさんの顔があった。げえっ!ふざけるな。
「もっと離れろよ。近過ぎだ。起きたらおっさんの顔など目覚めが悪ぃ。ふあーぁ」
やっと到着したらしいアイゼンを睨みつけながら押しのけて、大きな欠伸をする。本当に最悪な目覚めだ。半目になったアイゼンが見つめてくるが、正直どうでもいい。もふって癒されることにしよう。
もふもふもふもふもふもふもふ。
「で、用件はなんだ、リュゼ」
ふむ。そろそろ真面目にお仕事しよう。姿勢を正し、ソファに腰掛ける。室内には俺たちの他に、シェルとロンがいるが、シェルが今にも殴りかかっていきそうな形相をしている。ロンは真っ蒼になってぶっ倒れそうだ。可哀相に。そんなにシェルが怖いんだな。
「以前言っていた依頼についてだが、受けようと思ってな」
「ほぉ。受けることにしたのか」
「ああ、要件が出来たのでね。参加するのが一番手っ取り早いと思ってな」
「その要件について教えてくれないかな?」
「それは無理だな」
「・・・」
「・・・」
静寂が部屋を支配する。ごくっと唾を飲み込む音が聞こえたが、方向的にロンだろう。
「これでも俺は元辺境伯で、今でもそれなりには影響力があるぞ?リュゼが急に参加の意思表示を示すなど、君の中での優先順位がかなり高いものであると思うが、俺の手伝いは要らないのか?」
情報を集めるには、俺たちだけでは無理があるのは分かっていた。しかし、一冒険者が王族と公爵子息と関りがあるなどおかしいと思われるだろう。それに、”あの方”がここに居る誰かである可能性もあるのだ。闇雲に情報をばら撒いて、警戒される訳にはいかない。まあ、銀行の制度に好意的であったシェルが黒幕とは思えないが、念のためである。
だが、情報は必要だ。だからこそ、一部の情報だけを開示し、後は隠せばいいだろう。
「手は貸してほしいな」
「だろう?因みに何をしてほしいんだ?」
「実は先日、ローブ姿の者達に会ってな。王都内でローブ姿など逆に目立つだろう?だから気になってな。だけど、路地裏で殺されていたそうじゃないか。腕に覚えのある者たちに見えたから、そのローブの奴らが何者か気になっただけだ。してほしいことといえば、そいつらに関する情報を集めて欲しいといったところだ」
アイゼンは何かを考える姿勢になるが、シェルだけは険しい視線を向けて来る。なんだ?
「リュゼ君。その話、全て真実ってわけではないわよね?それは昨日の話でしょう?立場上連絡が来ていたから知っているけれど、本来なら関係者や一部の人以外に知らないはずよ。なんで知っているの?」
ちっ。ミスったか。噂になるくらいは住民に知られていると思っていたが。だが、なぜ全てが真実ではないと分かったんだ?
「はあ。情報規制がかかっているとは思わなかった。これはミスったな。仕方ない。俺は昨日たまたまあの場にいたんだよ。通りがけに、ローブの奴らに追われている奴等がいたから助けただけだ。誰かの依頼っぽかったから気になったんだよ」
「ふーん。今回は全て真実だったようね」
「俺が助けただなんて誰にも言うなよ」
「わかったわ」
部屋中を見渡し、ロンとアイゼンが頷くのも確認する。
「シェルはなんで真実かどうかなんて分かったんだ?」
「だって私はエルフだもの。精霊の力を借りれば可能よ」
「精霊にそんなことが出来るのか?」
「あら?知らなかったの?精霊は”真実を見る者”と呼ばれているぐらい、嘘を見抜く力があるのよ」
なるほど、そんな力があったのか。だから嘘でなくとも、微妙に真実から外れたことを言ってもバレたのだろう。エルフの前では気を付けないといけないな。
「でもリュゼ。多分そのローブの者達は、裏ギルドの者達でしょうね。犯罪行為を行ったり、冒険者ギルドから追放された人たちが流れ着くところよ。報酬次第で、表に出せないことをなんでも行うところなの。だから、あまり首を突っ込むことはしてはいけないわ。ランクで評価すると、BやAの強さを持つ人物達もいるの。ずっと前から、裏ギルドの壊滅のために情報を集めているのだけれど、中々集まらなくて国や私達も手を焼いている相手なの。だから、ここは好奇心を抑えて大人しくしておきなさい」
へー。裏ギルドか。そんなものが存在していたとは知らなかったな。国が動いていても捕まらないのか。まあ、貴族が利用したりして、潰すに潰せないのかもしれないがな。
「だが、シェルにそのようなことを言われても諦める気はないのだろう?リュゼ?」
「なんでそう思うんだ?」
アイゼンに急に話を振られる。大々的に動くことはしないが、止める気はさらさらないな。特に合同訓練が無事に終わるまでは。
「自分のしたいこと、従魔のこと以外に関しては動かない君が、通りすがりで助けた人物を襲った相手に、ここまで行動を起こすことはないだろう。襲われたのが君の知り合いだったのではないか?それに、ネーデにいる時に王都に行くこと自体にかなり渋っていただろう。その知り合いがいるからあれだけ渋っていたのではないかな?君が動くに足る人物が関わっているのだろう?どうだ、リュゼ?」
はぁ。やっぱりアイゼンには何でも見透かされているのか。その頭の中がどうなっているのか見てみたいものだ。
アイゼンに頷き、その考察が当たっていることを認めた。




