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はぁ?とりあえず寝てていい?  作者: 夕凪
第1章 終わりと始まり 
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1-3 師匠と魔法属性

 昼食を食べ終え食堂を出た後、シゼの部屋に戻り、一緒に遊んで寝付かせる。稽古の時間になると、起こしてしまわないよう静かに部屋を出た。そして自室に戻って動きやすい服装に着替え、中庭へ向かう。




 中庭には、赤髪に白いものが混じり始めた、初老の男性が剣の素振りをしていた。




「師匠、只今参りました。本日もご指導のほどよろしくお願いします!」

「おお来たか。んじゃさっそく、いつもの通り始めろ」

「はい」





 師匠に言われた通り普段行っている流れを始める。初めはストレッチを行い、その後中庭を10分ほど、全力でもなく軽くもない速度で走り続ける。










 私の師匠は、現役を引退した王家の元専属護衛だった人だ。私からすると、お爺様の兄弟にあたる。当時仮契約が終了した後、分家の伯爵家の令嬢と結婚し、次期当主として婿入りしていた。現在は息子に家督を譲り、剣術指南役としてのんびり奥方と生活しているらしい。




「はあはあ、師匠、走り、終えました」




 走り終え、両手を膝につきながら息を整える。昔よりはだいぶ体力がついたようで、息が整うまでの時間が短くなっている。始めた当初は、走り終えると起き上がることが出来なかったのだ。我ながら成長を感じる。




「次は素振りだな。あ、あと今日からは100回ずつな」

「えっ。100回ですか!?」

「そうだ。そろそろ回数を増やそうと思ってたんだ。つべこべ言わずに1度やってみろ」

「・・・わかりました」





 渋々子供用の木剣を手に取る。そして深呼吸をして意識を切り替え、一振り一振り、意識して丁寧に木剣を振るう。


 まずは上段、次に中段、袈裟、逆袈裟、切り上げ、とそれぞれ100回ずつ繰り返す。その様子を、じっと師匠が見つめる。すべての素振りが終わったころにはもうクタクタで、両腕が上がらなくなっていた。真っ直ぐに立ってられず、地面に寝転ぶ。そこに影が落ちてきた。




「よく頑張ったな。お疲れさん」




 傍に来て座り込んだ師匠が、わしゃわしゃと乱雑に頭を撫でる。




「やっぱりお前はかなり筋が良いぞ。1本1本の素振りも意識出来ているし、よく諦めずに100本も振り切ったな!いくら筋が良くても根性がない奴は多い。お前は俺が見てきた教え子の中で一番だ!」





 やばい、泣きそう。師匠に褒められるのは初めてだ。

 師匠は滅多に褒めないことで有名だ。現役時代、お爺様よりも強いと言われていたらしく、バルネリア家の歴代でもトップクラスの強者と言われている。

 そんな人物に我が子を指導してほしいと、貴族たちからの指南役の依頼が殺到したこともあったが、褒めない、稽古がキツイ、とかなんとかで次第に呼ばれなくなったとか。


 今はバルネリア家からしか依頼がないらしい。たまに分家の方から特別指導としての依頼があるかどうか、といったぐらいだそうだ。



 若干うるんだ気がする目を、瞬きして誤魔化す。





「ありがとうございます!これからも頑張るのでよろしくお願いします!」

「ああ、頑張ってついてこい」




 師匠はそれだけ答えると、私の傍の地面に胡坐をかいて座り込む。




「そういえば、お前、そろそろ判定の儀だろう?何が出るか楽しみだな。特に、お前の父親は期待しまくってるんじゃないか?」

「え?判定の儀はそろそろなのですか?」



 いや、師匠。なんで知らないんだよ、とでも言いたげな顔で見られても。知らないものは知らないです。

 私が本当に知らなかったと気付いたようで、呆れたような顔をしながらも詳細を教えてくれた。





「実はな、あと少しで判定の儀が行われるんだ。近いうちに父親の方から話があるんじゃないか?特に今年は特別だからな。確か、お前の専属契約相手の第4王子がいるだろう?王族が判定の儀を受ける年に、同じく判定の儀を受ける伯爵位以上の上位貴族は、まとめて一斉に受けるのがこの国の習わしなんだ。普通だったら誕生月ごとにそれぞれ受けるんだが。それが今度あるってことだ」



 この世界では、5歳になると判定の儀と呼ばれる魔法属性を測る時期があるのは知っていたが、いつかは知らなかった。ずっといつだろうと思って過ごしていたが、なるほど。そろそろなのか。楽しみだ。

 この判定の儀が終わって、やっと魔法の使い方を学べる。属性に合わせた教師を付けるためだ。この方法は魔法習得の効率を上げるためでもあるが、一番は魔力暴走の事故率を下げる為だ。


 昔はよく、魔力暴走を起こした幼児の死亡事故が多発していたらしいのだ。幼い間は魔力のコントロールが上手く出来ないため、最低でも5歳までは、魔力を抑える魔道具を身に着けさせられるようになった。

 私とシゼも、現在ピアス型の魔道具を毎日身に着けている。





「でも、父様が僕に期待してるってどういうことですか?」

「あー、お前、自分の魔力量がどれぐらいあるか知っているか?」

「えーっと。はい。かなり多いってことぐらいですけど」

「そうだ。お前の魔力量は多い。それも尋常じゃない程にな。魔法特化の、あのエルフと比べても多いんだぞ。それに今は成長期だ。まだまだ増える」





 どうやら、私の魔力量は桁違いに多いらしい。全ての生命が魔力を持つと言われているこの世界では、魔力が多いというのは何かと便利だ。




「そして、お前の父親が期待しているのは、なにも魔力が多いからだけではない。お前があの英雄と同じ、3属性持ちの可能性が高いからだ。庶民は1属性持ちがほとんどで、貴族でも2属性持ちが少ないのは知っているな?」




 うん、と頷く。

 この世界の魔法属性の種類として、基本であり最も数が多いのは、四大元素と言われる風・火・地・水の4つだ。そこに上位属性として、雷・植物・氷が加わる。上位属性は、2属性持ちに多い。これら7つの属性に、希少属性として、光・闇の2つの属性がある。

 属性と魔力との関係としては、魔力が多いと強力な属性魔法を扱える。貴族は庶民に比べ、魔力が多い者たちがほとんどだ。その血を繋いできているからか、稀に両家の属性を引き継いだ者が生まれる。そういった者たちは総じて魔力量が多い。

 そしてその属性は、身体的特徴として現れる。バルネリア家に赤い色の特徴を持ったものが多いのは、バルネリア家が火属性の魔法属性持ちだからだ。






「お前の見た目からして、まず間違いなく火属性は持っているだろう。そして魔力量から、母方の属性である、地属性もあるだろうな。そして3つ目だが、お前のその目だ。父様にも母親にもない色だが、その色を持っていた人物がいる。それが英雄と呼ばれている先祖だ。英雄は3属性持ちだったようでな。火、風、光の属性を持っていたんだ。英雄が、英雄と呼ばれる理由となった戦いがあるんだが、当時隣国と戦争中で、相手側の罠に嵌ったんだ。そのため、20人程の少数の味方だけで、千に近い数の大軍を相手どらなければいけない状況になってしまった。そこにいたのが英雄と、聖女と呼ばれる人だった」

「聖女ですか?聞いたことがありません」

「聖女については、ほとんど何も残ってないからな。英雄と共に戦場を駆けて、気付いた時にはいなくなっていたらしい」

「へー。そのような方がいらっしゃったんですね」

「ああ、まあその時、この2人のコンビネーションが凄かったらしくてな。光魔法を目くらましに使い、その隙に火魔法で敵を焼き払い、剣で切り捨て、風魔法で相手からの遠距離攻撃を無効化、英雄が怪我負えば、聖女が治癒。そんな感じで暴れ回った結果、英雄の誕生というわけだ」





 英雄が危機的な戦況をひっくり返し、大勝利を収めたことは知っていたが、そのような話があったとは。今度シゼに教えてあげよう。



「そんな英雄と同じ目の色をお前はしてるんだ。だから3つ目の属性は、風か光の可能性がある。俺的には色からして光だと思うぜ」



そう言って笑う師匠を見上げる。確かにあり得るかもしれない。私も、風か光かだったら光だろうなと思う。べっ甲飴色で風は想像できない。







「あの師匠。それなら、僕と同じ配色のシゼも、光属性の可能性があるってことですよね?」

「シゼルスのことか?うーん、それはどうだろうな。なくはないとは思うが、シゼルスはお前とは反対で魔力量が少ないからな。火属性1つだけの可能性の方が高いだろう。でも判定の儀で調べるまではわからないんだ。あったらラッキー、と思う程度の方がいいだろうよ」






 師匠に色々な事を教えてもらっていると、稽古の終了の時間になった。体を起こして師匠に礼を言った後、汗を流して着替えるために自室へ向かう。

 シャワーを浴びながら、この後の予定を思い返す。昼食時に勝手に決まったあの予定に内心溜息を吐きながら、無心で体を洗う。もう既に疲れているのに耐えきれるだろうか?本当は今すぐにでもベッドに横になりたい。けど、行かないといけない。稽古が終わったことは知っているだろうから、早く行かないと後々大変なことになるかもしれない。



 かなり憂鬱な気分になりながらもシャワーを終え、体を拭き服に腕を通す。濡れた髪を乾かすこともなく、真っ直ぐに姉様の部屋へ向かった。





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