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はぁ?とりあえず寝てていい?  作者: 夕凪
第1章 終わりと始まり 
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1-1 弟は天使

 瞼の裏に明かりを感じ、薄っすらと目を開ける。




 知らない天井だ。




 まさか、この言葉を現実で使う時が来るとは。正確には天井とは言えないけど。なんせ私は今、どデカい天蓋付きのベッドに横になっているからだ。天蓋の裏?天井?が見える範囲のほとんどだ。体を起こそうとするが、全く動かない。体全体が重くて、動かしにくい。あんだけのことがあったんだ。仕方ない。それにしても、よくあの状態で生き残ったものだ。生き残りたくはなかったのだがな。




「dk&%#gfk%dh@kb#$ln」




 うん?なんだ?何語だ?急に聞こえてきた声と共に、こちらを覗き込んでくる巨人の女性。え、巨人!?大き過ぎない!?


 内心パニックになっている間に、女性は私を両手で抱き上げる。抱き上げられさらにパニックになる。



「うぅー!あう!」



 動かしずらい両腕を持ち上げ、下ろすよう訴え、って、ええ!今の声何!?え?私?私なの!?しかも何この手!ちっさ!まるで赤ちゃんの手のひらのようだ。




 そんな混乱状態の私に気付かず、女性はまた何か言いながら、寛げたその豊満な姿を露わにした胸元に、私の口を近づける。私にそんな嗜好はない!と断固拒否したいが、悲しいかな、体が勝手に女性の乳を飲んでしまう。・・・甘くて美味しいな。乳の味は、その人の普段の食生活が反映されるというが、本当なのだろうか?辛い物ばかり食べると、辛い味になるとどこかで聞いたことがある。だとしたらこの人は、甘い物をよく食べているのかな?




「うっぷー」




 どうでもいい事を考えて現実逃避している間に、私のお腹は満足したようで満腹感に満たされる。そして同時に強烈な眠気に襲われ、抵抗の意思を見せつける暇もなく、抗えずに再び眠りに落ちた。



















 右よーし!左よーし!もう1度右よーし!


 私はそろっと部屋を出て、目的の場所である隣の部屋まで向かう。隣と言っても、この邸宅が広すぎて、今の私の足では5分程かかってしまう。そう、“今の”私だ。






 巨人の女性に出会った日から早5年。異世界に、生まれて間もない赤ちゃんとして転生していたのだった。あの日あった女性は、巨人でも何でもなく普通の人間で、この家に仕える乳母だった。


 赤ちゃん目線だったため、巨人に見えていたようだ。初めの頃は違和感が凄かったが、慣れてくるとガリバーの冒険に出てくる、ガリバーが巨人と出会った場面のようで、なかなかに面白かった。


 確かに、初めて自分より明らかに大きいヒトを見たら、驚愕ものだろう。だが実際、あれ程の大きさの差はないと思うが、まあ多少似てるから気にしない。






 現在、私はルーデリオ・バルネリアとして生きている。

 それも貴族の男児としてだ。中性的な整った顔立ち、橙に近い赤髪、薄めのべっ甲飴のような瞳をし、しっかりと健康的な身体つきをしている。前世の私よりも明らかに美人だ。


 ちなみに、今いるこの国はハーデル王国と呼ばれており、私の家であるバルネリア家は、このハーデル王国の公爵家の1つである。特に、武に秀でた一族だ。代々王族の専属護衛をしており、王位継承権争いに一切関与しない、中立の立場を貫いている。






 どうやら何代も前の当主が若くして英雄と呼ばれる程の人物で、当時の王の専属護衛だったらしい。そのせいで次代の王座を巡り、彼を陣営に引き入れようと王宮内がドロドロに荒れたのだ。初めは全ての勧誘を無視していたようだが、家族に手を出す強硬手段に出た者がいたようで、忠誠を誓うのは現王のみで次代に仕える気は一切なく、一族は今後一切の陣営に加わらないと宣言。


 だが、バルネリア家が武に秀でた一族である為、王族1人1人に専属護衛として就くことになった。その為、なるべく王族と年齢が近いバルネリア家の者が幼少期から傍に就けられる。もし、王族全員に就ける子供がいなかった場合は、バルネリア家の分家の者から選ばれることになっている。王位継承権争いに関与しないため、その時の当主が王の専属護衛であるとは限らないのだ。

 このことを、英雄と呼ばれた当時の当主は王の退任と共に国内に宣言し、今に至る。

 

 少々問題がある気がするが、基本的にその次代の当主は皇太子の専属護衛である為、大きな問題にならないだろうと判断された。そのため、バルネリア家は限られた派閥だけとの交流ではなく、様々な派閥の者との交流があるのだ。


 勿論、私にも専属護衛として仕える王族がいるのだが、彼とは主従というよりも仲の良い友人だ。

 彼の紹介はまた今度にしよう。そんなことよりも今は・・・




バンッ!




「シゼ!会いに来たよ!」



 そう、私が向かっていた先である、隣の部屋の主、弟のシゼルスに会いに来たのだ。

 

 シゼは私の一つ下なのだが、誕生日が来てないため、まだ3歳だ。見た目の配色はほとんど私と同じで、少しばかりシゼの方が瞳の色が濃いのである。顔立ちはまだ幼いながらも、将来はモテることが想像出来る爽やか系と言えるだろう。まあ、何が言いたいかと言うとつまりだ、めちゃくちゃ可愛いのだ!前世は一人っ子だったため、弟が可愛くて可愛くてしょうがない。


 因みに、上に兄が2人、姉が1人いる。兄達とは、家族で食事をする時ぐらいしか会わないが、姉とはよく会う。そして、言うまでもなく父も母も含め家族全員美形である。




「りゅーにぃ!」

「おおっと、危ない!急がずゆっくりとでいいんだよ。兄様は逃げないからね?」





 私の来訪を見て、満面の笑みを浮かべて駆け寄ろうとし、転びかけたシゼをさっと近づき抱き留める。私を見て転びかけるほど急いで駆け寄ろうとしてくるなんて、なんて可愛い弟なのだろう。相変わらず、ルー兄と呼びたい様だが舌っ足らずなところも可愛い。思わずぎゅっと抱き締める。




「ルーデリオ様、そろそろシゼルス様を放してあげた方がいいかと」




 暫くしてシゼ付きの侍女に言われ、ハッとしてシゼを解放する。ちょっとばかし困り顔ではあったが、嫌がってはいないようだ。良かった、シゼに嫌われては堪らない。シゼの手を引き、ソファーまで移動する。


 途中、ちらりと扉の方を見たが侍女がきちんと閉めたようだった。開けっ放しにしていると、廊下を通る人が中を覗いて見ちゃうからな。だって、私がここにいることはバレてはいけないのだから。


 ソファーにシゼを座らせ、その隣に腰掛ける。同じタイミングで侍女が私の前に紅茶を、シゼの前にホットミルクを置き、壁際まで下がる。ホットミルクをシゼに手渡し、自分の紅茶に口をつける。




「きょうのおべんきょうは、もうおわったの?」

「うん、終わったよ。シゼに会いたくて、直ぐに終わらせてきたんだ。後は、午後の稽古ぐらいかな?」

「だったら、ごほんよんでくれる?」

「いいよ。どれがいいんだい?」




 喜んで本を取りに行ったシゼを見ながら、早く終わらせて正解だったと頷く。

 普通、貴族の子は5歳になってから家庭教師を付けるのだが、私がこの世界のことを知りたかったのと、シゼに色々と教えてあげ、ルー兄凄い!と思われたかったために、3歳の頃から家庭教師を付けてもらい勉強をしているのだ。そして、午後は勉強ではなく剣の稽古の時間だ。


 これも本当は体が出来ていないため、10歳からなのだが、バルネリア家の者は肉体の成長が他の人間より早く、丈夫であるため5歳からやっている。勿論、無理な稽古はしていない。本格的に修練を行うのは、やはり10歳からなのだ。どんだけ地味な稽古でも、基礎は何事においても重要なものだ。


 だから、3歳の時から邸宅内を探検し動き回り、体力づくりをしていたのはきっと誰にもバレていない。




「りゅーにぃ!このごほんよんで!」




 どうやらシゼが本を選び終えたようである。王国と周辺国家との関係についての本か。良かった。先週授業でやったところだな。知識がある内容の本だったので安心する。まだまだ追い越される訳にはいかない。


 本の内容から分かる通り、シゼが読んで欲しがるのは絵本ではない。たまに挿絵が入っている程度の、文字だらけの本だ。それもきちんと内容を理解しているのだ。可愛いだけでなく天才なのである。所謂、神童というやつだ。流石私の弟!


 だが、このレベルの内容の本の文字をまだ自力では読めないようで、今は私が代わりに読んであげるということが出来るが、読めるようになったらどうすればいいのだろう。一緒にいる口実が無くなってしまう。




 小さく溜息を吐き、首を横に振る。今悩んでも仕方ないと思考を切り替え、シゼとの読書を楽しむことにした。

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