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プリンターを預かろう

今回はヘッドで固まってしまったタイプのプリンターです

長くなってしまうので、前後編で分けます

 EVASON(エヴァーソン)のRX1700F。

 

 業務用4色FAX対応型A3インクジェット複合機。

 トナータイプのコピー機を入れるほどではないけど、A3を印刷する機会が多い。しかも給紙容量もたっぷり欲しい。おまけにFAXまでついてたら完璧という完全ビジネス向けのプリンター。

 ゆえにごつくて重たい。確か25㎏前後だったと思う。

 家庭用の「その辺に置いておいても違和感なく景色に溶け込む」というデザインではなく、ひたすら実用本位の武骨なデザイン。

 例えるなら家庭用プリンターがいわゆる細マッチョとした場合、業務用は格闘家の筋肉といった感じだろうか。


「これが、印刷不良のプリンターですね?」

「はい。父が倉庫に死蔵していたものになるのですが、大学生活で必要になるだろうからと持たせてくれたものです」

 鏡花の友人、鈴城涼(すずしろりょう)さん。

 お父さんが小さな会社を経営しているそうで、買い替えで不要になったものを捨てずにとっておいたらしい。いらなくなったら自分で使おうと思っていたそうで、リースとかではなく自費で買ったらしい


「ねぇ、鏡花。先輩さん格好いいね」

 涼が私に尋ねてくるっす。

「涼、悪いことは言わないっす。先輩はやめておくっす。絶対苦労するっすから……」


 佐藤知明(さとうともあき)先輩。


 私が大学に入学してゼミの部屋で履修登録が分からなくて困ってたら、「新入生にはわかりにくいかもしれないな」って言いながら助けてくれたっす。先輩いわく「かわいい子が困ってたら助けるのは当然だろ」って言ってったすけど、今思えば絶対私のパソコンのことっすね……。

 はっきり言って先輩は変態っす。残念なイケメンって言葉はたぶん先輩のためにある言葉だと思うっす。

 一度大学に3日くらい来なくて心配して家に行ったら、バラバラにしたパソコン抱いて寝てたっす。さすがにドン引きしたっすね……。

 先輩いわく「抱き枕抱くのと何が違うんだっ!!」って言ってったっすけど、何も言わずにしずかーに扉閉めて帰ったっす。

 

 他にもプリンターに話しかけたり、キーボードとお風呂に入ったり、大学の教科書を電子レンジでチンしたりと先輩の奇行は枚挙にいとまがないっす。

 こんな変な先輩に付き合えるのは私くらいのもんっすね。ほかの人だと多分一日持たないっす。



「……ヘッドクリーナー2回、改善無し」

 これは弱ったぞ。完全にヘッドがガッチガチに固まってやがる。

 RX1700Fのインクはヘッド分離型。個人的には業務用こそヘッド一体型にしておいてほしいと思ってる。こうやってトラブルが発生したときに交換で治るのと、メーカー修理になるのとでは業務の継続を考えた場合、明らかにマイナスになる。

 動作音は問題なし。倉庫に収めてあったときに何かがすれてついたであろう傷以外は、目立った傷のようなものも見当たらない。ついでに動作音も異常な音はしない。

 エラーコードも表示されておらず、スキャンは正常にできる。ということは、おそらくヘッド部分でのインク詰まりであると考えていいだろう。

 そこまでわかれば後は簡単だ。ヘッド部分に固まってしまっているインクを取り除けばいい。

 ただし、そんな簡単に取り除けるものではない。


「すみません、この機械ではFAXを使用されていますか?」

「いえ、使っておりません。A4の印刷と、時々A3の印刷をする程度です」

「では、緊急で何か印刷されるようなものはありますか?一応、A4のみ印刷可能ですが代替機はお持ちしております」


 ……このプリンターをここで治すのは無理だ。

 これから行おうとしている作業は下手をするとインクを大量にぶちまける可能性がある。

 それをこんな毛足の長い白いカーペットのそばでやる勇気は俺にはない。おまけに壁紙も真っ白でぬいぐるみもいくつか置かれている。

 そんな「女の子の部屋」でヘッド洗浄を行う勇気は俺にはない。


「こちらは持ち帰らせていただきまして作業させていただきます。作業終了後にご返却に改めて伺わせていただきます」

「わかりました。料金は?」

「修理完了時にご請求させていただきます」


 さて、クリーニング剤の残りあったかな……。通販で追加を買わないとな……。

 まずは、この25kgの精密機器の塊を家まで持ち帰らないといけない。それに、印刷もできるように設定をしないといけないし。

「鏡花、お前印刷できるように設定してやれ。俺はこいつ車に積んでくる」


 ……さぁ、すごく時間のかかる作業のスタートだ

第5話にして明らかになる主人公の名前

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