インクの詰まりを直そう(イージーモード)
今回はおそらく需要が高いであろう、インクジェット式プリンターの修理(?)になります。
難易度は一番低い修理になります。(というか、修理というレベルですらない)
あと、ヒロイン出ます。
「おーい、せんぱーい、あけてくださいっすー」
大学までは車で30分。10時までにつけば余裕だってのにこいつは朝の8時に来るなよ……。
俺は最大限の「嫌そうな顔」を作りながら鍵を開ける。
「あ、せんぱいおはようっす」
「……お前、今朝8時だぞ。近所迷惑考えろよ」
花村鏡花。
大学の後輩で、同じゼミの1年。
童顔低身長のくせに無駄に胸が大きい。一回聞いてみたらEカップだって言ってた。でかい。
なんか知らんけど、一回パソコンの調子が悪いっていうのを見てやったらなつかれた。
「で、鏡花君。朝の8時です。こんな早くっから人の家に来るって何考えてるんですか?」
俺はできる限り「嫌そうな声」を作って、鏡花に尋ねる。
「いや~、先輩。うちのプリンター壊れちゃいましてね。お借りできればと~」
「は!?新品だろ。なんで壊れんねん」
ジャンク・中古品好きとしては許せない一言を聞いてしまった。あまりのショックに口調が崩れる。
とりあえず落ち着くために鏡花の頭にチョップをしよう。よし、だんだん落ち着いてきたぞ。
壊れたといわれても原因がわからなければ対処のしようがない。だから俺は、「症状」を尋ねる。
ちなみに鏡花が持っているプリンターはUddmar&Pachman社製。通称UP社のENWY4500。「レポートの印刷が出来て、安いの欲しいっす」って言われたから、まだ中古品に詳しくなかった頃に、新品で2台買って死蔵してたやつを譲った。
ちなみに高校のころから使っていて、一回も壊れたことがない。フリマサイト見ると俺が買った時よりも高い価格で売っている例もあった。はっきり言って名機。
「インクが出なくなったっす。まだ残量はあるはずなんすけどね」
「……では、鏡花君質問です。インクの交換は試しましたか?予備インクがないと言うのは許しません」
頭を押さえながら「ひどいっすよ~せんぱい~」とか言ってる鏡花に聞いてみる。
プリンターのインクが出なくなる原因は大まか分けるとに2つ。
一つは単純にインク切れ。これは交換すれば治るから別に故障とかではない。ただ、せっかちな人だとまれに「壊れた」と言って処分してしまう。俺みたいなやつにとっては、はっきり言って「棚からぼたもち」っていうものだ。ありがたく回収させていただく。もったいないから、一度インクの交換は試してみたほうがいいよ。
もう一つはいわゆる「年賀状専用」状態になっている場合に多いインクの固着。中古ショップにジャンク扱いで売っている奴で「印字不良」となっているのは大体これの場合が多い。裏を返すと固着さえ治ってしまえば普通に使える場合が多い。俺みたいなジャンク好きにとってはねらい目の機体だったりするので、よく目を光らせている。
本当にごくまれに完全にぶっ壊れていることもある。ただその際はエラーメッセージやLEDが変な点滅の仕方をするので「見ればわかる」ようになっている。基本的には個人で治すのはあきらめて、メーカーに出したほうがいいよ。せっかく治るのにトドメさすことになるから。
俺みたいなジャンク好きはまず手を出さない。メーカーのサービスマンがサービスマニュアル片手に直すようなレベルは素人には手に負えません。
今回、鏡花は「インクが出なくなった」「残量はまだあるはず」と言っていた。このことからおそらくインク切れではなさそうという推測ができる。では、インクが詰まったと仮定して考えてみる。
インクが詰まる原因は「ヘッド」と言われる部分で、インクの固着が起きていることがほとんどである。すごく細かい穴から名前の通り「ジェット」のようにインクを噴射させる。
いや、間違っているのを承知であえてわかりやすく言うのであれば、「霧状にして噴射している」といえばいいと思う。
とにかく、インクが噴射される穴はものすごく細かいということをまず抑えてほしい。
では、具体的にどうやったらつまりを解消できるかというのを考えていこう。
インクジェット式プリンターの場合「ヘッド一体型」と言われるものと、「ヘッド分離型」と言われるものがある。
それぞれのメリットとしては「ヘッド分離型」のほうが一般的にインクの容量を大きくできたり、カートリッジ自体を小型化しやすいというメリットがある。反面インクが詰まった時は非常に面倒である。
このタイプが詰まってしまった場合には「ヘッドクリーニング」を行い改善するかをテストする。それで改善がみられるようであれば症状が出なくなるまでやるか、適度なところであきらめて使うという形になる。ただし、インクがものすごい勢いで減ってしまうので要注意。
それでだめな場合、自分で治す自信がなければメーカー修理を依頼したほうがいい。ただの印字不良ごときのプリンターに、トドメを刺してしまい買い替えになるよりは安く済む。もし、自力で治そうとする場合には徹底的に情報を調べてからやったほうがいい。使えなくなっているプリンターが壊れるだけならまだいい。大けがをしたり、最悪死んだりする。
もう一つの「ヘッド一体型」のほうは、インクの容量が小さくなりがちなので大量印刷する場合には不向きなことが多い。しかし、ヘッドが詰まった場合の対処がすごく簡単である。ぶっちゃけた言い方をすると、カートリッジを交換するだけで治るのである。
そしてENWY4500は「ヘッド一体型」である。鏡花があんまりこういったプリンターに詳しくなさそうなので、万が一の対処が簡単ってこともあってこれにしたわけだ。車で5分の距離とは言え、たびたび呼び出されるのは勘弁だからな……。
要するに今回のパターンでは、わざわざ俺に泣きつかなくてもインクカートリッジの交換だけでインク詰まりが治る可能性がとても高い。もちろん予備のインクを持っているのが前提だけど……。
……しゃーない、光学ドライブ買うついでに買ってきてやるか。それで治んなかったら、今ちょうど修理してるプリンタがあるからあげればいいし。
人のプリンターで印刷を終わらせ、ステープラーで留めてクリアファイルに収めている鏡花。別にいいけど、そのクリアファイルは返してくれるのだろうか……
俺はそんなくだらないことを考えながら、出かける準備をする。と言ってもSDカード1枚とクソ重いパソコン1台、あと免許証と鍵。これを雑にビジネスバックに放り込む。
……おっもい。早いとこあっちのパソコン治そう。多分5kgくらいあるんじゃないか?
「あっ!!まってくださーい、せんぱーい。おいてかないでー!!今日提出しないと留年なんすー」
鏡花が鞄にレポートをしまいながら追いかけてくる。
……置いていくのも面白いけど、さすがに可哀そうだから一緒に行ってやるか。
「ほら、帰り電気屋寄るから車で行くぞ。早く乗れ」
パソコンも治さないとだし、今夜は眠れないな。興奮してきたぞ。
この後、インク交換したら治ったそうです。