表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/327

100 閑話 人形姫

○ 17 勇者セインとアベルの家族に出てくるお姫さまの話です。


 聖剣を抜いて私の夫となった勇者セインの子供を妊娠している3人の女性冒険者達が謁見の間に居る。


 私……人形姫と呼ばれる第15王女のシャルロットは、王家の戒律に(のっと)って、冷たく言い放った。


「庶子は、禍根を残します。勇者さま、王族に迎え入れるために、庶子を母親ごと、処分して下さいませ」


 私は、人の感情を持たない……王家の言いなりの、冷たい人形……。


 3人の女性冒険者達のひとり、魔法使いが杖を振り上げ、転移の魔法の呪文を叫ぶ。


 ……無駄なことを……。


 王城には、幾重にも張られた魔法結界が存在する。


 ありふれた転移の魔法なんかで、簡単に侵入や逃亡を許す王城など、存在しない。


 だが、私は、とっさに結界に干渉して、3人の女性冒険者達が逃げる穴を作った。


 幾重にも張られた魔法結界には、相互に干渉する狭間が存在する。そこに(いざな)ったのだ。


 消え行く3人の女性冒険者達の姿に、無事を祈った。


 最初は、本気で見捨てるつもりだった。なのに土壇場になると、たとえ王家を裏切っても、新たな命を宿す大切な命を、見殺しになど出来なかった。



 私は、セインの強い要望で、妻になった。


 勇者となったセインは、私の体と政争に夢中になって、魔王討伐に行かなかった。


 魔王の復活は、まだ、完全ではない。


 今のうちに、魔王の討伐は成されなくてはならないのに、セインは、肉欲と支配欲に溺れた。


 魔王軍の攻勢が苛烈になった時、セインが言った。


「良いことを思い付いた。シャルロット、お前、魔王のダッチワイフになれ」


 私は、魔王の元に贈られ、慰みものとして生きることになった。


 魔王は、私の体に夢中になった。


 部下に任せっぱなしにして、戦争にも行かず1日中私を抱いた。


 もう誰も、私のことを人形姫とは、呼ばなくなった。かわりに侮蔑を込めて『ダッチワイフ』と呼んだ。


 戦争は硬直化し、小競り合いばかりとなって、長期化した。


 私は、なんの感情も持たない冷たい人形……。


 ただ、黙々と、王族の務めを果たすだけ。


 魔王を骨抜きにして、政治を撹乱する使命を果たすだけ。


 私は、魔物が活発になる夜中抱かれ、朝に解放される。


 側仕えに助けられ、身を清め、服を着替えて、泥のように眠る。


 起きると、側仕えが用意した、王城での生活でも食べることが出来なかった美食を食べる。


 美食だが、側仕えが、気を遣って、体に優しい料理を出してくれる。また、美食ゆえに、疲れきって食欲の減衰した私でも、苦もなく食べられた。こんな境遇でありながら、優しさと、人の温かさ……幸せを感じた。


 ……救われた。


 食べ終わると、側仕えに手を引かれ、物置の奥にある秘密のドアをくぐる。


 そこは、暖かい光と優しい空気に満ちた、宝石細工のような光輝く海の海岸に建てられた屋敷。


 魔界には、レベルが上がって、人の枠を超えて常識を逸脱した者達が住む国があると、聞いたことがある。


 きっと、ここがそうなのだろう。


 屋敷には、友達になった、聖女であるクレアが、待っていてくれていた。


 クレアは、いつも、乱暴な魔王によって傷ついた体の傷を、奇跡で癒してくれる。


 ……心も。


「安心して下さい。性病にも感染していませんよ」


 ハッキリと、クレアは、性交を慣わしにする私に、安心をくれる。


 やがて、足音が響き、友達のキサラ、アリス、イリス、エミリーが、ティーセットを持って来てくれる。


 一緒に入って来た側仕えは、ワゴンにスイーツをいっぱい載せていた。


 みんな、それぞれ忙しい身分らしいのだけれど、同時存在の魔法で、わざわざ来てくれている。


 アリス、イリス、エミリーは、セインの子供を妊娠していた女性冒険者達だ。


 私が、結界に抜け穴を作ったことを、側仕えに教えられてから、急速に仲良くなった。


 みんなで……側仕えは、給仕の時以外は、キッチンに引っ込むけど……楽しくお茶をして、いつものように、魔王から……王家からも逃げ出すことを求められる。


 ありがたいけれど、私には、王家の務めを放棄することが出来なかった。


 今日も、友達に泣かれて、側仕えと共に魔王城に戻る。


 この側仕えも、不思議な存在だ。


 いくら聞いても、名前が覚えられず、顔も記憶できない。


 そして、それを異常だという疑問を持たせない。


 まるで、神をも超えた大きな力に阻まれているかのようだ。


 まるで、誰も気にしない空気のように、自然にそこに居る側仕え。


 ただ、必要な時には、必ず、側に居てくれる。そして、助けてくれる。


 いつしか、私は、この側仕えに、心惹かれていた。


 ……この想いを打ち明けることは、決してないだろう。私ほど汚れた女も居ないから……。


 そして、月日は流れ……。


 私は、魔王の子を身籠った。


 避妊の魔法道具も、完璧ではなかったのだ。


 妊娠が明るみに出た時、魔王の前で、大臣が言った。


「人との子は、禍根を残します。魔王さま、子を母親ごと、処分して下さいませ」


 魔王……そして、幹部が、一斉に襲いかかって来た。


 私は、お腹の赤ちゃんを庇ってうずくまった。


「やめて……! 私の赤ちゃんを殺さないで! 私は、どうなってもいいから!」


 迫る魔物の群れに、突然、炎の渦が、吹き荒れた。


 それを目隠しにして、突然現れたイリスとエミリーが、私を抱き上げて逃走する。その後ろを、アリスが駆けてくる。先導するのは、側仕えだ。


 秘密のドアをくぐって、その先で、斧を手に持ったキサラとクレアが待ち構えていた。


 そして、私達が出ると、斧でドアを完全に破壊して、魔王城との繋がりを切ったのだった。



 私は、赤ちゃんと2人で、海岸の屋敷で暮らし始めた。王家にも生存を秘密にして、戻らなかった。


 ……マーサさんという、優秀な家政(火星)婦が数人ついた。側仕えも、変わらず側に居てくれてる。……嬉しい……幸せ。


 刺繍と詩吟……そして礼儀作法の教師として身を立てた。


 キサラ、クレア、アリス、イリス、エミリーには「私達と同じラプアシアのアゼル男爵の第6婦人にならない?」と誘われたが、丁重にお断りした。


 想いを告げることは、きっと、一生ないでしょうが、私は、側仕えが好き……愛してる。もう、私は、彼以外には、誰とも一生一緒にはなれない。


 そうそう、やっと、側仕えの名前を覚えた。


 彼の名前は、アベルと言う。

 海岸の屋敷があるのは、魔界ではなく、隠れ里アムリアです。シャルロットの勘違いですね。

 シャルロットは、魔王さえ狂わす魔性の女です。ですが、男達は、身の破滅を予感して、長短あるものの、やがてシャルロットを遠ざけます。セインがシャルを魔王に贈った意図は、時間稼ぎです。なお、結婚相手をシャルに選んだのは、セイン自身です。激しく求められるのに、いつも捨てられる……シャルは、そういう経験を重ねた女の子です。仕事もせず学校も行かず、えっちばっかりになってしまうんですよね、やるべきことが、全然、出来なくなる。シャルは、意図せず、男を破滅させます。

 アベルがシャルを助けたのは、アリス達を助けてもらった恩返しです。シャルには気の毒ですが、アベルが好きなのはアリス達であって、シャルではないのですよね。でも、命を助けたことに責任を感じて、一生助けるつもりです。シャルが、アベルがアゼル男爵の同時存在であることに気付いてしまったら、どうなるでしょうね? 様子を見て、流れに任せたいと思っています。アベルの妻達は、早かれ遅かれ、シャルが仲間入りすると考えています。アベルは情が深く、やがて情に流されると思っているのですよね。

 アベルは、知という概念の支配者です。知りたいことを、なんでも知ることが出来ますが、同時に、知りたくないことは、知らずに済むことが出来てしまいます。だから、時々、アベルは、とんでもなく無知だったりします。この場合でも、アベルはシャルの魔性に感知せず、肉欲に溺れないで済んでいます。自らの魔性により、性欲処理を求められ続けた女性が、唯一愛したのが、自分に性欲の処理を求めない……異性として求めない男性でした。これは、皮肉でしょうか、それとも必然でしょうか? 繊細なアベルは、シャルの魔性と、非常に相性が悪いから、きっと、シャルが追い求めても、アベルは逃げるんじゃないかな? ……ちょっと書いてみたいかも。

 流れによっては、後日談を書くかもしれません。シャルはともかく、シャルが産む子供には、書きたいエピソードがあるのですよね……。


2020年10月13日 ストーリーの矛盾を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ