98 閑話 ワードレス
「どうして、そんなに優しいの……?」
炊き出しの夜営の焚き火の側で、あたしはアベルに、そう聞いていた。
……アリスみたいなこと、言っちゃった。
あの子は、思ったことを、なにも考えずに、ストレートに相手にぶつける。
それで、いつもトラブルになる。
よくセインに怒鳴られて殴られてたっけ……。
あたしらしくないな……。
反省したが、それで、外に漏れた言葉が元に戻せるわけがない。
あたし達、アリス、イリス、エミリーには、拭いきれない負い目と、劣等感……罪悪感がある。
どこかで……「あたし達には、愛される資格なんかない」と思っている。
だから、聞いてしまった。
どうして、アベルは、こんなあたし達に、こんなに優しくしてくれるの?
○
アベルは、あの時以外は、決して女の子を触らない。
セインみたいに、無遠慮に、女の子の敏感な部分を、触ったりしないのだ。
ただ、優しく触れる。
今も、手の甲……指の背中で、そっと……頬に触れ、優しく撫でてくれた。
ねぇ……アベル?
それって「愛してる」って言ってるようなものだよ?
100万回「愛してる」って、言葉で言うより「愛してる」だよ?
今回だけじゃない、こんなアベルの、何気ない仕草に乗って、アベルが、どれだけあたし達を愛しているかが、心に直接伝わってくる。
何気ない仕草に、アベルの心が透けて見える。アベルが、どれだけあたし達を大切に想っているかが、見えてしまう。
エミリー、大好きだよ。
エミリー、愛してるよ。
そう、言葉じゃなく、伝わる。
あたし達に、そんな、大切にしてもらう価値なんかないじゃない!
「どうして、そんなに優しいの……?」
アベルは……考え込んでしまった。
ずいぶん……真剣に考えてる……。
「だって……体が勝手に動くんだもん……やろうと思ってやってるんじゃないよ? わざとじゃないよっ? エミリーの可愛い頬っぺが目の前にあったら触るのが当たり前じゃんか、ボクは悪くないよっ」
考えた末が、そんな子供の言い訳のような言葉だった。
可愛いと言われて、頬が緩んだ。
それって、つまり……。
意識より、もっと深いところから来てるってことよね?
感性を道しるべに、アベルの本心をたどる。
直感が、アベルの本音を掴む。
すとんと、納得が深い安堵と共に、腑に落ちる。
アベルにとって、あたし達って、自分の命と同じくらい大切なんだな……。
あたしは、理由を問い質すことを、やめた。
言葉で、答えを求めることをやめた。
アベルに、このことで、返事をもらうことを、あきらめた。
だって、もう、言葉じゃないよ。
言葉じゃ届かない……もっと高い尊いところに、アベルの愛があったから……。
きっと、アベルの愛は、自由より高いところに……そして理由よりも深いところにある。
あたしは、焚き火の側で、座り直した。
もっとアベルの近くに座った。
全てを捧げるように、身を預けた。気がつけば、心も体も、この人の虜になっていた。
あのね、アベル……。
あたしも、心と体の根っ子から、あなたに……恐ろしいほど強い力で、引き寄せられてるよ?
こんなあたし達だけど……愛してもらっていいですか? あなたの優しさを、受け取ってもいいですか?
もう、あなたから離れるなんて、身が引き裂かれても無理だから……。
○
アベルは、無言だった。けど……どんな言葉よりも、愛に充ちていたように思った。
全てが、すでに許されていて……あたしの全てが、すでに認められていて、受け入れられている。
あたしの全部を、すでに受け取ってくれている。
そして、アベルは……受け取ったあたしの全てを、優しさで包んでくれているんだね。
○
あたしも、なにも言わなかった。
でも、お喋りしているよりも、いっぱい話した気分になった。
言葉で話すよりも、ずっと通じあった気持ちになった。
まるで熟年夫婦みたい……。
ウフフっ
ちょっと笑ってしまった。
この幸せ……ちょっと、くすぐったいよ。なんて気持ちいいんだろう……。
ああ……今夜も月が綺麗だなぁ……。




