94 閑話 カウンセラー、エミリー2
「エミリー、ちょっと相談というか……愚痴を聞いて欲しいんだ……いいかな?」
エミリーは、嫌な顔ひとつせず、軽く答えてくれた。
「うん、いいよ。なんでも言って」
いつも、エミリーは、ボクの愚痴を、迷惑そうな顔をせず、決して取り乱さずに……混乱も動揺もパニックも起こさずに、ただじっと最後まで聞いてくれる。
それで、その後に、ボクが求めたら、感想や考えを述べて、提案をしてくれる。
エミリーは、簡単に悲しんだりしない。
それが、とても助かるんだ。
愚痴って、時、人、場合を選ぶからなぁ。
エミリーには、しんどい時に「しんどい」って言えるんだよね。
だって、エミリーには、ボクの「しんどい」が感染しないから。
悩みの相談や愚痴を聞いてもらう時、心配させたり悲しませたりするのが、一番辛いからなぁ。
エミリーって「悩みや愚痴は言葉にして心の外に出てくれば成敗できる」って思ってるみたい。
だから、エミリーには、ボクの弱味を見せることが出来る。なんでも話せる。
信頼と実績のエミリーである。
ボクは弱音を吐いて、話し始めた。
「優しくしても、なにも変えることが出来なかった子に「君の優しいところが好きだよ」って、気休め言っちゃったんだ……」
「それのどこが悪いの?」
エミリーがキョトンとして、ボクに聞いた。
「その子……自分の優しさが、とことん嫌になってたみたいで、ボクの気休めに、嫌悪感を顔に出してた……イヤな気持ちにさせちゃったなぁ……」
「その子をイヤな気持ちにさせちゃったことを、アベルは悪いことしたと思ってるのね」
「うん……」
「その子のことが好きなのね」
「うん……」
「アベルは、その子の、どこが好き?」
「……優しいところ」
「アベルは、その子の優しいところをなくして欲しくなかったんじゃないかな?」
エミリーの、その言葉に、アベルは、ハッとした。
「そうだよ! そうなんだ、その子に優しさを捨てて欲しくなかったんだ! だからボクは、2回も「君の優しいところが好きだよ」って繰り返して言ったんだ」
エミリーは、ボク自身ですら気付けないボクの本音を聞き出してくれる。
本音を見つけてくれて……認めてくれて、安心させてくれる。
エミリー、凄い!
「2回目に「君の優しいところが好きだよ」って言った時に、その子は、どんな顔をしてた?」
アベルは、少しだけ考えて言った。
「しょうがない人を見る目で、ボクを見てた」
エミリーは、クスリと小さく笑ってしまい「ごめんね」とボクに謝った。
「大丈夫よ、アベルの思いは、きっとその子に届いてるわ」
「そうかなぁ……」
「アベルは、その子に嫌われたくないのね」
「……うん」
「でも、たとえ自分が嫌われても、優しさを失って欲しくなかったんだね」
「……うん」
「アベルは、その子を愛しているのよ。でも、アベルのことを、その子に好きになってもらおうとして愛したのではない……その子がその子自身を好きになってもらいたくて愛したのよ。アベルは、その子から愛をもらおうとしたのではなくって、アベルは、その子に愛を渡したのよ。それはその子の優しさ以外の愛だわ。きっと、アベルは、その子に、優しさ以外の愛を教えてあげたのよ」
与えてもらう愛ではなくて、与える愛を見せた。
優しさを奪われ続けたその子は、優しさを与えられる経験を得た。
「……そうかなぁ?」
「そうよ! きっと、その子に、今は、嫌われても、きっと後になって、今よりずっと好きになってくれるわ、あたしが保証する!」
自信満々に胸を張るエミリーの姿に、ボクは、やっと、笑った。
「それで……その子って美人?」
どこか浮気を疑うジト目で、ボクを見る。
「将来は、間違いなく美人になるだろうね」
「その子って、いくつ?」
「5~7歳くらい?」
その言葉に、エミリーはホッと胸を撫で下ろした。
「その子の名前は?」
「ソユーラ」




