93 閑話 またやっちゃったアリスちゃん
すみません、短いです。
「キサラ! クレア! 助けて!」
リビングでくつろぐ二人にアリスが泣きつく。
「どうしたの? アリス」
「なんでも言って下さい」
キサラとクレアが、幼子をあやすように、アリスを抱き締めて優しく言った。
「あたし、また、アベルにキツイこと言っちゃったの! アベル、怒らなかったけど、あたし……素直になれなくて……お願い、あたしの代わりに謝って来て……」
と言って、震えて泣き出した。
「大丈夫よ、アリス」
「私達に任せて下さい」
キサラとクレアが、アリスを抱き締めてよしよしする。
アリスのケアをイリスとエミリーに任せて、キサラとクレアが、アベルの好きなお酒を持って、夜の執務室に向かう。
アリスは、キサラとクレアの頼もしい背中に、祈るように手を合わせて見送った。
○
帰ってきたキサラとクレアに、アリスが迫った。
「アベル怒ってなかった? ……あたしのこと嫌いになってなかった?」
キサラとクレアが、お互いの顔を見合わせて、言った。
「アリスって酷いって言ってたわよ。でも、「アリスが本当のことを言ってくれるから、ボクは真っ直ぐに生きて行ける」って言ってたわ……」
「アリスに伝えてくれって伝言を頼まれました。「本当のことを言ってくれるアリスが、ボクには有難い」って。そして、深く頭を下げてこう言われました。「アリス……いつもありがとう」って……」
それを聞いて、イリスが感心したように呟いた。
「アベルらしいや」
エミリーが、感心のため息と共に言った。
「おっきいなぁ……アベルって」
アリスは、安心して、泣いてしまった。
やがて、落ち着いて、アリスがキサラとクレアに言った。
「いつもゴメンね……手間をかけさせて……」
アリスの殊勝な言葉に、キサラとクレアは、申し訳なさそうに、頭を下げた。
「アベルがね……」
「私達に言って下さった言葉があるのです……」
キサラ……クレア……いつもありがとう。
二人の優しい嘘に守られているから、アリスの厳しい真実に耐えることが出来る。
キサラとクレアがボクを守ってくれるから、ボクはアリスを守ることが出来る。
キサラとクレアが、オブラートに包んでくれるから、アリスの厳しい真実っていう薬を飲むことが出来る。
○
厳しい現実に生きる大人ですら、真実に生きることを忌避する。真実に生きて生還できるのは、大人ではなく子供なのだ。
○
キサラ……クレア……ボクの……そして、アリスの味方で居てくれて、本当にありがとう。
キサラ、クレア……愛してる。
アリスとイリス……エミリーにも伝えて「愛してる」って……。
○
「俺達って……アベルに愛されてるよな……」
「あたし達だって、アベルを愛してるもんっ」
「……また、プレイで、お尻叩いてもらお……」
「抱かれたい……」
「幸せいっぱいです」
厳しい真実を告げられるということ……叱られるということは、反省するということ。反省するということは、生き方を変えるということ。生き方を変えるということは、今までの自分が一度死んで、新しい自分に生まれ変わるということだ。今までの自分が死ぬということは、辛く苦しく悲しいことなのだ。それを真っ直ぐに受け止めて生きていくことは、大人の方が難しい。一度は完成した自分を捨てなくてはいけないからだ。自分を完成させるのは、大変だったんだぜ? それを捨てるなんて出来ないよ。だって自分の今までの人生を否定するということだもの。今までの自分の人生が間違っていたということだもの。アベルにそれが出来るのは、自分が、まだまだ未熟者だと思っているからだね。アベルは、いつも言っている。「俺なんて、ろくなもんじゃない」「でも、素敵な妻達に相応しい男になりたい」
キサラとクレアがついた嘘は「カレラ、オードリー、ウェンディはアベルの子供」血の繋がりという真実で話すなら、カレラ達は、アベルの子供ではない。それを「アベルの子供」と言いきってしまえるところが、アベルを……アリスとイリスとエミリーを幸せにする。まあ、ある意味嘘ではないしね。育ての親が親じゃない道理がない。産みの親より育ての親の方が愛されるしね。そういう意味で、アベルが、父親だと言いきれるのだ。まあ、こういう風に、理由なんていくらでも後付け出来る。大切なのは、アベルが……キサラ、クレア、アリス、イリス、エミリーが、カレラ達のことが大好きだということだ。アベルは「守ろうとして体が勝手に動く」と言っているけどね。妻達と子供達は、アベルの命だから。アベルは、どうしようもなく、保護者なのだ。どうしようもない保護者ではないと思いたい。
エミリーが「アベルって、おっきい」と言うのは、真実を受け止めて自分を改めることの出来る度量を感じているからです。アベルって、真実を指摘されても、逆ギレしたり怒ったり、絶対にしないんだよね。ただ、自分自身を振り返って反省する。……思うところがまったくない訳じゃないみたいだけど。「聞いてよ、アリスって酷いんだよ、ボクだって頑張ってるのに」と、キサラとクレアに泣きつくくらいには、思うところがあるみたい。キサラとクレアは、そんなアベルが可愛くてしかたがない。同時にアリスのことも、可愛くてしかたがないみたい。キサラとクレアは、大人だなぁ。アベルとアリスの間に立って、クッションになってくれる。有難い。
短期的に言えば、優しく甘えさせてくれる人が好かれるが、長期的に見れば、厳しく叱ってくれる人の方が好かれる。だからクレアは「アリスが一番アゼル様に愛されている」と言うのだ。大人になると、本当のことを言ってくれる人って、本当に居なくてね。自分を見失いそうになる。自分を糺すことが、本当に難しくなる。老害化してしまう。子供って、遠慮なくズバズバと本当のことを言ってくれるから好きなんだよな。
と、いうことを、後書きではなく、作品の中で伝えていければいいのですが……すみません、力不足です。
お知らせです。拙書である『精霊使いの身の丈世界探索』の執筆と、行きつけの酒屋の社長さんに、飲んだお酒のレポートを書きたいので、少しだけ更新を休みます。悪しからず、ご了承ください。




