91 閑話 元スラムの住人アンナ
○ スラムの住人ウィルの後日談です。妹のアンナ視点。
アンナ達の家族は、エリスお姉さんとアベルお兄さんに助けられて、ラプアシアで暮らすことになった。
ラプアシアでは、驚きの連続。
まず、お母さんが生き返ったの!
もう、なんて言っていいんだろ? 奇跡ってあるんだ。
聞いた話、偉い僧侶さまや神官さまなんかは、魔法で死んだ人を生き返らせることが出来るらしいの。
凄い! 素敵! 大好きなお母さんを生き返らせてくれて、ありがとう!
アンナ……絶対、将来、死んだ人を生き返られることの出来る僧侶になる!
そして、恩返しするんだ!
○
ラプアシアでの、アンナの仕事は、シズレさんの、お手伝い。
シズレさんの、お仕事は『ハウスキーパー』
住んでいる家を清潔に保つんだって。
仕事の内容は、家事全般。
そして、栄養失調で動けなくなった、お母さんの介護とリハビリ。
……リハビリって、なに?
具体的には、お母さんの体を、お湯で濡らした布で拭いて綺麗にしたり、お母さんの体を縮めたり伸ばしたり捻ったりして、体が固まって動かなくならないようにするんだって。そして、小まめにご飯……お粥を食べてもらって体を作るんだって。今のお母さん、痩せてガリガリだものね。餓死寸前どころか、一度、餓死したくらいだもの……。本当に生き返って良かった。エリスお姉さん、アベルお兄さんありがとう。
シズレさんと一緒に、お母さんのリハビリをするの。
シズレさんは、嫌な顔ひとつせず、お母さんのリハビリをアンナと一緒にやってくれる。まだ7歳で力の弱いアンナだけだったら、絶対に無理だったよ。
聖霊様って、優しい。シズレさん……ありがとう。
ラプアシアに来て、アンナは何度、ありがとうって言っただろ?
○
ラプアシアに来て3日後……。
いつものように、お母さんにお粥を食べてもらった後、それは起こった。
「アンナ……ありがとう、美味しかったわ」
微かな声だけど、お母さんが喋ってくれたの!
涙が溢れた……涙が止まらなかった。
「おがあざあぁぁん!」
アンナは、お母さんに抱きついた。そして、泣いた。お母さんが、そんなアンナを優しく撫でてくれたの。
嬉しい……こんな幸せ……知らないよ。
シズレさんが、ウィルお兄ちゃんを連れて来てくれた。
「ウィル……苦労をかけて、ごめんね……」
お兄ちゃんは、どう喜びを表現していいか分からなかったみたい。涙を流して立ち尽くしていた。
でも、お母さんに呼ばれて、ようやくお母さんの胸に抱かれて泣くことが出来た。良かったね、お兄ちゃん。
○
お母さんは、1週間後には、体を起こせるようになり、3週間後には歩けるようになった。
体もふっくらしてきた。
それを見て、お兄ちゃんと二人で、泣くほど喜んだ。
そして、3ヶ月後……。
とうとう、お母さんは、働けるようになった!
農家の家庭菜園のお野菜を仕入れて、都市アゼリアの市場で販売する露店商を開いた。
元々、お父さんが商人で、お母さんもそれをずっと手伝っていたから、商売に慣れていたの。
美味しいお野菜は、断然、魔法で合成したお野菜だけど、家庭菜園で採れた野菜には個性があって、一部のお客さんに大人気。商いは順風満帆。我家は裕福になった。
○
アンナは、時折、不自由がないか様子を見に来てくれるエリスお姉さんとアベルお兄さんにお願いして、神聖魔法と棍術の手解きをしてもらった。
エリスお姉さんみたいな素敵な女性になりたいの!
どんな厳しい修行も頑張れた。
でもこれ、アンナだけじゃなかった。
アンナと同じように、スラム出身の女の子全員が思ってたみたいで、お隣のマリーお姉さんも、近所のセリーナも、スラム出身の女の子全員がエリスお姉さんに弟子入りした。
そして、時が流れ……みんな、エリスお姉さんみたいに、炊き出しに行ってスラムの人達を助ける仕事に就いた。もちろん、アンナもっ。
そんなある日、マリーお姉さんに相談を受けた。
「ウィルって……好きな人いるのかなぁ……」
おおっ、これは! マリーお姉さん、最近、子供を産める体になったからね!
ウィルお兄ちゃんに、好きな人は居ない。強いて言えばエリスお姉さんだけど、それはスラム出身の男の子全員が罹る熱病みたいなもので、問題ではない。
「ううん、居ないよ」
アンナは、面倒見のいいマリーお姉さんが大好きだったので、猛烈にプッシュした。
スラム出身の女の子って、みんなエリスお姉さんに似てくる。エリスお姉さんは、スラム出身の女の子達全員のお母さんみたいなものだもの、似て当然。
やがて、マリーお姉さんとウィルお兄ちゃんの間に子供が出来て結婚した。ユーフォリアでは自然にして普通にして当然。おめでとう、マリーお姉さん、ウィルお兄ちゃん。
○
最近、ウィルお兄ちゃんに、ため息が多い。なにか悩んでいるみたいなの。
でも、アンナやマリーお姉さんには、話辛いみたい。
「ボクが聞いてくるよ」
相談役をアベルお兄さんが買って出てくれた。アベルお兄さんって、居て欲しい時には絶対に側に居てくれるよね……まるでお父さんみたいに、アンナの家族を守ってくれる。
……「お父さん」って呼んでいい?
アベルお兄さんは「もちろん、いいよ」って、優しく笑ってくれた。
アベルお父さん、大好き!
アベルお父さんと相談して、ウィルお兄ちゃんは、悩みをアンナ達家族に打ち明けてくれた。
「学者になりたい」
領主であるアゼル様の娘であるウェンディ様に勧誘されているみたい。お兄ちゃんも、勉強して、知識を深めるのが、堪らなく好きだって。
でも、学者になると、今みたいに、定期的に収入があるわけじゃなくなるんだって。
家族に迷惑がかかる……。
それで、悩んでたみたい。
アンナは……アンナはお母さんやマリーお姉さんと一緒に、強くお兄ちゃんに言った。
「絶対、学者になるべきよ! 今まで、お兄ちゃんはずっと、アンナ達の為に、自分を犠牲にして養ってくれたじゃない! これからは、お兄ちゃんの為に生きて! アンナもお母さんもマリーお姉さんも、それぞれ働いているから、収入は気にしないで!」
そうして、なんとかお兄ちゃんを説得した。
○
学者になったウィルお兄ちゃんだけど、結局、収入の一番多いのはウィルお兄ちゃんだった。
ウィルお兄ちゃんが学者になった途端、ラプアシアは学者保護制度を打ち出して、学者の生活を保護した。
ウィルお兄ちゃんも、授業の講師料だの特許や契約料だと、定期的に収入があり、裕福な我が家は、より一層、裕福になった。
アンナも、アベルお父さんみたいに、政治的、商売的に、ラプアシアの外部と折衝するスラム出身の男の子アランと結ばれて、幸せな日々を過ごすことになった。
スラム出身の男の子って、アベルお父さんに似てくるのよね、アベルお父さんって、スラム出身の男の子達全員のお父さんみたいなものだから当然よね。
ラプアシアに来て良かった。
アンナは、今、スラムに住んでいた頃と比べると、とてつもなく幸せ……。
ありがとうが、止まらないよ。
2020年11月5日 誤字修正しました。




