84 閑話 パジャマパーティー(-3)
○ 78 アベルの特別の後です。
「アベルに謝って来てくれた?……アベル、怒ってなかった?」
アゼルを酔い潰した後、キサラとクレアが、アリス、イリス、エミリーの待つ寝室に戻ってきた。そのキサラとクレアを捕まえて、アリスが迫った。
キサラはクレアの顔を見て、頷いてアリスに言った。
「アリスって、酷いって言ってたわ。でも、感謝してるし、憎めない愛してるって」
感謝って、なによ……。
アリスの呟きを置いて、ベッドに座るアリスの前に、キサラとクレア……イリスとエミリーが並んで座り、深く頭を下げた。そして、口を揃えて言った。
「「「ごめんなさい、アリス」」」
アリスは、驚いた。キサラ達に謝られることなんか、なかったハズだ。
顔を上げたキサラが代表して説明した。
「アリスが、アベルの地雷を踏んでくれて、良かったって、思っちゃったの」
なおも困惑するアリスに、クレアが補足した。
「もし、アゼル様に一番愛されてるアリス以外の誰かが、同じことを言ってしまったら、きっと関係が壊れてました」
イリスも、声を揃える。
「だから、アリスが言ってくれて、俺達は逆にホッとしたんだ……誰かが確認しなきゃならないことでもあったからさ……」
最後にエミリーが、気遣わしげに言った。
「ごめんね……怖かったでしょう?」
その言葉に、アリスの目に涙が込み上げた。そして、込み上げる感情のままに、エミリーにすがり付いて泣き出した。
「怖かった! キレられて怒られて怒鳴られて殴られるかと思った!」
セインなら、絶対にキレて怒って怒鳴って殴ってた。
でも……キレられて怒られて怒鳴られて殴られるよりも……アベルに嫌われるのが、耐えきれないくらいに、怖かった。
「なのにアベルは、怒りも怒鳴りも殴りもせずに、ちょっとだけ困った顔をして……あたしの失言……失敗を、家族の絆を強くするチャンスに変えてくれた」
「……あたしは……また、アベルに失敗を成功に……不幸を幸せに変えてもらった。アベルは、あたしの心を守ってくれた」
エミリーは……震えるアリスの体を抱き締めた。アリスは、震える声で言葉を続けた。
「……どうしよう、あたしアベルが好きだ」
「今までも、凄く好きだったけど、もっともっと、好きになった……」
「……どうしよう……なにか、お礼にお返ししたいけど、もう、あたしには、あげられるものが、なにもないよ! もうっ、こんなあたしに、いっそ、罰を与えてよ!」
キサラが、エミリーごとアリスを抱き締めた。そして、優しく言った。
「アリスは、アベルに最高のお返しをしてるわよ」
「それは、なに?」
アリスには、心当たりが、まったくなかった。
キサラが、キッパリと言った。
「ウェンディよ」
「えっ……だって、ウェンディは……」
「アベルの子供……そうでしょう?」
アリスは、コクりと頷いた。そして、驚きの声で言った。
「あたしは……ウェンディに、助けられたの? ウェンディが、あたしを助けてくれたの……?」
あたしの代わりに、アベルに、大きな喜びと幸せを返してくれた。
「当然よ。ウェンディは、私達の家族の一員だもの」
アリスは、その後、疲れて眠るまで泣いた。
○
眠るアリスを守るように囲んで、キサラ達が、パジャマパーティーを始めた。眠るアリスを起こさないように、穏やかに。
「でも、やっぱり、アベルにとって、アリスって特別だよなぁ」
ちょっと、羨ましそうにイリスが言った。
「アゼル様にとって、アリスとはどういう人なのでしょうか……」
クレアが、疑問を口にすると、エミリーが挙手して答えた。
「アベルって、幼い頃、アリスと結婚するつもりだったらしいよ?」
「「「えっ! それって、アベルの初恋の人がアリスってこと?!」」」
「違う違う。ただ漠然とした予想だって」
夫婦を気取って、苦労も楽しみも共にしようとしてるんでしょ? つまり、アベルとアリスは、すでに熟年夫婦。失言でケンカしても、乗り越えるのが、いつものことなんだって。
子供の頃……アベルって、口喧嘩はアリスと、物理的なケンカはイリスと、ずっと、してたからなぁ。で、あたしが、仲裁と和解の手助け。
「でも、アベルの特別と言えば、キサラとクレアでしょ?」
イリスが驚きの表情で、キサラ達に振り向く。そして、羨ましそうな顔をする。
「ひょっとして……エミリー? 私達がアベルの特別な理由を知ってる?」
キサラが、おずおずとエミリーに聞く。クレアも身を乗り出している。
「アベル本人から聞いてるわよ「俺がキサラとクレアと付き合えるのは、奇跡だ」って」
なぜ、キサラやクレアという素敵な人が、俺の妻になってくれたのだろう、信じられない、本当に奇跡だ。
「逆に、アベル本人から、あたし達3人のことも聞いてる」
イリスが身を乗り出した。アリスの耳がピクリと動いた。
「俺がアリスとイリスとエミリーと付き合えるのは、当たり前だって」
なんだよ、それ? と、イリスが不満げにぼやく。アリスの口が尖る。
「続きがあるんだけど、聞く?」
エミリーが、得意気に笑う。キサラとクレアが……イリスと、とうとう起き上がったアリスが、エミリーに詰め寄る。
満を持して、エミリーが言った。
「アリスとイリスとエミリーがいなくちゃ生きていけない。キサラとクレアがいなくちゃ生きている価値がない」
だって。
キサラが、呆けて言った。
「私達って、アベルの命で、アベルの人生の喜びと幸せなんだ……」
そこまで言ってもらえるんだ……。
アリスとイリスとエミリーが、しみじみと言った。
「「「あたし達も、アベルの特別……奇跡になりたいな……」」」
クレアも言った。
「私達は、アゼル様の、当たり前に……アゼル様の命になりたいです……」
キサラが、朗らかに笑って言った。
「なれるわ。だって、アベルと一緒にいると、どんどん愛が深まって、絆が強くなるもの!」
クレアが……アリスが、イリスがエミリーが、希望に瞳を輝かせた。
○
「ねぇねぇ、エミリー? 私がアゼル様に尊敬していただける訳も聞いてないですか?」
エミリーが「聞いてるわよ?」と返答した。
「ほんっとうに、アベルはエミリーには、なんでも言うよなっ」
イリスがクッションに八つ当たりして暴れた。エミリーが『えっへん』と胸を張る。
「あたしは、アベル専属のカウンセラーですっ」
アベルがクレアを尊敬する訳は……。
優しい嘘のつける人って、立派な大人だなぁって思うんだよね。
ボクって、本質的に子供だから、そんな大人に尊敬と憧れを抱くんだ。それが、ボクにとってのクレアだよ。
嘘をつかずに生きていける大人はいない。だから、大人は、優しい嘘をつく。
誰かの幸せのために、嘘をつくのだ。
そして、嘘をついても、誰も傷つけない。
だから、ボクは、クレアを尊敬してる。
○
キサラ達は、言葉の深さに、感じ入った。
クレアは、またひとつ、アゼルのことが好きになった。
胸に……ハートに、嬉しさが優しい気持ちと一緒に染みた。
クレアは、その想いを、愛おしそうに、そっと、抱き締めるように、胸に手を当てた。
○
ところで、エミリーがアベルになんでも言ってもらえるのはなぜだろう?
エミリーが「さあ?」と、首をかしげた。
「ねぇねぇ、エミリー? どうして、アベルは、私やクレアにカッコつけて見せてくれないの?」
キサラの、その問いに、アリスとイリスとエミリーが、声を揃えた。
「「「カッコつけなくても、好きでいてくれるっていう信用があるからっ」」」
ほんっとに、羨ましい。
○
「アベルがあたしに、聞いてきたこともあるよ?……聞きたい?」
エミリーが、少し、表情を穏やかなものに変えて、言った。
少し、雰囲気が茶化せない真剣なものに変わった。
キサラ達は、居住まいを正して、聞いた。
「俺の子供を産めないことで、不安にさせていないか? 辛くないか、苦しくないかって……」
アリスとイリスは、驚いた。
……気にかけていてくれてたんだ。
「それで、エミリーは、どう答えたのですか?」
それについて、アリスとイリスとエミリーは、どんな気持ちでいるのですか?
3人は、顔を見合わせて、言った。
「不安じゃないって言えば嘘になるけど……」
「セインと冒険してた時も思ってたけど……」
「なにがあっても、アベルが待っててくれてるから大丈夫って、ずっと、思ってたよね。辛いことや苦しいこと……怖いことがあった時は、いつもアベルの顔が浮かんだっけ……」
例え、大怪我して、冒険を続けられなくなってもアベルが守ってくれるって、信じきっていて疑うなんて気にもしなかった。
あたし達は、一緒にいることが、当たり前。例え、どんなに離れてても、例え、なにがあっても。
「「「アベルの言葉を借りれば、アベルがいないと生きていけない」」」
アベルは、あたし達の、命だ。
あたし達には、帰る場所がある。あたし達には、アベルがいる。そして、アベルが、それを、これでもかって言うほど信じさせてくれる。
ここが、あたし達の、居場所なんだって。
ここに、居て、大丈夫だって。
アベルが、あたし達にくれる最高のプレゼントが『絶対的な安心』
アベルと一緒にいると、安全、安心、嬉しい、楽しい、美味しい。
もうっ、アベル、好き……大好き!
「「「今だから、言えるよ……あたし達は、最初から、愛されていた……大きな愛に包まれていた」」」
やっと、それに気づくことが出来た。
その大恩あるアベルを、今は、娘達が、本当に幸せな……喜びの顔にしてくれる。
これ以上に、恵まれた人生なんて、どこにもないよ。
「「「これ以上の幸せを、求めることなんて出来ないよ……」」」
ねぇ、アベル?……あたし達、幸せだよ。
ただ、言わせて……ありがとう……。
感謝の気持ちが、胸に溢れた。
「それにさっ、今は無理でも、子供達が大人になったら、子作りをお願いしてみようかなぁって……」
「そっ、そうだよな! 頑張れば、その年齢になっても、子供の1人や2人……」
「あわよくば、それ以前に……避妊の魔法道具だって完璧じゃないんだし……ウフッ……ウフフフ……」
「そうです! 100%完璧な避妊なんてないんです、ヤればデキマス!」
「頑張って! アリス、イリス、エミリー」
そうして妻達が、可愛い企みを実行に移す。
「じゃあ、アベルをここに転移させるね?」
「寝てるよね……」
「寝込みを襲いましょう!」
「クレアって、時々、過激だよね……でも、それで行きましょう!」
可愛いアベルの妻達が、アリスの呪文に声を合わせた。
「「「「「転移!」」」」」
○ 閑話 アリスとアベルの仲直り。
「茶化さず、笑わず聞いて……」
「ん?」
「アベル……ごめんね」
「いきなり、なんだよ?」
「ウェンディがアベルの子供じゃないって言ったこと」
「ああ、あれか。ショックだったけど、ハッキリとウェンディが好きって言葉にしてなかったボクが悪いんだから、アリスが謝ることないよ」
「アベルって、あたしのこと、絶対殴らないよね……どうして?」
「は? 意味分かんない」
「ううん、いいの。それよりも、ねぇ? どうしていつも「アリスは悪くない、俺が悪い」って言うの?」
「アリスを悪者にして、自分は悪くないって言えって言うの? それって、ボクに「男をやめろ」って言ってるのと同じだよ?」
「アベルの言う男って特別で素敵よ」
「そうかぁ……? 本当のボクってろくなもんじゃないぞ?」
「大丈夫よ。だって、あたしは……あたし達は、本当のアベルだけじゃなく、アベルの全てが好きだもの」
「素直なアリスって、調子狂うなぁ。じゃあ、ボクも素直に言うよ?」
「うん……」
「ケンカして仲直りした回数は、アリスがダントツだからさ、いつものことだから、気にしないで。どれだけ怒っても、アリスを憎んだことなんかないよ、アリス、愛してる」
アリスは思った。
この人の赤ちゃんが産みたいなぁ……。
でも、とりあえず罰が欲しいなぁ……。
あの時にでも、どさくさに紛れてぶってもらおう。
その夜「そういうプレイ」とアベルを騙して、お尻が真っ赤になるまで叩いてもらい、ようやくアリスは自分を許せたのだった。
でも、やっぱり、凄く痛かったので、泣いてしまって、アベルに慰めてもらった。
○ 閑話 カウンセラー、エミリー
「ねぇ、アベル? ちょっと聞いていい?」
「なぁに? エミリー」
「アベルが、アリスを守る理由が、家族だから当たり前だとか、愛してるからだとか、ちょっと違うような気がするんだけど、気のせいかな?」
「……鋭い。エミリーには敵わないなぁ」
「やっぱり違うんだ」
「う~ん……違わないけど……なんて言うのかな? 家族だから当たり前っていう理由や、愛してるからっていう心の前に、自動的に、アリスを……アリスだけじゃないよ? イリスもエミリーも、もちろんキサラとクレアも子供達も……考えとか感情より先に、守ろうと体が勝手に動いちゃうの」
「ホラっ、命に危険が迫ると反射的に体が勝手に動くでしょう? あれと、おんなじ。だから、ボクは、アリスやイリス……エミリー、キサラ、クレア……そして子供達が、ボクの命だって思っているんだよね」
「そんな理由があったんだ……」
「理由って言うより、命……運命だよね、これ。理由や心……自由よりも、恐ろしく強い力でボクを動かすんだよ?」
「……イヤじゃない?」
「うん、全然イヤじゃない。遥か昔から遠い未来に続き、全ての世界に満たされているような……全ての時空を包み込むような愛を感じるから」
「アベルって、でっかいなぁ……」
「やめてよっ、勘違いしちゃう、恥ずかしい!」
エミリーは、いつも、ボクの心を裸にする。
……スケベ。
2020年9月14日 閑話 アリスとアベルの仲直りを追記しました。
2020年9月15日 閑話 カウンセラー、エミリーを追記しました。アリスとアベルの仲直りに追記しました。




