83 閑話 イリスとカレラが「○○○」
すみません、投稿が遅くなりました。
カレラの性格を思いだし感情移入するのに、時間がかかりました。
○ 42 パジャマパーティーの後の話です。
新米女騎士のポリーが、足をもつれさせて、尻餅をつく。
そこに、イリスおかあさまの剣が突き付けられた。
「まいりました!」
ポリーが降参し、イリスの差し出された手を取って立ち上がる。
「次は私です! イシス教官、お願いします!」
先輩女騎士のシンシアが、威勢よく声を上げる。
しかし、イリスおかあさまは、隣に控えていた、自分の娘……私、カレラに、声をかけた。
「あたしじゃ、もう、シンシアは伸びない。カレラ、頼んだぞ」
「はいっ、イシスおかあさま」
私は、愛用のミスリル製の剣を持ち、シンシアに向かった。
○
イリスは、全幅の信頼を寄せる笑顔でカレラを見送って、ポリーに向き合った。そして、丁寧に指導していく。
「ありがとうございます、イシス教官! 本当に分かりやすいですし、イシス教官のご指導を受けてから、自分でも驚くほど、強くなれました」
ポリーの、イリスおかあさまを絶賛する声が聞こえる。
そう、イリスおかあさまは、実力の低い、弱い者を強く育てることが出来る優秀な指導者です。
私は、どうも、ある程度の実力を持った者しか、教えを理解してもらえなくて……強い者を、さらに強くするように指導は出来るのですが、どうしてもイリスおかあさまのようにはなれません。
以前、どうすればイリスおかあさまのようになれるのか聞いたことがあります。
すると、イリスおかあさまは……。
「お母さんも昔は……お父さんと結婚するまでは、弱い者を殴り倒してばかりで、ろくな指導ができなかったんだぜ?」
意外です、では、なぜ……。
「どうして、それが今では、なぜ、ご指導が出来るようになったのですか?」
イリスおかあさまは、照れたように笑って言いました。
「お父さんと結婚して、自分がどれだけか弱い女の子だったか思い知らされたからさ、弱い奴の気持ちがよく分かるのさ」
私は、その言葉で納得しました。
「確かにイリスおかあさまは、おとうさまの前で『だけ』、か弱い女の子です」
イリスおかあさまは、私の言葉の含みに、豪快に笑いました。
どう見ても、イリスおかあさまは、男勝りでカッコいい……素敵な女性です。
……私の憧れです。
○
シンシアが、力を使い果たしたように、地面に座り、肩で息をしています。
私は剣を鞘に納め、シンシアに、どこが悪く、どこが良かったのかを、説明して、健闘を讃えます。
すると、シンシアが、晴れやかな笑顔で言った。
「ご指導、ありがとうございました。カレラ様!」
キラキラと憧憬に輝く瞳をしている。
うちの騎士団は、ちょっと大袈裟だと思います。私などまだまだ……上には上がいるのですから。
私も、もっと、精進しようと思いました。
「イシスおかあさま……稽古をつけてくださいませ」
「おっ、いいぜ? 思い切りやろう!」
私は、イリスおかあさまと、激しく打ち合います。
剣技では、私が勝っていると思うのです。
でも、試合運びと言うのでしょうか? まるで詰め将棋のように、不利に追い込まれます。
勝てる気がしない……!
まるで高い山を見上げるよう。
……でも、それがいいのです。
いつか、必ず、乗り越えて見せます!
私は、汗だくになって、地面に転がりました。
○
訓練が終わると、そこに称賛の拍手が響きました。
私とイリスおかあさまの訓練を観戦していた騎士団の人達と……おとうさま!
私は、慌てて体についた土を払い、髪を手櫛で整えます。
「イシスもカレラも、見事だったよ」
おとうさまが、手放しで誉めてくださいます。
私は、土まみれの汚れた自分が恥ずかしくて、逃げ出すように、その場を離れました。
慌ててイリスおかあさまが追いかけてきます。
「イシスもカレラも、このあと、パトロールだからね? 一緒に行こう」
逃げる私の背中に、おとうさまの声が投げられます。
私の心が一瞬で、喜びに染まりました。
おとうさまとイリスおかあさまと一緒にパトロールに行く許可が出て、今日が初めての日なのです!
ずっと、おとうさまとふたりきりでパトロールに行けるイリスおかあさまが羨ましかったので、喜びもひとしおです。
思わず頬が弛みます。
でも、その前に、土と汗を落とさなきゃ!
シャワーを浴びて、石鹸で念入りに洗って、香油をつけて……出来れば、薄くでいいので、お化粧もしたいです!
「デートじゃないんだぜ?」
イリスおかあさまに、笑われてしまいました。
どこか、イタズラな男の子のような顔をしたイリスおかあさまに止められて、本当にシャワーだけで……石鹸も香油もつけさせてもらえませんでした。これでは、汗の匂いが残ってしまいます。
「イリスおかあさま……せめて石鹸を……おとうさまに「臭い」と言われたら、私、生きていけません……」
私は、涙声で訴えました。
イリスおかあさまは、
「騙されたと思って、今回だけは、お母さんの言うことを聞いてくれ」
イリスおかあさまは、イタズラ好きの男の子のような顔を、少し、変えました……慈愛に満ちた母親の顔です。……少しだけ女の顔を覗かせています。そこに、パトロールで起こる出来事を予感させてくださいました。
私達……カレラ、オードリー、ウェンディが、アゼルおとうさまの、本当の子供じゃなかったことが、ラプアシアに大々的に広まってしまい、おとうさまの子供を産んでもらおうとするハニートラップが再燃しました。幸い、まとめ役であるカイル様の取り成しで、鎮まりましたが「1年ぐらいしか止められない」と、おっしゃってました。
私達は、一刻も早く、おとうさまの子供を授からなくてはいけないのです。
○
濡れた体を拭いて、服を着替え、剣を携えて、私達を待っているおとうさまのところに行きます。
私達を見て、微笑みかけてくださるおとうさまに、胸がトキメキます。
思わず駆け寄った私に、ふと……おとうさまが顔を近付けて、私に、注意しました。
「カレラ? 女の子なのだから、せめて石鹸は使いなさい」
私は、泣きそうになった。
臭いと思われた! 死にたい!
必死で涙をこらえる私に、おとうさまは、誰にも聞こえないように、小さく言いました。
「でも、ごめんな……ボクは、カレラの匂いが好きなんだ」
私の顔が、一気に喜びに、輝きました。
好き……好きって言いましたよね? 私のことが!
しかも、おとうさま……自分のことを「お父さん」と言わずに「ボク」って言いました。
それって、私のことが、イリスおかあさま達と一緒ってことですよね?!
女って認めてくれてるんだ!
嬉しい!
今度は嬉しさで泣きそうになりました。
……チョロいと言わないでください。
後でイリスおかあさまに聞いた話ですが、経験上、おとうさまに、肉体的に関係を求めたい時は、完全に匂いを落とさないほうがいいらしいのです。おとうさまって、意外とワイルドです。
○
イリスおかあさまが、おとうさまの右腕に、私は左腕にすがり付くように抱きついて、街をパトロールします。
……とても、パトロールには見えませんね。
街の人達の視線が、生暖かいです。
時折「頑張ってくださいね」と、こっそり声援を送ってくださる女性もいます。
でも、こんな素敵な日々が、現実になったなんて……。
信じられない。
私達……カレラとオードリーとウェンディは、致命的な変態だった。
おとうさまが好きすぎて、誰も恋人をつくらなかった。
結婚も……諦めていた。
だって、結婚したら、おとうさま以外の男に抱かれるってことでしょう?
私達……おとうさま以外の男に抱かれるくらいなら、死を選びます。
都市に晩婚化が進んだことをいいことに、ずるずると、結婚を遅らせました。
婚約の申し込みは、全て、断りました。交際の申し込みも。
イリスおかあさま達が、本当に羨ましかった。
おとうさまに、恋い焦がれて焼死しそうになった。
何度も、おとうさまのことを、諦めようとした。そして、その度に、諦めきれなかった。
おとうさまを諦めるということは、体が引き裂かれて死ぬということと同じだった。
何度、涙で枕を濡らしただろう……。
それが、今、イリスおかあさまと二人で、おとうさまを挟んで、腕を抱き締めている。
そして、一緒に歩いているのです!
この奇跡……そう、これは奇跡です!
信じられないくらいに、素敵な日々……。
私は、おとうさまの顔を見上げて言った。
「おと……アゼル……私、今、幸せよ……」
心の声とは違う口調で、女をアピールします。
間違っても「おとうさま」なんて呼んではいけません。敬語も厳禁です。さもないと、繊細なおとうさまが萎えてしまって、抱いてくださいません。
これが、なかなか難しくて、よく失敗するのですが……せめて、おとうさまに男を求める時くらいは、演じてみせます!
だって、私は……私達は、おとうさまの子供から、おとうさまの恋人……女に生まれ変わったのですからっ。
だから……ねぇ……アゼル?
イリスおかあさまと二人で、声を合わせます。
「「……抱いて……」」
2020年10月1日 新米女騎士の名前をアンナからポリーに変更しました。




