80 閑話 元奴隷と魔神
○ 71 奴隷になったバーグ、後日談の後の話です。
産まれてから7年間暮らしてきた村は、魔王軍の尖兵……ゴーレム部隊によって、滅ぼされた。
まるで津波のように押し寄せて来る、石のゴーレムや、家より高い背の鋼鉄のゴーレムによって、全てが破壊された。
家族も散り散りになって逃げ、逃げた先で、餓死寸前のオイラを拾ってくれたのは、奴隷商人だった。
オイラの名前はケーン。同室のバーグと同じ……奴隷だ。
いや「奴隷だった」と言い換えるべきか。
だって、今は、イクサ伯爵家の養子だから。
○
同室のバーグが、ラプアシア領の領民だった。
不正にラプアシア領の領民を奴隷にしていたのだ。
怒ったラプアシア領の領主アゼル男爵は、軍勢を率いて、イクサ伯爵領に侵攻。あわや、イクサ伯爵領を滅ぼす寸前だった。
イクサ伯爵領が、アゼル男爵の要求を全て飲むことで、戦争を回避した。
その要求の中に、奴隷制度の廃止があったのだ。
オイラ達、奴隷は解放され、それぞれ帰る場所に帰って行った。
帰る場所がない奴隷は、それぞれの身の振り方を決めて、城塞都市で暮らしている。
おおむね平穏に。
オイラは、帰る村も、身寄りもなく、また自立できる力もなかったので、イクサ伯爵に保護された。
理由は、バーグと比較的親しかったことと、伯爵自ら奴隷を保護することによって、アゼル男爵に「奴隷制度は確かに廃止しましたよ」とポーズを見せることだ。
理由は、どうあれ、オイラは、伯爵の養子になった。
ラプアシア領に降伏して、イクサ伯爵領は……逆に豊かになった。
アゼル男爵の養子となったバーグに、伯爵様の四女が嫁いだからだ。
その縁で、裕福なラプアシア領と親交が深まった。
○
ユーフォリアの制空権を握っているのが、ラプアシア領とエルフの国である。
ラプアシアの鋼鉄の人『鉄人』の巨人タイプ『魔神』を護衛につけたエルフの国の飛空船が、ユーフォリアの物流を支配していた。
地上は、冒険者ギルドの護衛商隊が頑張っているが、輸送できる規模が違う。
冒険者ギルドの護衛商隊は、主に、城塞都市と、各町や村……防衛能力があり、魔物を退け、生活を存続させている……に物資を流通させる役割を果たしていた。
ユーフォリアの人界の経済を支配しているのは、もはや王家ではなく、ラプアシアとエルフの国と冒険者ギルドである。
そうそう、エルフの国と言えば、奴隷制度を廃止して、不足した労働力を、エルフの国が自動人形の貸与することによって、補った。
さすが、人界を遥かに超える魔法文明を築く国。
でも、なぜ、ラプアシアと親交を深めることで、エルフの国と親交が出来るんだろう?
学校で習ったことの受け売り、実は未だに理解できない。
そう、オイラは、毎朝、飛空船に乗ってラプアシアに行って、バーグと一緒に行儀見習いをして、学校に通っている。そして、夕方の便の飛空船に乗って、イクサ伯爵領に帰ってくるのだ。……義理の姉のマリア様が、時折、大量の芋を、手土産に持たせてくれる。イクサ伯爵家は、その手土産に大喜びする。いい人達だ。……なんか貴族のイメージと違う。
生活は、奴隷だった頃が、嘘だったように、楽しくて幸せになった。
特に楽しみなのは、飛空船に乗って飛ぶ時だ。
船首に立つ、不動の、空にそびえる黒鉄の城塞のように頼もしい、巨大な『魔神』……。
そこに、ウンカのように、大群で空を埋め尽くすように飛び、襲いかかってくる、魔王軍の魔虫の群れ。
悠然と立つ、魔神。
その胸が光ると、灼熱の熱線が放たれ、魔虫の群れが、一匹残さず一瞬で焼き尽くされ、塵になって風に消える。
魔神は、ケーン達……男の子達の羨望の的だった。
また、魔神も、子供好きみたいで、休憩時間に、子供達と一緒になって遊んでいた。
「ねぇ、魔神。名前はなんて言うんだ?」
ケーンが聞いた。
魔神って、他に何人もいるだろう?
魔神は、朗らかに笑って答えた。
「我に名前をつけられるほど、力を持った者など居なかった。なんなら、お前がつけてくれ。そのお前がつけた名前という器に、人々のイメージが積み重なり、大きな力となって、我の真の名となるかもしれん」
ケーンは、少し、考えてから、言った。
「じゃあ、魔神の名前は『カイザー』だ。今日から魔神は、カイザーだ!」
魔神……改め、カイザーは、愉快に笑った。
「いいだろう! 今日から我はカイザーだ!」
○
それから、幾日も過ぎたある日。
城塞都市に、警鐘が響き渡った。
「ゴーレムの群れが攻めて来た!」
それを聞いたケーンの脳裏に悪夢が甦った。
踏みにじられる、住んでた村、思い出の詰まったケーンの家……。
オイラを逃がそうと、犠牲になったオヤジ……。
オイラを庇って死んだお袋……。
その悪夢が、ここ、イクサ伯爵領の城塞都市でも、起ころうとしていたのだ。
お世話になっている伯爵様……芋で喜ぶ新しい家族達……。
その笑顔が、また、踏みにじられる!
戦おう!
ケーンは、訓練で使う木の剣を持って、雄叫びをあげて、城壁を飛び降りた。
そして、目の前にいた石のゴーレムに斬りかかる。
木の剣は、無惨に砕け、ゴーレムの腕のひと振りで、ケーンは吹き飛ばされた。
地面を、何度もバウンドして、城壁に体を叩きつけられる。
ケーンは、体が砕けるような、激痛に歯を食い縛った。
でも、睨み付けた。
憎い敵を、不屈の闘志で、睨み付けた。
そこに、黒鉄の城塞が空にそびえた。
「カイザー! 助けに来てくれたんだね!」
ケーンと、石のゴーレムの間に立ったカイザーが、まるで駄々をこねる子供をいなすように、石のゴーレムを掴んでいた。
でも、カイザーの返事は、浮かなかった。
「我はな……王母様から「飛空船を守れ」としか命じられていないんだ……だから、なにをすればいいのか、さっぱり分からん」
ポイっと、石のゴーレムを、小石のように投げ捨てて、ケーンに向き合った。そして言った
「我は、なにをするのが良いことなのか、さっぱり分からん。だから、お前が我の良心になれ、我の胸にある操縦席に乗って、ハンドルを握れ……」
そう言って、胸の装甲を開けて、中にある空間に、ケーンを誘った。
「お前の良心が、王母様の命令を上回ったら、我は『良いこと』が出来る。お前の良心を見せてみろ! ……お前は、なにがしたい? なにを求める? 力が欲しいか?!」
ケーンは、操縦席に這い登って、ハンドルを握った。そして、叫ぶ。
「オイラは、家族の笑顔を守る! 二度と、失うものか!」
そして、大声で良心を叫んだ。
「魔神……ゴー!」
カイザーは、胸に良心を秘めて、雄叫びをあげて、立ち上がった。
腕を振るうと、それだけで、石のゴーレムが砕けて飛び散る!
家よりも大きな、鋼鉄のゴーレムと組み合って、ブレーンバスターを決める。
胸が光ると、灼熱の光線が放たれ、石のゴーレム達が砂に還る。
口から、腐食の暴風が吹き荒れると、鋼鉄のゴーレム達が、腐って溶けた。
拳が飛んで、ゴーレムの胸に、大きな穴を空けた。
日が沈み、再び太陽が昇り、戦い終える。
朝日に照らされる、黒鉄の巨体に、群衆から、惜しみ無い拍手喝采が贈られた。
カイザーは、ただ、悠然と、そびえ立っていた。
スーパーロボットとは、なにか?
それは、マ○ンガーZである。




