表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/327

78 閑話 アベルの特別

○ 77 俺アベル発見報告会の後です。


「アベル? 一緒に飲まない?」


「アゼル様は、働きすぎです。少しは、ゆったりとした時間も取らないといけません」


 夜、キサラとクレアが、執務室に訪れて、アゼルに言った。


 手にするのは、アゼルのお気に入りの、銘柄の酒である。


 さすが、分かっている。


「いいよ、飲もう」


 アゼルは、二つ返事で、承諾した。



 執務室に併設された休憩室。


 キサラとクレアは、飲ませ上手である。


 あっという間に、アゼルを、上機嫌のほろ酔いにしてしまった。


 アゼルの意識が、ふわふわとして、はっきりとしなくなった時、キサラが切り出した。


「ねえ、アベル? 私達、言いたいことと、聞きたいことがあるの……」


「いいよいいよ、なんでも言って、なんでも聞いて」


 ハッピーほろ酔い状態の無敵アゼルである。


「まず、謝りたいのです……アリスが、大変、失礼なことを言いました」


 クレアが、深く、頭を下げる。


 アゼルが、酔っぱらって、涙ながらに告白した。


「そうだよっ、アリスってひどいよっ、ボクだって頑張ってるのに、全然、子供達の父親って認めてくれないんだもんっ、こんなに頑張ってるのにっ」


 クレアが、抱き締めて、よしよしと、頭を撫でる。


「でも、アリスのことを、怒ってないのよね?」


 キサラが、言う。


「飼い猫に爪で引っ掛かれて怒る飼い主はいないよ。ただ、痛かっただけさ」


 それにしては、グレて引きずってたみたいだけど……。


 言わぬが花……でしょうか?


 キサラとクレアの、心の声だった。


「それにさ……ボクが悪いんだもん……きちんと「子供達が好きだ」って、はっきり言葉にして伝えてなかったから、疑われて当然だよ。またボクは、大切な人を、失うところだった……」


 そういう意味で、アリスに、とても、感謝してるよ。


 だから、ボクは、アリスを、憎めないんだ。ハッキリ言うと、愛してる。


 そう、アゼルは言って笑った。


「アゼル様は、愛してるいるのですね……」


 クレアのその言葉に、アゼルは、笑顔を輝かせて言った。


「うんっ、子供達が好き。アリスが好き。イリスもエミリーも……もちろん、キサラとクレアも好き、大好き」


 ほろ酔いアゼルは、無敵の勇者である。


 キサラとクレアは、嬉しさに、頬を染めた。


「それで、聞きたいことって、なに?」


 アゼルが、切り出したので、渡りに船と、キサラが、聞いた。


「アベル? 私達に、隠し事してない?」


 ギクッと、アゼルが顔をひきつらせる。


 目が泳ぐ。


 キサラとクレアが、そんなアゼルの視線をとらえて、真剣な眼差しで見つめる。


 やがて、観念して、アゼルが、キサラとクレアに対してかけていた、精霊による認識改変の魔法を解いた。


「「わぁ……」」


 そこに、地味で目立たない男の姿は、どこにもなかった。


 どこか、危険な匂いのする、男臭い『カッコいい』という表現がピッタリの男前がいた。


 キサラとクレアは、まるで一目惚れしてしまったように、陶然として、アゼルを見つめた。


 こ……これは、子宮に来るわ……。


 す……すがりつきたいですっ……性的に愛を求めてっ。


 呆然とするキサラとクレアに、アゼルが釈明した。


「キサラとクレアに、失望されるのが嫌で、隠してたんだ……」


「「失望?!」」


 キサラとクレアが、びっくりして、声をあげる。


「そう、失望。ボクって、政治も領地経営も、初めてで、失敗ばかりするって思ってたんだ……」


 キサラとクレアが、神妙な顔をして、黙ってアゼルの話を聞いた。


「カッコいい男が、失敗ばかりするって、それって道化……笑い者だろう? 絶対にキサラとクレアに失望されると思ったんだ」


 笑いとは、カッコつけてコケることである。


 上げておいて落とすのが、一番印象を悪くする。


 カッコいいとカッコ悪いは、ワンセットなのだ。


 アゼルは、キサラとクレアに、カッコいい自分を見せるよりも、コケてカッコ悪い自分を見られたくなかったのだ。


 アゼルは、キサラとクレアと出会った時に、すでに認識改変の魔法をかけていた。それを解こうとする勇気が持てなかったのだ。


 なお、アゼルが精霊による認識改変の魔法をかけていたのは、神々から隠れるためである。アゼルは、目立ってはいけないのだ。


 ……でもこれ、その内、神々に見つかるよね?


 まっ、その時は、その時だ。


「奇跡的に、ラピータの政治もラプアシアの領地経営も、みんなの助けもあって、上手く行ってるけど、ボクのことだから、きっと、その内、大きな失敗をすると思うんだ。その時、キサラとクレアに笑われて失望されて嫌われるのが怖くて……」


「事情は分かったわ……ビックリしちゃって、なんて言っていいか分からないけど……」


「でも、なぜ、アリス達には、隠してないのですか?」


 領民にも、見せてますよね?


「アリス達って、面食いだから……それにボクとアリス達って、兄妹みたいなもんだろう? すでに、何度も、笑われて失望されて嫌われた経験があるから、いまさらなんだよ」


 もっとも、魔法を解いたのは、王都で再会した時から、だけど……。


 領民には、魅力を見せて、指導者としてカリスマを発揮する助けにしてます。指導者が地味で目立たないって、あんまりだと思って……。


「どうしても、私達には、見せて下さらないのですか?」


 クレアが、まるで恋い焦がれるように言った。


 それは、懇願だった。


 キサラが、となりで激しく同意している。


 アゼルは、バツが悪そうに、困った顔をして、少し、顔を赤くして、ポツリと言った。


「キサラとクレアは、ボクにとって、特別なんだ」


「「特別!!」」


 その言葉で、キサラとクレアは、全てが報われた気になって、じょじょに、ゆっくり……じわじわと力強く嬉しさが込み上げて来て、光輝くように喜んだ。


「わ……私も飲もうかなぁ……」


「わっ、私もいいですか?」


 二人は、ニコニコ上機嫌になって、アゼルに、酌を求めた。


「いいよいいよ、今夜は飲もう!」


 アゼルが、二人の(さかずき)に、お酒を注ぐ。


 3人は、明るく笑いながら、夜を過ごした。

2020年9月2日 追記。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ