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77 閑話 俺アベル発見報告会

○ 66イリスとの大人な新婚生活 73エミリーと炊き出し後日談 76アリスの純情の後の話です。


 アベルには秘密の、妻達だけの、秘密のサロン。


 そこに、アベルの妻達全員が集まっていた。


 テーブルを囲んで座るのは、アリスとイリスとエミリー。


 そこから少し離れて、キサラとクレアが、座布団に正座して、お茶菓子を食べながら熱い緑茶を(すす)っていた。縁側で膝に猫を乗せて日向ぼっこする老婆のような、穏やかな顔をしている。


 (ひるがえ)って、アリス達3人は、まるで真剣勝負をするような意気込みで、顔を見あわせている。


 これから始まるのは、会議……勝負をかけた『俺アベル発見報告会』である。



「先攻は俺からだな……」


 イリスが不敵な顔をして、掌に拳を打ち付けて立ち上がる。


 そして、顔を赤らめながら、パトロールでの、濃密な出来事を、赤裸々に語った。


 イリス、ズルい! と、連呼するアリスと、それに追従する、自分のことは完全に棚上げのエミリー。そして、羨ましそうに涙を浮かべて指を咥えるキサラと、そのキサラからそっと目を逸らすクレア。


「でもな……本題は、行為が終わった後だったんだ……」


 俺が「赤ちゃんが、できたらどうするんだ」って言ったら……、


「もし、赤ちゃんができて、俺がカレラ達を大切にしなくなったら、イリスが俺を思い切り殴ってくれ……頼む」


 って、言ったんだ。


「それって……」


 アリスが、呆然として言う。


「アベルも、避妊の魔法道具の誤動作を期待してるってことよね……?」


 エミリーが追従する。


「うん……アベルも、アリスとイリスとエミリーに、自分の子供を産んで欲しいと思っているんだよ」


 キサラが言う。


「誠実であろうとして、誠実になりきれない……アゼル様はダメなお方です」


 クレアが、そう言った。


 でも、そんなアゼル様だから、好きです。


 そう小さく付け足した。


 慈母のような表情をしていた。


 欠点のない完全無欠の人になんか、堅苦しくて近付きたくない。


 そんな人は、誰の助けも借りず、1人で生きていけばいいんだ。


 私達は、私達のことを、本当に必要としてくれる人と、助け合って生きて、添い遂げます。


「あたし達も、そうなんだ……」


 アリスが、そう言うと、イリスとエミリーが同意して、深くうなずいた。


 ちょっと不誠実で、ズルいくらいが安心する。


 アリス達は、誠実ないい人が怖かった。


 心の深いところ……生存本能に根差すくらいに怖かった。


 その理由は、セインは、初めは、誠実ないい人だったからだ。


 だから、好きになった。


 それが、権力を手に入れた途端に裏返って、不誠実な悪い人になって、アリス達を殺そうとまでした。


 それ以来、アリス達は、誠実ないい人を、注意深く警戒するようになった。


 誠実ないい人の近くだと、神経を使って、酷く疲れるようになってしまったのだ。


 騙されて裏切られるとは、こういうことだ。


 いい人が怖い。


 悪い人も怖いが、いい人より疲れない。正体を探らないで済むからだ。悪い人は、初めから悪い人だと分かりきっているから。


 アリス達が、俺アベル……不良アベルを求めるのは、そういうことなのだ。


 それに、アベルの悪は、あまりに幼稚で、悪意を感じないのだ。


 悪と呼ぶより『ワル』と好意を持って呼ぶべきか。


 そう……アリスとイリスとエミリーは、俺アベル……不良アベルに、大きな好意を持っているのだ。



「次は、あたしの番ね……」


 エミリーが、挑むような顔をして、立ち上がる。


 なぜか、キサラとクレアが、拍手している。


「教会の使節団の野営で、教会を通して食糧支援をする理由について、聞いてみたんだ……するとね……」


 反抗期の少年みたいに、口を尖らせて、


「子供が腹を空かせて泣いているのが許せねぇ」


 って、言ったの!


 アリスが、イリスが、キサラとクレアが、叫んだ。


「「「キャー! 可愛い!」」」


 キサラとクレア、アリス達は、しばらく姦しい喜びの悲鳴を上げ続けた。


 場が落ち着いた時、ふと、エミリーが言った。


「でも、なんか、アベルの態度がおかしかったな……」


 いつもなら……とくに結婚してからは、子供アベルになって真面目に誠実に真摯に熱意を持って本当のことを説明しようとするのに、いきなり本心で……しかもひねくれて言うなんて……なにかあったのかな?


 そもそも、俺アベル発見報告会を始めたのは、俺アベルを、アベルが、なかなか見せてくれなくなったからだ。


 それが、ここにきて大量放出である。


 なにもないと思うほうが、おかしい。


「あ……それ、あたしのせいかも……」


 アリスが、挙手して立ち上がった。そして、思い当たった理由について、説明する。


「アベルに「どうしてそんなにウェンディのことが好きなの?……自分の子供じゃないのに」って聞いちゃったんだ……」


 空気が凍りついた。


 絶対に聞けないよ、そんなこと!


 遠回しに「アベルなんか、ウェンディの父親じゃない」って言ってるじゃん!


 必死に、セインの影と戦って、憎しみに苦しみながら、それでも父親であろうと努力する(アベル)に、間違っても言っていい言葉じゃない。


「そしたらアベルがなんでもないように「俺の子供だから」って言ったんだ……その時の澄まし顔が気に入らなくて「理屈なんかいらない! 本心を言って!」って怒っちゃったの」


「「「うわぁ……」」」


 アリスって、苛烈だよね……。


 道理で、アベルが、荒れるわけだ。


「「「で……? どうなったの?」」」


 アリスが、杖を持ち出して、言った。


「記憶共有の魔法、使ってもいい? ……見て欲しいの……」


 あの時の、アベルの顔を……。


 なぜか、アベルの妻達には、記憶共有の魔法が、かかりやすかった。


 まるで、ひとつの意思に情報を伝えるみたいに……。


 キサラ達が目を閉じて、アリスの記憶を受け入れた。


 そこに、自分の嘘偽りのない本心を、独白するように語るアベルがいた。



 ウェンディを見てると、セインの顔が浮かんで来て、憎しみが込み上げるんだ。


 苛立ちに、ウェンディの頬っぺを、泣くまでつねってやろうって思うんだけど、ウェンディが、俺を見て笑うんだ。


 俺のことを信用しきった、嬉しそうな顔をして、楽しそうに笑うんだ。


 それにやられちまってさ……。


 それを見て、憎しみで暗く冷たく硬く尖った心が、優しさと愛しさで、柔らかく丸く明るくなって、温かくなる。


 セインに対する憎しみが消えて、ウェンディに対する愛情でいっぱいになるんだ……。



 そして、最後に……アベルが、泣くような……笑うような、情けない顔をして、どうしようもない自分の心を白状した。


「……なぁ、アリス……? 俺、ウェンディが好きだ。カレラが好きだ。オードリーが好きだ」



 キサラ達は、泣いていた。


 アベルの顔は、美麗とは対極にあるような、なんとも言えない、くしゃくしゃの情けない顔だった。


 でも、キサラ達は、なによりも美しいと思った。


 アベルの言葉が、なによりも美しく心に響いた。一生、忘れない記憶となって、心に残った。


 ウェンディが好きだ。カレラがオードリーが好きだ。


 その言葉で、キサラ達は、もっともっと、ウェンディが……カレラがオードリーが、好きになった。


 カレラ、オードリー、ウェンディに対する愛に、躊躇(ためら)いが消えた。


 アベルが、愛することを遮っていた壁をなくしてくれた。


 アベルに、本当の親の愛を教えてもらった気がした。


「なぁ?」


 泣きながら、イリスが言った。


「カレラとオードリーとウェンディの父親って……アベルじゃないか?」


 何度も溢れる涙を拭いながら、エミリーが言った。


「カレラとオードリーとウェンディは、アベルの子供だよね?」


 アリスは、何度もうなずいた


 キサラが言った。


「そうよ……アベルは、カレラの……オードリーのウェンディの父親よ!」


 クレアが言った。


「間違いなく……カレラは……オードリーはウェンディは、アゼル様の子供ですっ」


 キサラ達は、互いを抱き締めて泣いた。


「「「アベルと結婚して良かった……」」」


 アベルと、夫婦になって、本当に良かった……。


 子供にも恵まれた。


 カレラを……オードリーを、ウェンディを、産んで良かった。


 ありがとう……ありがとう……。


 これで私達は、本当の家族になった。……いいえ、もっともっと、本当の家族になっていく。


 どんどん、愛が深くなり、絆が強くなっていく。


 だから、これから先も、もっと、大きな愛が私達を待っている。


 きっと、アベルと一緒に生きるとは、そういうことなのだ。



 落ち着いてから、キサラが会を閉める。


「今回の勝者は、若干、主旨から外れるけど……アリスです!」


 拍手喝采! 満場一致で、その決定は受け入れられたのだった。



「「さて……」」


 キサラとアリスが、イリスの肩を掴んだ。


 爪が食い込んで痛い。


「な……なにをするっ?!」


「経験共有の魔法をかけるのよ?」


 なに言ってんのよ? と、アリス。


「ズルいわよ! 私なんて「執務中はダメ」って言われてるのに!」


 キーっと、嫉妬するキサラ。


「そっ……そうよ。ひ……1人だけズルいよね?」


 なぜか、挙動不審なエミリーと、


「そ……そうですわよね?」


 と、目が泳ぎまくっているクレア。


「はっ……恥ずかしいから、勘弁してくれっ!」


「だーめー」


「観念しなさいっ」


 キサラ、エミリー、クレアに拘束されるイリスに、アリスが杖を振り上げた。



「うわっ……イリスってば、マグロみたい……」


「されるがままなのですね……」


「仕方ないじゃないか! アベルに、触られると、まったく力が入らなくなるんだよ!」


「でも……ここまで可愛がってもらえるんだ……羨ましい」


「アベルにとって、一番可愛いのは、イリスなんだね……。ねぇ、イリス? 泣くまで頬っぺ、つねっていい?」


「それを言うなら、一番愛されてるのはアリスじゃんか! エミリーは心を開いて相談してもらえるし、一番頼りにされてるのはキサラだし、アベルに甘えてもらえるのはクレアだけなんだぞ?! そっちのほうが羨ましいよ!」



「でも……アリスやイリスの記憶のアベルって、凄くカッコいいよね? 恋人フィルター? ……でもそれだったら、私達にもそう見えるハズよね?」


 キサラが疑問を口にする。となりでクレアが、激しく頷いて同意していた。


「アベルって、自分の魅力を隠すクセがあるから……あたし達には、二度と寝取られないように……逃さないように、魅力を隠してないのよね」


 きっと、精霊の魔法。あたし達って、信用失ったから……。


「でもさ……アリスって、綺麗になったね」


「うん、ビックリだ」


「あたしも、驚いてる」


 キサラとクレアが、隠れてこそこそと、


「ねぇ……アリスって……」


「はい。半神(ハイヒューマン)になってます……。愛の女神のハイヒューマンです。イリスとエミリーが早い段階で竜人……ドラゴノイドになって、アリスがまだだったから、気になってたのですよね……」


「アベルと結ばれると、劇的にパワーアップするよね?」


「ホント、なぜでしょう?」


「それにしても……あそこまでアベルに愛される子供達の魅力が凄いわ」


「ホントですね……負けました」

 アベルが「ウェンディとカレラとオードリーを愛するのに忙しくて、セインを憎んでる暇がない」と言って、キサラとクレア、アリスとイリスとエミリーが「アベル、好き好き大好き愛してる」と言ったお話しでした。

 キサラ達にとって、アベルは、例えるなら、セインに対する憎しみという魔王を倒してくれた勇者なんだよね。ですので、今回の話、ある意味、魔王を倒した勇者に、お姫さまがメロメロになるというお話しでもあります。憎しみを愛で乗り越えるという、ドラマティックな物語を書きたかったのですが……どうも、上手く表現出来たように思えません。後日、書き直すかもしれません。

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