73 閑話 エミリーと炊き出し、後日談
「それで? 子供の方のアベルとしては、どうなの?」
別人格でしょ?
「なにが?」
「食糧支援をしてる理由」
「……子供っぽいって、バカにしない?」
「しない」
「んじゃ言うね」
「そんな当たり前のことをするのに理由なんかないよ」
「理由がないんだ……」
「理由を考えずに済むのが、当たり前の利点なんだから当然だね」
「あたしにとっては「当たり前だから」って理由で、容易くやってしまえるアベルが凄いって思って尊敬するけどなぁ……」
まるで、余裕のある大人みたいで。
「ボクにとっては「容易く出来てしまえる」ってところに、恥ずかしさを感じるんだ。だって、自分の限界に挑戦していないでしょう?」
「それのなにが恥ずかしいの?」
「挑戦しない人って、衰えて行くの……人として落ちていくばかりになるのさ。それが、とても、人として、恥ずかしい」
容易く出来ていることだって、みんなが助けてくれるからだよ。自分だけで成し遂げたことなんて、なにひとつない。
魂は、停止しない。浮くか沈むかなんだ。
ボクの魂は、劣化して、低い次元に落ちている最中なんだよ。
だから、ボクは、自分を誇れない。
○
泣き虫アベルが、なにを言っているかなぁ?
あたしは、アベルが、涙を食いしばって、必死で大人してるのを知ってるよ?
大人になれない泣き虫な子供が、決して涙を見せない大人として振る舞うのが、どれだけ大変か……。
心の弱い人間が、心の強い人間のように成るのが、どれだけ大変か……。
あたし達が、アベルを愛する理由のひとつがそれだもん。
あなたは『保護者』よ。もっと、胸を張りなさい!
みんなに助けてもらっているから出来ているって言うけど、みんな、アベルだから、助けているんだよ?
心の弱さを知るあなただからこそ、みんな付いて行くんだから。そんなあなただから、弱い人を強く育てることが出来るのよ?
自分を卑下するのは、みんなに失礼だぞ?
○
「でも、エミリーは、性格が明るくなったよね。子供の頃は、内気だったのに……」
「あれ? あたしがアベルに対して、内気だったことがあった?」
「……そうだった……エミリーは、ボクに対してだけ、弁慶だったね」
「それにさ……昔はともかく、今は、あたしの全てを受け止めて包み込んでくれる人がいるんだよ? どうして自分の気持ちを自分の内側に溜めておく必要があるの?」
「明るくなるわけだ」
「ねぇ……アベル?」
……愛してる。
○
「ところで「泣いてる子供にゴハンを食べさせたい」っていうのは嘘だったの?」
「嘘じゃないよ。でも……本心だけど本当ではないね」
理由と自由を履き違えるほど、分別のない子供じゃない。
「ズルいなぁ……」
「理由を求められたら本当を話すけど、そうでないなら本心で話すよ」
いくつもの要素が複雑に折り重なって出来ている心を『本当』なんて一言で言い表せる訳がないじゃないか。
それにね? 理由は道理だから、心とは別物だよ。心は、理由ではなく自由なんだ。
『本当』とか『理由』には注意しなよ? フルカラーの世界を白黒に塗り替えてしまうぞ?
『本当』に気取られて『全体』を見失っていたとか、よくあることなのさ。
本当の力や強さを誇る強者は、全力で立ち向かってくる弱者に敗れたりするものさ。
○
「でも、子供アベルの方が、不良アベルより大人っぽいね」
「不良アベルより年上だもん、当然だよ」
「でも分かんないなぁ……」
「なにが?」
「アベルが、そこまで自分を卑下する理由」
「ああ、そのことかぁ……」
「……聞いてもいい?」
「うん……例えば、最強の戦士と、最強になろうとする戦士の、どちらの魂が強いと思う?」
「え……? 魂?」
「もっと言えば、賢者になった者と、賢者になろうとする愚者や、善人になった者と、善人になろうとする悪人……どちらの魂が強いと思う?」
「最強の戦士と、賢者と、善人の方じゃないの?」
「彼らは、成ってしまったから、後は落ちるだけなのさ。魂は停止しない。魂の強さは、高めている最中が、最も、強いのさ」
価値の上がっていく存在と、下がっていく存在の、どちらが良いかなんて、誰にでも分かることでしょう?
だからって、植えたばかりの種と、実った果実のどちらに価値があるかという話でもあるので、一概に、どちらがいいかなんて言えないけどね。
今、食べられるか、未来に食べられるかの違いに過ぎないのだから。
賢い果実は、必ず、種を残して「今も食べられるが、未来も食べられる」って言うものなんだ。
完成に至っても、心の奥に種を残して、それを成長させている。
最強に至った者は「上には上がある」と言う。
賢者は「1を知ると10の知らないを知ろうとする」……知ってなお、無知を知る。
善人は「私は、善い人間ではない。まだまだ未熟者だ」と言う。自分のことを善人だって言う善人なんか居ないからね? 良い人なんていないよ? ただ、良くあろうとしている人がいるだけさ。
みんな、落ちたくない……堕落したくないんだよ。彼らには慢心がない。
ボクも彼らのように在りたいんだ。
慢心して、自分自身を誇り「後は落ちるだけです。私に未来はありません」って言っている者と「まだまだ自分自身の中に、未熟な種が育っています。私には未来があります」と言う者の、どちらが良いかなんて、一目瞭然だろ?
「でも、アベルって『慢心しない』じゃなくて『卑屈になる』だもんなぁ……みっともないぞ?」
「うっ……ご……ごめんなさい……」
「素直でよろしい。じゃあ罰に、今回のエッチは、あたしのされるがままになりなさい」
「えっ?! それがどうして罰なの?!」
「いいじゃない……あたし、アベルにシてもらうの大好きだけど、アベルにシてあげるのも大好きなのっ」
「あの……」
「ん?」
「……やさしくシてね」
…………………………。
エミリーは、子供アベルの愛らしさに、身悶えした。そして、押さえきれない劣情に、興奮して言った。
「……無理。クレアと二人で強姦する」
○ エミリーとクレアの、魔法通話。
「クレア~、されるがままのアベルとのエッチし放題の権利を強奪してきたよ、一緒にスル?」
クレアも、こういうの大好物でしょ?
「アゼル様がされるがまま!? ……絶対にシます」
○ カイン、スピア、バースリー、ギブスンの会話
カイン「それにしても、食糧支援か……いい手だ」
スピア「ああ……舌を巻くぜ」
バースリー「奪う者は、持っていないから奪うのです。ですから、奪われる前に、与えておけばいい」
ギブスン「食糧支援が略奪を防いでいる……アベル様には、まったく、そのような考えはないでしょうが……ですな」
カイン「それを当たり前に、やってしまうところが恐ろしいな……うちの領主は、頼もしいよ」
バースリー「アベル様の当たり前は、計算ではなく情けですからね」
ギブスン「まさしく『情けは人のためならず』ですな」
スピア「平民はラプアスだけだが、貴族はブランド化した極上の燻製肉とチーズで贅沢をして大満足だ。わざわざラプアシアに侵攻しようなんざ、思わねぇ」
バースリー「問題は、食糧の原料となる養分豊かな土ですが……」
ギブスン「各領地で、排泄物を錬成し堆肥にして、余剰物資の名目で支援の対価に輸入しております。問題ございません」
カイン「細かい詰めは、私達でやろう」
スピア「あいつの自由は、俺達の理由だ。自由にさせてやろうぜ」
バースリー「それが、一番、みんなの為になりますからね」
ギブスン「自由にしながらも、領民の豊かな生活を守って下さいます。私達は、よい指導者を持ちましたな」
2020年8月24日 カイン達の会話を追記しました。
2020年8月30日 追記。
2020年9月5日 追記しました。
2020年9月6日 一部修正しました。
2021年1月8日 一部修正しました。




