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60 閑話 バジリスク討伐

○ レッドドラゴン討伐後、しばらく経ってからの話です。


「ドワーフの国からの依頼?」


 夫であるアベルに秘密の部屋。


 サロンのようになった部屋で、アベルの妻達が顔を突き合わせていた。


 Sランクの冒険者パーティーである『精霊王の妻達』に緊急依頼だ。


『精霊王の妻達』……別名『アベルにお金を貢ぎ隊』


 アベルの妻達、キサラ、クレア、アリス、イリス、エミリーは、レッドドラゴン討伐で味をしめて、冒険者登録をしてパーティーを結成し、冒険者活動をしていた。


 アベルを、心配で泣かせながら……。


 高名な奇跡の聖女が加わるパーティーということで、あっという間にSランクに登り詰め、指名依頼も受ける身の上だ。


 ドワーフの国にとって重要な鉱山で、行方不明者が続出。というか、その鉱山に行って帰って来た者が居ないって話だ。


 依頼の内容は、原因の調査と、行方不明者の救出。


「で……? クレアは、どうしたいの?」


 領地の財政を握るクレアに、キサラが問いかける。


「報酬の額が魅力です……領地経営の足しにしたいです……(建前)」


 アゼル様に、ギュって抱き締めて頂いて、いっぱい、誉めて頂いて、いっぱい頭を撫でてもらうのです! (本音)


 キサラ、アリス、イリス、エミリーは、言わずもがなの本音の部分で、頷き合う。


「決まりね……依頼を受けるわよ……」


 キサラの鶴の一声で決定した。



「ドワーフの国の鉱山で、行方不明?」


 妻達は、夫であるアベルに許可を貰うため、アゼル(アベル)の執務室に訪れていた。


 家政(火星)婦のマーサさんが、お茶を淹れてくれる。


「ちょっと、精霊視で、見てみるよ」


 アゼルは、精霊を見る視覚で、世界中を見渡すことが出来る。


 アゼルは『知る』という概念の支配者なのだ。


「居た居た……えっ?! これは……!」


「「「キャー! アベルー!」」」


 妻達が、悲痛の悲鳴を上げた。


 妻達の目の前で、アゼルの体が石になったからだ。


 取り乱し、泣き叫び、すがり付く妻達をマーサが一喝する。


「チュルチュルチュル!(落ち着きなさい! 大丈夫です)」


 そう言って、アゼルを触手で抱え上げ、キッチンへ連れていく。


 キッチンの『石を肉』の魔方陣にアゼルを置いて、魔力を流しチンすると、アゼルが元通りになった。


 妻達は、泣いて喜んだ。


「チュルチュルチュル(落ち着いて下さい。特にクレア様にエミリー様は、石化解除の奇跡や神聖魔法が使えるでしょう?)」


 気が動転してて、忘れていた。



「行方不明の犯人は、バジリスクだ」


 元の戻ったアゼルが、自分が見た情報を話した。


 バジリスクに見られた者は石になり、また、バジリスクに触れた者も石になる。


「恐ろしく強力な個体だ……。ボクの視線が触れただけで、ボクが石にされた……」


 恐怖を含んだ震える声で、アゼルが言った。


 きっと行方不明者達は、バジリスクによって、石にされてしまったのだろう。


「作戦会議をしましょう」


 キサラの力強い声に、アゼルは泣きそうになった。


「危険なこと、しないで!」


 妻達は、そっと、アゼルから目を逸らした。



 結局、妻達の熱意に押しきられて、アゼルは依頼を受けることを許可した。


「まず、情報をまとめるわよ?」


 キサラの号令で、作戦会議が始まる。


「見られてはいけない、見てもいけない、触れてもいけない……」


 エミリーが、注意項目を指折り数える。


「あたし、透明化の魔法が使えるわ。これで『見られてはいけない』項目を潰せると思うの」


 アリスが、挙手して言った。採用。


「あっ、俺、見なくても気配で、敵が分かるぜ」


「あたしも、イリスほどじゃないけど、ある程度は……」


 視覚だけに頼った戦いをしないイリスは、目隠ししても、騎士団全員と乱取りが出来るぐらいである。謙遜しているが、エミリーもだ。


「たとえ、石化しても、即座に、私が治します」


 ふんすっと、クレアが拳を握りしめる。


「……役に立てないのは、私だけかぁ……」


 キサラが、残念そうに言う。


 そこに、アゼルが突然カスタネットを取り出して、キサラに言う。


「キサラ……目をつぶって、これを手に持って叩いて、音が帰ってくるタイミングを測ってみて」


 不思議に思いながら、キサラが言われた通りにしてみる。


「……えっ?!」


 キサラが驚いた。


 位置が鮮明に分かる。どこになにがあるかが、ハッキリと分かったのだ。


 キサラが視線で、アゼルに説明を求める。アゼルが答えた。


「エコーロケーションって言うんだ。キサラのハイエルフの超聴覚なら、出来ると思ったんだ」



 作戦は決まった。


 目隠ししたキサラがエコーロケーションで、目隠ししたクレアとアリスの手を引いて連れていく。


 アリスは、透明化の魔法で、バジリスクの石化の視線を無力化する。


 同じく、目隠ししたエミリーがメイスの一撃でバジリスクの意識を奪って、同じく、目隠ししたイリスが、一撃で、バジリスクの首を落とす。


 攻撃が触れることによって石化するであろう、イリスとエミリーをクレアが治す。


 そして、石化した行方不明者達を治して、連れて帰ってくる。


「イリス、エミリー。これを持って行ってくれ」


 アゼルが鏡にようになった盾を、イリスとエミリーに手渡す。


「バジリスクが鏡の中の自分を見たら、自分の石化の視線で自分自身を石に変えるから」


 そうでなくてもバジリスクは、鏡を持つイリスとエミリーを見れなくなる。そこに隙が生じるハズだ。


「「ありがとう……アベル……」」


 大好きだよ。



 鉱山の坑道を、イリス、エミリーを先頭に進んでいく。


 ほどなくして、生きながら石像にされたドワーフや冒険者達が、立ち並ぶ区画に出る。


 まるで水の腐った湿地のような匂いが漂って来る。


 空気の揺れからイリスとエミリーが魔獣の気配を感じ、そこに向けて鏡の盾を構える。


 明らかに嫌がって、警戒する気配……。


 鏡の危険性を知っている老獪(ろうかい)な個体だ。


 ……やっかいだな……。


 イリスとエミリーが、ごちた。


 わずかな地面の振動が、巨体の存在を伝えてくれる。


 キサラのエコーロケーションのカスタネットの音に紛れて、不気味な擦過音が聞こえる。


 イリス達を威嚇する、凶悪な巨体のトカゲ……バジリスクの声だ。


 アリスの透明化の魔法によって、バジリスクにとっては空中に浮かんだ鏡の盾しか見えていないハズだ。


 ただ、バジリスクも視覚だけに頼って戦うわけではない。


 匂いも、振動も、音も、感じている。


 妻達と、バジリスクの間に、緊張が張り詰める……。


 突然!


 バジリスクが、盾に向かって、体当たりを仕掛けて来た!


 エミリーが正面に立ち、イリスが横にずれる。


 エミリーがバジリスクの脳天に、メイスを振り下ろす!


 エミリーのメイスの一撃が、バジリスクの意識を奪う!


 バジリスクに触れたことによって石化して倒れるエミリーの横から、イリスが飛び出し、無防備にさらされたバジリスクの首を落とす!


 イリスもバジリスクに触れたことによって石化するが、クレアが即座にイリスとエミリーを石化から癒す。


 こうしてバジリスクは、Sランクパーティー『精霊王の妻達』によって、無事、討伐された。



 行方不明者達も石化から癒し、無事、救出し、バジリスクの死体を時間停止機能付きの魔法のカバンに入れて、ドワーフの国に凱旋した。


 盛大に開かれた酒宴もそこそこに妻達はアゼルの元に帰還し、アゼルの前に金貨の山を積み上げて、幻視する犬のシッポを思いっきり振って、アゼルをワクワクした目で見る。


「よーしよーし、よくやったぞ!」


 アゼルは、まるで、愛犬を愛でるように、ワシワシと頭を撫でて、抱き締め、思い切り誉めた。


「「「イヤーン、嬉しいーっ!」」」


 ラプアシアの領主の城に、妻達の喜声が、響き渡ったのだった。


 危険なことをしないで欲しいアゼルは、少し複雑だったが、素直に妻達の無事を喜んだのだった。

2021年1月7日 読点を整理しました。

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