6 人生の目標と神々の事情
「それで、当面、どうすればいいかな?」
アベルの純粋な、他人任せとも取れる質問に、
『竜が弱ってる内は神様に見つからないと思う。精霊達も頑張っているしね。それより問題は近い内に起こる飢饉だね』
「飢饉が起こるの?!」
『近い内に魔王が生まれる。その前兆で魔物達が活性化するんだ』
「ちょっと待って、魔王が生まれるって、大問題じゃない! でも、どうしてそれが飢饉につながるの?」
『具体的には、魔物の活性化でゴブリンの数が増えて、森の恵みが得られなくなる』
森の恵みがゴブリンに喰い尽くされる。
大変だ~、どうしよう。
アベルは目を閉じて思索した。
すると、意識が世界中に広がり、全てに溶けて、全ての声が聞こえた。
雑踏の中の声を聞き分けるようにして、そこから必要な情報を抜き取る。
万物に宿る精霊達が、親切に教えてくれた。
ナギア高地の上に、食べられる種をつける草が群生していた。
これだけあれば、村のみんなが10年暮らせる。
しかも、収穫しても、1ヶ月もあれば、実ってまた収穫できる。生命力の強い雑草みたいだ。種は栄養豊富だが雑味が強くて、食べるのに苦労しそうだ。有り体に言って不味い。
これを持って帰って、畑で育てるといいかもね……。
安心のため息を吐いた後、はたっと気がついて驚きの声を上げた。
「……って、ナギア高地!?」
神々が住む天界って言われてる伝説の場所じゃん!
どうやって行こう……って、問題はそれだけじゃない。
意識を広げると、ナギア高地にはエルフが、多数、住んでいた。
その規模は小さな国レベル。神は住んでいなかった。
「ここに神様が住んでいないなら、神々はどこに居るんだろう?」
その疑問を口にすると、時の精霊が答えた。
『神々を喰い殺す竜に肉体を喰い尽くされ、精神生命体となって、精神世界に移住したよ』
「そんな大事件が、どうして人間界に伝わっていないんだろう?」
『威厳が保てないんだって。見栄っ張りだね』
やれやれと、時の精霊が肩をすくめた。
そもそも、人々の信仰心が、竜と精霊に見放された神の力の源である。評判を落とすわけにはいかなかった。
『そもそも、竜の暴走の理由が、竜を鎮めるために奉納されたお酒を、神々が盗み飲みして飲み尽くしたのが原因だしね』
「そんなくだらない理由で……」
アベルは脱力した。
神々は、驕り高ぶり『どれだけ我が儘に振る舞ってもいい』と思っていたのだ。
厳密に言うと、そんな神ばかりではなかったが、多数の神がそうなってしまった。
なんでも出来る存在が、必ず、心が美しいというわけではない。
そして、古の盟約を破り、竜の鎮酒に手を出した。
怒り狂う竜に殺された神々は、なぜか強力な精神生命体として再誕し、竜に逆襲した。
この時に、神々は竜に神々を再誕させる力があることに気付くべきだった。
死んでも治らなかった度しがたい馬鹿がここに居る。
逆襲された竜は、その力を落とし、精霊に助けられ、気配を絶って逃走した。
そして、現在に至り、破滅の未来につながる。
○
意識をナギア高地に集中して、情報を集める。すると、意外な事実が分かった。
「食糧を奪い合って、部族ごとに分かれて戦争してる……」
まるで戦国時代だ。
食糧危機の原因は、神々が去ったことによる神力の衰えに起因する大地の力の衰えだ。
もうすでにナギア高地には、雑草くらいしか育たない。
「ふう……」
これ以上の情報は得られないと思い、アベルは思索を終わらせ、疲れにため息を吐いた。
「実際に行ってみないと、これ以上の情報は分からないなあ。でも、どうやって行こう」
『風の精霊に、お願いすればいいよ』
「対価が払えないよ……」
『そんなの、魔力で払えばいいって決まってるよ。アベルの魔力は質も密度も段違いでいいから、精霊だったら誰でも大喜びで引き受けてくれるよ』
厳密に言うと、アベルの魔力は、魔力ではなく竜力と呼ぶべきものである。
魔力の前に神力があり、神力の前に竜力がある。
100の魔力が1の神力であり、100の神力が1の竜力である。
ゆえにアベルの魔力は、質も密度も段違いなのだ。
「飢饉が本格化するのはいつ?」
『3年後くらいだね。今から備えていないと間に合わないかもね。君だけなら大丈夫だけど、村のみんなを見捨てるって選択肢はないんだろう?』
アベルは固い決意を込めた瞳で頷いた。




