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56 閑話 ピクニック

○ 50 馬車旅の後の話です。


「「「ねえねえ、おかあさま達、聞いて聞いて! あたし達、パパと馬車で旅して、バーベキュー食べたんだよ!」」」


 レッドドラゴン討伐から帰って来たアゼルの妻達に、カレラ、オードリー、ウェンディが自慢する。


 妻達はショックを受け、泣きそうな瞳で羨ましそうにアゼルを見た。


 捨てられた子犬じゃあるまいし、そんな目で見ないで欲しい。


 アゼルは、必死で笑いをこらえ、妻達に言った。


「じゃあ、レッドドラゴン討伐のご褒美に、ラプアス農場を見渡せる丘で、バーベキューを、ごちそうするよ」


 妻達の顔が見る間に晴れ渡り、拍手喝采、万歳三唱で喜んだ。


「じゃあ、今回は、おかあさま達は、お客さまだから、カレラとオードリーとウェンディとパパで、バーベキューを用意するぞ? 手伝ってくれるかい?」


「「「はい!」」」


 アゼルのお願いに、カレラ、オードリー、ウェンディが、元気に笑顔で大きく返事した。



 黄金の海のような、ラプアス農場を見渡せる丘でテーブルとイスを設置し、妻達を座らせ、軽いつまみと妻達お気に入りの果実酒を振る舞い、アゼルと子供達は隣でバーベキューセットを広げ準備に取りかかる。


 拙い手つきで手伝う子供達を時間と手間を惜しまず根気よく教え、笑顔でバーベキューの準備をする、アゼル……。


 そんな、掛け値なしの笑顔を見せるアゼルを見るアリス、イリス、エミリーの胸に、ある想いが去来していた。



 見返りも求めずに、アリス達と子供達を養ってくれるアゼル(アベル)……。


 私達の(あやま)ちを、全て、受けて立ち、背負ってくれたアベル……。


 まるで、私達が作った借金の返済を肩代わりさせたようなものだ。


 ……申し訳ない……。


 アベルに顔向け出来ない……申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 でも……。


 そんなアベルが、今、嘘偽りない、幸せな笑顔で、子供達と一緒に笑っている。


 心の中に、幸せしかない者が見せる笑顔だ。


 アリスとイリス、エミリーは、その笑顔に、全て許された気持ちになるのだ。


 救われる……。


 まるで、


「罪なんかないじゃん」


 と、なんの気負いもなく、あっけらかんと言われてるみたいで……。


 申し訳ない気持ちが霧散して、代わりに、晴れやかな気持ちが到来する。


 アベルに対して、限りない感謝の気持ちが溢れ、そして、そのアベルを本当の笑顔にしてくれる子供達に「ありがとう」を言いたい気持ちでいっぱいになる。


 私達は、確かに、カレラ、オードリー、ウェンディに助けられている……。


 そして、気付く。


 私達……幸せだ……。


 嬉しさで、目に涙が(にじ)んだ。



 まるで、本当の親子のように、バーベキューの準備をする、アベルと子供達を見て、ビーナとタニアを抱いたキサラとクレアの胸に想いが去来する。



 アリス、イリス、エミリー……そして、カレラ、オードリー、ウェンディが来てくれて本当に良かった……。


 アゼルのカレラ達を見る目を見て、カレラ達がアゼルの子供じゃないなんて思う者なんて、ひとりも居なかった。


 カレラ達はアゼルの冒険者時代の恋人達との間に出来た子供であるとされ、領民全員に快く受け入れられた。


 アゼルもカレラ達が自分の子供であると公言し、家督は、この3人のいずれかに譲ると宣言した。ユーフォリアでは、女領主など珍しくない。少しもおかしい話ではなかった。


 また、視察に行くときは、必ず子供達を同行させ、誘惑してくる女達からガードさせた。


 また、子供達も自ら進んで、見事にボディーガードの役割りを果たしたのだった。


 それによって潮を引くように、アゼルを誘惑する者が居なくなった。


 貴族からの縁談も、一切なくなった。……替わりに、カレラ達への縁談が舞い込むようになったのだが……。


 それでも、キサラとクレアは思った。


 ……ハニートラップが、なくなって良かった!


 本当に良かった……。


 キサラとクレアが心の底からホッとして、嬉しさに泣き出しそうな思いで、胸を撫で下ろしたのだった。


 本当はアベルが私達以外の女を抱くなんて、絶対に、イヤだった。


 嫉妬で、気が狂いそうだった。


 もし、その女に夢中になって私達に見向きもしてくれなくなったらと思うと、ラピータから身を投げたくなった。


 アリス達はいい。アリス達はアベルの家族だし、アベルの家族は自分達の家族だから。それに、なにより、気の合う大切な親友だから。


 もう一度、アベルを見る。


 カレラ達を見る、その笑顔は、疑いようもない我が子を見る優しい幸せな顔だ。


 それと同じ顔で、ビーナとタニアを見てくれる。


 疑いようもない。


 アベルはビーナもタニアも、カレラもオードリーもウェンディも、変わらず同じように、分け隔てなく限りなく愛を注いでくれる。



「カレラ、オードリー、ウェンディって、凄いよね……」


「ええ……凄い、です」


 キサラとクレアが、アリス達に言った。


「あんなに、アベルを幸せにしてくれる。血は繋がってなくても、あの()たちは間違いなくアベルの子供よ。カレラを……オードリーをウェンディを……アベルの子供を産んでくれてありがとう」


「本当に、ありがとう……。カレラとオードリーとウェンディは間違いなく、私達も幸せにしています……本当に、凄い子供達……」


 それは、心の底からの、感謝の言葉だった。


 その言葉に、アリス、イリス、エミリーは、泣きそうになった。


 ……私達は、こんなに、恵まれている。


 感謝の気持ちが、溢れ出して止まらない。


「「「こっちこそ、ありがとう」」」


 涙声でキサラとクレアに、お礼を告げた。


 それでも溢れる想いが止まらなかった。


 この溢れる想い……愛を、いったい誰に受け止めてもらえばいいのか……。


 ふと、イリスが思いつきを口にした。


「なあ……今夜、アベルを襲わないか……全員で……」


 アリスが震える声で、呟くように言った。


「そうよね……レッドドラゴン討伐の遠征の間、ずっと我慢してたもんねっ」


 エミリーが、まるで言い訳をするように言う。


「そっ……そうよね? あたし達、頑張ったもんねっ?」


 クレアが、どこか我慢出来ないように言う。


「……ご褒美、いただいても……いいですよねっ?」


 キサラが欲望に目を輝かせて言う。


「……決まりね。今夜、全員でアベルを襲うわよ……」


 アベルが背筋に寒気を感じ妻達に振り返る。


 妻達は、ひゅっと肉食獣の顔を引っ込めて、お澄まし顔をする。


 なにごともなかったような無害な笑顔でアベルに微笑み返す。


 アベルは不思議そうな顔をして、準備に戻るのだった。


 妻達は悪戯(いたずら)っ子の顔をして、お互いを見る。そして、可笑しくて吹き出し大きく笑い出す。


 それは、底抜けに明るい、幸せの笑い声だった。


○ 次の日の朝


「ねえ……アベルの精力って、無限なのかな……?」


「俺達、5人がかりで襲って、逆に、全員、足腰立たなくされるって、どんだけだよ……」


「アベルが作ってくれたサンドイッチが美味しい……」


「優しく食べさせてくれるところが、また、いいよね~」


「幸せ、いっぱいです」

2020年8月2日 一部修正しました。イリスの一人称が間違っていました。

2021年1月6日 読点を整理しました。

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