55 閑話 イーステリア辺境伯爵家の伝承
○ 41 神々が造りし迷宮の後の話です。
ビーナとタニアの命が救われた後、落ち着いた頃合いで、アゼルとクレアはタニアを連れて、イーステリア辺境伯爵に挨拶に行った。
イーステリア辺境伯爵家の下にも置かない、まるでお祭り騒ぎのような大歓迎を受けた。
伯爵夫妻はタニアを抱いて喜びでデレデレになり、アゼルとクレアを褒め称えた。
賑やかな祝宴が終わり落ち着いた時、伯爵が真剣な顔で、アゼルとクレアを防諜の対策が完璧に行われた最奥の部屋に連れて行った。
……どこか、張りつめた緊張感を漂わせた伯爵が、アゼルとクレアに語った。
……イーステリア辺境伯爵家に伝わる伝承を……。
○
イーステリア辺境伯爵ガーランドが、重々しく言った。
「これから話すことは、誰にも言ってはならない……特に宗教関係者には、絶対に、秘密にしなくてはならない」
そう、前置きして、語り出した。
○
昔、神々には、寿命があった。
神々は、不死と言っていいほど長命ではあるが、人と同じ、定命のものだったのだ。
神々は、焦っていた。
限りある命の内に、より高次の次元に行くための徳を積むことが出来そうになかったのだ。
そこで、神々は暴挙に出た。
神々の死を司る、夜の海の竜を、殺したのだ。
確かに神々に死はなくなり、不滅となった。しかし、同時にユーフォリアに夜がなくなってしまった。
夜がなくなってしまったことによって、ユーフォリアの気温が上がり、海が干上がって草木が枯れた。
神々は夜エルフを祀り上げることによって、夜エルフ……夜闇のハイエルフ……の血が受け継ぐ古の闇の神の力を呼び覚まし、ユーフォリアに夜を造り出した。
「今もユーフォリアの南半球は、不毛の荒れ地なのだよ」
これ以上、不毛の荒れ地が北上しないように内海サフィーで栓をして、夜エルフを配置し、これを鎮めた。
「イーステリア辺境伯爵家は、もし、内海サフィーに住む夜エルフが死に絶えた時の予備として、神々によって夜エルフと混血された、ユーフォリアを枯死で滅ぼさないための最後の防波堤なのだ」
伝承を受け継ぐ者は、いなくなったが、元々、王家も魔王も、イーステリア辺境伯爵家の、血筋を絶やさないように守る存在だった。
不死となった神々は「時間ならいくらでもあるから」と、より一層、徳を積む努力をしなくなった。
「今、ユーフォリアには、滅亡の危機が3つある。ひとつが、魔王の復活。ひとつが、惑星の枯死。そして、最後に、神々の堕落だ」
神々の位階が下がり、ユーフォリアに存在できなくなってきている。より下位の次元に堕ちるのだ。
もし、神々が居なくなると、世界を維持できなくなる。
あらゆる存在が、存在しようとすることすら、欲しなくなるのだ。
ユーフォリアに、風が吹かなくなる。水が流れなくなる。火が燃えなくなる。光が輝かなくなる。
そして、人々は、自ら、生きることすら欲しなくなる。
なにが良いことなのかが不明になるのだ。
「人々を滅ぼす程度の魔王など、かわいいものだ。ユーフォリアそのものが、なくなるのだから」
魔王も魔物も、ユーフォリアそのものという枠組みの外にある存在ではない。ユーフォリアの一部なのだ
まったく、このユーフォリアの危機に、魔王はいったい、なにをやっているのか。
魔も人も、手を取り合って、この危機を乗り越えなくては、ならないのではないのか。魔王には、その役割……協調性を期待されて生み出されたハズだ。
それが、いつしか、その役割は風化し、記憶する者すら居なくなった。
役割を忘れ、王家は政争に明け暮れ民は飢え。魔物は好き勝手やって、魔物にとって魔界こそが楽園であるゆえ、魔王は人間を滅ぼして、人界を魔界化することしか考えていない。人界を魔界化したところで、ユーフォリアごと、その魔界すらなくなってしまうのに……。
この事実を暴露して、助けを求めようとすれば、神々の妨害にあう。
神々にとって、都合の悪い真実だからだ。
神々の評判を落として、人々から信仰心を吸い上げることが出来なくなったら、神として存在できない。神力の源が絶たれるのだ。
それが、竜に背いた神々の限界である。
竜力から、神力をもらうことが出来ないからだ。
魔の前に神があり、神の前に竜がある。
知の前に欲があり、欲の前に命があるように。
人は、自分が見たいようにしか、世界を見ない。
それが、ユーフォリアの理である。
「これが、イーステリア辺境伯爵家の伝承……。ユーフォリアの真実だ」
2021年1月6日 読点を整理しました。




