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50 閑話 馬車旅

○ キサラ達が、レッドドラゴン討伐に行った時の話です。アゼル視点。


 キサラ達……アベルの妻達がアベルを置いてレッドドラゴンの討伐に行ってしまった。


 ラプアシア領主の城、執務室でアベル(アゼル)は、ただ、イスに座っていた。


 書類は山積み。しかし、手につかない。


 心配で心配で、どうしようもないのだ。


 その時、いつの間にか執務室に入って来た筆頭文官のバースリーがアゼルに言った。


 全然、気がつかなかった。


「アゼル様、そろそろ、視察の時間です」


「視察?」


「そうです。イーステリアとラプアシアを結ぶ道の整備が終わったので、イーステリアから馬車に乗って道の具合を確かめたいと仰っていたではありませんか」


 確かに言った。しかし、それが今日だとは言っていない。


「ギブスン様が手配しております。すぐにエントランスに行って下さい」


 疑問が尽きないが、とりあえずバースリーの言う通りにした。


 あまり、頭が働かなかった。


○ バースリーとギブスンの会話。(アゼルには秘密……に、してない)


 バースリーがギブスンに報告する。


「名目は完成した道路の視察です」


 ギブスンが、それを受けて答える。


「本当の目的は、領主に余裕があることを見せること……ですな」


 バースリーが、それに答える。


「そうです。領主(アゼル様)が仕事ばかりされていると、領地経営に余裕がないのでは、と、領民が不安を覚えます。ここで、アゼル様には馬車旅を満喫して頂き、領民に余裕を示します」


 アゼルは領地経営と家事と育児しかしていない。


 仕事(領地経営)も家事も育児もアゼルの趣味であり生き生きとして、とても幸せそうなので放っておいて良さそうなものだが、それでは示しがつかない。


 最早、アゼルは私人ではなく公人なのだ。


 バースリーとギブスンの会話は続く。


「裏の目的は奥様方がレッドドラゴンの討伐に行かれて、心配でポンコツ化したアゼル様の、お世話をすることです」


「カレラ様にオードリー様、ウェンディ様に、ビーナ様とタニア様を、アゼル様の、お世話係に付けましょう」


「これ以上ない、人選ですな」


 バースリーもギブスンも、言葉に遠慮がないなあ。



 ギブスンに勧められるまま飛空船に乗り、イーステリアに着くと、そこに家族と親しい友人達が待っていた。


 その中に珍しい人(?)を見つけ、声をかけた。


「精霊女王、まだ、帰ってなかったんだ」


 そう、そこには神々が造りし迷宮の踏破の時にビーナとタニアの診断に呼び出した精霊女王の姿があった。


 ビーナを抱くキサラの母、ニーナの隣に立ちタニアを抱いている。


「なに? 邪魔者扱い?」


 まるでキサラのように、口を尖らせる。精霊女王は、実の母であるニーナよりもキサラに似ている。性格が。


 対するニーナは、キサラと、どっちが母親か分からないくらいに大人しく引っ込み思案だ。


 今もオロオロして、アゼルと精霊女王を見ている。


「「「パパ!」」」


 突然、突進してきた5歳になる娘達、カレラ、オードリー、ウェンディを抱き止める。


「「「パパと馬車で旅行! 嬉しい」」」


 と、満面の笑みだ。


 それを見てアゼルに少し正気が戻った。


「パパも嬉しいよ。バーベキューをしたりテントで寝たりして楽しもうな」


 デレデレである。目に入れても痛くないだろう。


 メンバーは、それ以外にギブスンとナビゲーターにヘンリーと、その家族……妻のライラ、15歳になる娘のライラック、10歳の息子トーマス、そして家政(火星)婦のマーサさん達。


 マーサさん達は時の精霊の古い友人で、どう見てもクラゲとタコを足して2で割ったような外見をしてるのに、それを誰も疑問に思わない不思議なメイドだ。


 メイドとして、とても有能で妻達からの信頼も厚く、また、カレラ達やビーナとタニアの受けもいい頼れる存在だ。


 チュルチュルと、まるで粘液を練り合わせたような声でしゃべるけど普通に意志疎通が出来て、誰も不思議に思わない謎の存在だ。


 ……なぜ、誰も突っ込まないのだろう?


 アゼルだけが、いつも疑問に思っていた。

 


 馬車の発着場に併設された旅事務所で、ヘンリーさんが魔法のカバンを受け取って、隣に付いてきたアゼルに説明する。


「ここで、旅の間に必要となる食糧や水など生活消耗品の入った時間停止機能付きの魔法のカバンを借ります」


 イーステリアからラプアシアまで馬車で約3日、なにもない不毛の荒れ地を旅しなくてはいけない。獣も魔物も完全に居ないが、その間、水も食糧も全く補給するところがない。


 だから、このように大容量の魔法のカバンに、水と食糧などを入れて持っていく必要があるのだ。


 別に、魔法のカバンでなくてもいいのだが、それでは大荷物になり交易品を圧迫する。


 お手軽にラプアシアを訪れるためには、最早、魔法のカバンのレンタルは必須となっていた。


「有料で、ちょっと値が張りますけど出せない額ではありません。ラプアシアの特産品を仕入れて帰って売りさばけば、十分、元が取れます」


 と、ヘンリーさんが、説明する。


 今回は、ちょっと高額の豪華キャンプセットですから少し手痛いですけどね。と、付け足した。もちろん費用はアゼルが負担した。


「カバンの持ち逃げとか、ないのですか? おとうさん」


 息子のトーマスが父親であるヘンリーに聞く。


 ヘンリーは笑って言った。


「もちろん、あるさ。でも、このカバンには自動的に帰還する魔法がかけられていて賃貸期限が来ると、この旅事務所に勝手に戻ってくるんだよ」


 ラプアシアの魔法技術は、世界一。



 見事に整備された道を馬車で走る。と、言っても人が小走りするくらいの速度だ。


 道がいいからか振動が、ほとんど感じない。


 景色は見渡す限りの、不毛の荒れ地。


 でも、アゼルは景色ではなく、記憶を見ていた。


 妻達がレッドドラゴン討伐に行くと言い出した時のことを……。



 キサラを筆頭に、妻達が真剣な顔で、並んで立っている。


 お願いの内容はレッドドラゴン討伐の依頼を妻達だけで受けたいというもの。


 2000人近い人間とエルフの連合軍で討伐するとのことで、それに同行するらしい。


 アゼルは、執拗に食い下がって反対した。


 アゼルにとって妻達とは手元に置いて守りたい、限りない価値のある存在なのだ。


 後ろでアゼルが守っている状態ならばともかく、妻達だけで危険な依頼を受けるなどアゼルにとって話し合いの余地などない、どうしても容認できないことだった。


 反対するアゼルに、妻達は食い下がった。


「「「このままじゃ、私達は、ダメになる」」」


 と、言って……。


 それは分かる。


 現にアリス達がセインに騙されるように育ったのは、アベルへの依存が過ぎたからだ。


 過保護は人を育てない。逆にダメにする。


「誰かの言いなり(依存)になってれば、それだけでいい」


 なんて、思ってしまった人間は、簡単な罠に、すぐに(おちい)ってしまうのだ。


 妻達の育成のために、冒険させてあげたい。


 だが、問題は、アリス、イリス、エミリーだ。


 キサラとクレアは、それぞれ、ラピータとアムリアに身代り人形による同時存在があって、死ぬような危険に遭えば即座に人形と本体が入れ替わり死ぬことはない。


 しかし、アリス、イリス、エミリーは、身代り人形を使っていない。


「アリスとイリスとエミリーが、身代り人形を使ってくれたら、許可するよ」


 ギリギリの妥協案を、アゼルは示した。


 しかし、それは、アリス達によって、否定された。


「死んでもいいなんて気持ちで、冒険なんて出来ないよ。その思い込みが、周りにどれだけ迷惑をかけるか……」


 死んでもいいと思っている者は無茶な行動を取る。単独で冒険しているならば、まだしも、集団で冒険している時に、これをされたら周りの者が巻き込まれる。


 そこに待っているのは全滅だ。


 そこに思い至ったアゼルは沈黙した。


 冒険を認めたい。でも、心配だ。


 決められないアゼルの背をアリスが押した。


「命が危険になったら自動的に帰還の魔法がかかるようにしておくから安心して」


 アゼルは苦渋の決断で、妻達の冒険を許可した。



 馬車の中で回想から帰って来たら、アゼルは幼女まみれになっていた。


 カレラ、オードリー、ウェンディに、心配そうに抱きつかれていた。


 目が合うと3人は言った。


「「「パパ、大丈夫! あたし達がついてるよ」」」


 思わず涙が、こぼれた。


 こんな小さな子供達に気を遣わせるなんて父親失格だ。そこに、ヘンリーさんが声をかけた。


「少し早いですが、キャンプの準備をしましょう」


 その声を聞いてアゼルは努めて明るく言った。


「カレラ、オードリー、ウェンディ、パパと一緒にテントを張ろうか?」


「「「うん! あたし達、頑張るよ」」」


 元気な返事を受けて、アゼルの気持ちは軽くなるのだった。


 うん、心配ない。レッドドラゴンごとき、イリスが喰い殺してくれる。エミリーが撲殺してくれる。


 アゼルと結婚してから、なぜか妻達は、超常的な力を持つようになった。


 だから、心配ないんだーっ!


「「「パパ、大丈夫! あたし達がついてるよ!」」」



 アゼルは、カレラ、オードリー、ウェンディと一緒にテントを建てていく。


 ニーナと精霊女王はマーサさん達と、ビーナとタニアの世話をしている。


 ニーナさんが、満面の笑顔だ。


 孫が可愛くてしょうがないと言った風だ。外見年齢は下手をするとキサラよりも若く見えるくらいだけど。


 ヘンリーさんと、その家族は、ギブスンと一緒にバーベキューの準備。


 ちなみにヘンリーさんの娘ライラックと息子トーマスは、アゼルのことを「アゼルおじさん」と呼んで慕ってくれている。


 思えばヘンリーさんとは長い付き合いだ。


 いくつも秘密を共有する親しい仲だ。


 どうやればイーストエンド村を救えるか、一緒に、(たくら)んだっけ。


 アゼルにとってヘンリーさんは、最も信用出来る御用商人だった。


 やがて、全ての準備が終わり、全員でバーベキューを楽しんだ。



 夜。


 テントで寝ていると、隣のニーナ、精霊女王のテントから、声が聞こえた。


「さあ! アベル(アゼル)に、夜這いに行くわよ!」


 とんでもないことを言い出したのは精霊女王だ。


「えええっ!? そんな、(おそ)れ多いよ!」


 泣きそうな情けない声を出したのはニーナだ。


「キサラ達……アベルの妻達が居ない、今がチャンスよ! これを逃したら、機会なんてないわ!」


「そんな~……キサラに悪いよぉ……」


 強気な精霊女王。弱気な美の女神(ニーナ)


 丸聞こえなんですけど……。


「神々の母の精を受けるチャンスよ? ニーナだって竜母のことが好きでしょう?」


 まあ、私のターゲットは竜母ではなくアベルだけどね……。


 ボソッと精霊女王が呟いた。


「でも、私の体は、(けが)されたから……」


 泣きそうなニーナの声。


 それに対して精霊女王が断言した。


(けが)されたから抱いてくれるのよ」


 抱くことで「あなたは、(けが)れてなんかいない」と、言葉にせずに言ってくれる。それがアベルだ。


 と、精霊女王は、言った。それに……と、付け足した。


「今がユーフォリア滅亡の危機だって、ニーナも分かっているでしょう?」


 それが、どうして夜這いに繋がるの?!


「ええ……分かってる。分かってるけど、でも……」


 そんな理由で好きな人に抱かれたくない。抱かれる理由は「愛し合っている」で、なくちゃイヤ。


 煮え切らないニーナに、精霊女王がキレた。


「えーい! 生娘(おぼこ)じゃあるまいし、今さらカマトトぶってんじゃないわよ! それ、突撃ー!」


 精霊女王が、ニーナを引きずって来る音がする。


 ニーナの叫びが、夜に響いた。


「キサラ、助けてー!」


 うん。みんな、起きて来たし。



 目立ったトラブルもなく楽しい2泊3日の馬車旅キャンプ旅行も終わり、ラプアシアに帰って来て、しばらくして、キサラ達、アゼルの妻達も帰って来た。


 元気な笑顔と、大量の金貨を持って。


 凄く誉めて欲しそうな妻達の顔を見て、アゼルは悟った。


 ああ、妻達はボクに金を貢ぎたくて、レッドドラゴンの討伐に行ったんだ……。


 妻達も領民も、なぜかアゼルに金を貢ごうとする。


 もう、十分に返して貰っているのに、まだ足りないと言って、お金を持ってくるのだ。


 そして、大喜びで受け取らないと可哀想なくらい、しょんぼりするのだ。


 アゼルは大慌てで、大袈裟なくらい妻達を誉めた。


 抱きしめて、いっぱい、頭を撫でた。


 それが正解だったようで、妻達は大満足の艶々(つやつや)した顔を笑顔で輝かせていた。


 とても、幸せそうだ。


 あまり心配は、かけないで欲しいけど、極上の笑顔が見れたから、よしとするかなと思ったアゼルだった。

2021年1月6日 読点を整理しました。

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