5 未来科学魔法
「未来科学魔法ってなんなの?」
『魔力じゃなくて、科学で魔法を使う……ようなものだよ』
「科学ってなに?」
『この世界の成り立ちの不思議を解き明かして再現すること。色々な材料を複雑に組み合わせて新しい便利な道具を作り上げるってことだよ』
「まるで魔法道具技師だね。それで、未来科学魔法って具体的になにができるの?」
『おおよそ、なんでも出来る。全知全能の再現を目指した魔法だからね』
「凄いや! まるで神様みたい」
(神様達が少なくなって、人が神様の代わりをしなくちゃいけなくなったからね。もっとも、初めっから無理な話で、結局人も滅びちゃったんだけど……)
時の精霊は、心の中で愚痴った。
不滅であるはずの神々は、竜という存在を亡くして、不滅ではなくなってしまった。
最後の神を亡くした時、人々は、なにも欲しがらなくなった。
……そう、なにも。
食べることも、生きることも、存在することすらも。
少なくなった神々の代理を務めた人の文明は、そこで崩壊したのだ。
時の精霊は、その文明の、最後の遺産を持ち出した。
この世界とは異なる次元に根を下ろした壮大なる機械の仕組み。
『エデンズアップルシステム』の全ての権限を、アベルに委譲した。
○
アベルの中に、なにかがするんと入って来た。
「これはなに?」
『エデンズアップルシステム。これで未来科学魔法のひとつが使えるようになったよ』
「エデンズアップルシステムってなんなの?」
『質量を持った立体映像を映し出す映写機だよ。分かりやすく言うなら、触れる幻を造り出す魔法道具だね』
「?」
理解が出来ていないであろうアベルに、時の精霊が補足説明をする。
『例えば、ゴーレムの幻を造り出すとする。普通の幻ならパンチで敵を攻撃するとすり抜けちゃうけど、エデンズアップルシステムで造り出した幻は、パンチが本当に敵に当たっちゃう』
うんうんとアベルは頷いた。
『例えば、リンゴの幻を造り出すとする。それを食べると、本物のリンゴのように、体内で栄養素として働いて、新陳代謝で体外に排出された後に消える』
「?」
『つまり、本物のリンゴと働きが同じってことさ。エデンズアップルシステムが壊れない限りね』
(火星人の技術を流用してるから、壊れることはないだろうけどね)
時の精霊が、コッソリ呟いた。
「幻って、どれくらいの数を映し出せるの?」
『10億台の召使いロボットと、10億人を養う食糧を20000年間映し出してもまだ余裕だったなあ……。分かりやすく言うと、ハッキリと分からないけど、とにかくたくさん映し出せるよ』
時の精霊って、あったま、悪いなあ。
『注意しなくちゃならない点は、どれだけ凄くても所詮は幻ってこと。儚い夢さ。頼りっぱなしにすると、いつか痛い目に遭う』
(もちろん、「たかが夢だ」と人を馬鹿にする人間は、ろくなもんじゃないけれど)
例えば、エデンズアップルシステムで魔法の霊薬『エリクサー』を造り出し、怪我人に飲ませて傷を治したとする。
ここで、例え幻でも、傷を治したという働きは本物なので、エデンズアップルシステムの効用が消えても『傷を治した』という事実は消えない。
物質ではないが、物質と同じ働きをする。
それが、エデンズアップルシステムだ。
○
「凄い力だけど、まるで借金みたいな仕組みだね。言っちゃ悪いけど、頼りないや。まるで覚めない夢みたい」
夢から覚めた時には、全てを失っていそう。
アベルがユニークな感想を述べた。
「頼りない」と言われた時の精霊は焦って、
『その他の未来科学魔法道具もたくさん渡すから、必要だったらすぐ言って。別次元に入れてあるからすぐ取り出すよっ』
と、捲し上げた。
(神を亡くした人の科学なんて夢にもなれない儚さだ。文明って多かれ少なかれそういうものだけど、痛いなあ。夢を叶えた世界は、夢に似ている)




