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49 閑話 スペルシンガー、リンメイ

○ 48 隠れ里と死者の都の後の話です。アゼル視点です。


 執務中のアゼルにクレア……の隠れ里の同時存在からタレコミがあった。


 リンメイが通し稽古をする、と。


 大慌てで書類を片付け転移の扉をくぐる。


 歌劇場の観客席は人と鉄人とで、すでにごった返していた。


 隅の方で、お忍びの格好をしたクレアが手を振ってアゼルを呼んでいる。


 隣のイスをポンポンと叩く仕草が可愛い。


 アゼルはクレアの隣に駆け寄り座る。


 舞台では楽団達が楽器の最終調整を終わらせたところだ。


 ギリギリ間に合った。


 ほどなくして壮大な曲が緩やかな滑り出しで流れ始める。


 やがて魂の中を吹き抜けていく涼やかな風のようなリンメイの歌声が響き始める。


 目を瞑り耳を澄ます。


 瞼に情景が浮かぶ。


 情景の中でアゼルは、一羽の猛禽となって空を飛んでいた。


 乾いた空気に味がする。


 乾いた石を舐めた時のような味だ。


 ふと隣を見ると、自分と同じ猛禽となったクレアが、寄り添うように飛んでいた。


 遥か高い山脈を、遥か上空から眺めている。


 ふと、山脈の頂上に、古代の遺跡が見えた。


 雄大な景色、壮大な歴史。遥かな地上、天高く太陽。


 風は感じない。自分が風になったからだ。


 自分が、とても大きな存在になったような、それでいて、この景色に比べると、ひどくちっぽけなような不思議な感覚。


 しばしアゼルは猛禽という風になって、クレアと一緒に大空を羽ばたいた。


 それは自然と一体化するような、原始の感覚だった。


 歌が終わり、曲が仕舞った。


 ゆっくり目を開ける。まるで深い水の底から浮上するように。


 イスに深く身を沈める。


 身体中の力が抜けて、緊張が一切なくなっていた。


 ……心地よい余韻に、心がしびれた。



 二曲目は、愛の歌だった。


 切ないメロディーと激しく心揺さぶる歌声。


 胸が愛しさで、締め付けられる。


 隣に居るクレアを見る。


 どれだけ、この人が愛おしいか。


 どれだけ、この人への愛が尊いか。


 どれだけ、この人が大切か。


 そのことを再確認して、目に写る全ての景色が輝いて見えた。


 命が愛で輝いて見える。


 美しい。


 そう思った。


 今、この場、自分の隣に愛する人が居ることの、この上ない価値に(ふる)える。


 クレアと目が合った。


 クレアの唇が、わなないていた。


 クレアは……潤んだ瞳で、アゼルに口づけを、せがんだ。


 まるで磁石が、ひかれ合うように口づけた。


 強く深く……時間を忘れて、口づけを交わした。


 歌が終わり、唇を離した。


 背筋と首筋が、愛しさでジンジンと痺れていた。


 熱っぽい目で、お互いを見つめ合う。


「「愛してる」」


 二人の声が重なった。


 観客席の、あちこちで、このような光景が溢れていた。


 舞台で吟遊詩人(スペルシンガー)リンメイが、深く礼をして舞台裏に消えた。


 万雷の拍手スタンディングオベーションが、歌劇場を揺らしたのだった。

2021年1月6日 読点を整理しました。

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