表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/327

48 閑話 隠れ里と死者の都

○ 文官貴族バースリーの悲劇の後日談です。リンメイ視点です。


 まだ、日も昇ってない薄暗い早朝。


 まだ幼い娘、メイリンを起こさないように起きる。


 文官なのに、まるで軍人のようにハードな早朝トレーニングに行った夫バースリーが、時間停止保管庫に作って入れておいたサンドイッチを、きちんと食べてくれていることを確認して、安心して微笑む。


 私も同じように、保管庫に入れてあるサンドイッチを取り出して摘まむ。


 パリっと音がするくらい新鮮なキュウリとレタス。旨味の強いチーズと、甘い印象の塩味が利いた美味しいハムが挟んである。


 ハムは、夫のものは厚切りだが、自分のものは薄く切ってある。そのほうが味のバランスがいいと思うのだ。


 ラプアシアには本格的な朝食の前に、ひと仕事あるのが普通だ。だから、その朝食前の仕事の前に、軽く食事をする。


 汚れてもいい仕事着に着替えて玄関に。そこに彫像のように立っている鋼鉄の人に向かって挨拶をする。


「じゃあ、網引きに行ってきます。ミニマム、メイリンを、お願いね?」


 ミニマムと呼ばれた鋼鉄の人が、ビクッと震えて、慌てて挨拶する。


「あっ! リンメイ、おはよう。大丈夫! アタイ、寝てないよ?!」


 寝てたわよね?


 クスクス笑いながら、玄関を出て、鋼鉄で出来た街並みを歩く。


 ここは、隠れ里アムリア。鋼鉄で出来た街に、鋼鉄の人や、鋼鉄の魔法生物が、人々と一緒に暮らすところ。


 鋼鉄の人『鉄人』のミニマムは、メイリン(子供)と遊んでくれる同居人だ。ついでに、家に設置された便利な魔法設備についてもナビゲートしてくれる。一応、アムリアの先住民となる。元々は、ダークエルフ達の生活の補助のために海神によって造られた存在らしく、その全容は分かっていない。



 内海サフィーの海岸に隠れ里の人々と、鉄人達が集まっている。みんな、沖の方を見ている。その中に夫バースリーの姿を見つけて、親愛を込めて寄り添う。腕なんか組んじゃう。見つめあって頬を染める。


 沖には舟が一艘、網を下ろしながら進んで行く。網の片方は海岸にあって、人々と鉄人達が掴んでいる。


 やがて、網を下ろした舟が海岸に帰って来て、網の、もう片方を人々に手渡す。


「「「そーれ!」」」


 声をあげる。力を合わせて網を引く。


 網は金銀細工のような、綺麗な大小様々な魚を、いっぱい捕らえている。


「「「今日も大漁だー!」」」


 喜びの歓声が上がる。もちろん、私も喜び、大きな声をあげていた。



 海岸の海の家で女衆が、さっそく引き揚げた魚を使って料理を始める。


 その間に男衆が、網を干す。


 汁物に焼き物、炙りにたたき。それに茶碗に大盛に盛った炊き立ての、ラプアスの白米が付く。


 豪快な、漁師メシ。


 朝食が出来上がる頃、隠れ里から子供達と老人達が、鉄人達に連れられてやってくる。


 海の家の大食堂で、それぞれの家族や親しい者達で集まって、食事を始める。


 にぎやかで活気溢れる楽しい食事。自然と笑い声があがる。



 にぎやかな朝食が終わると、老人達と女衆は残った魚を干物にして、網の整備と魚の鱗を使った細工物の作成に。


 鉄人達は、子供達と一緒に遊んでいる。


 男衆は塩と鉄の精製に、それぞれの作業場に向かう。


 夫のバースリーだけは転移の扉をくぐって、領主様の城に文官として出勤。


 行ってきますのキスをして出勤。


 老人達と女衆に、からかわれて赤くなる。


 でも、キスは、やめない。絶対。


 転移の扉に向かうバースリーの背を見て、初めて転移の扉をくぐった時のことを思い出して笑う。


○ 回想、初めて転移の扉をくぐった時のこと。


 パリっとした新品の文官服を着て、私とメイリンに見送られてバースリーが扉をくぐる。


 扉が閉まったその時。


「リンメイ! メイリン! ちょっと来てくれ!」


 と、扉の向こうから、バースリーの声がした。


 慌てて扉をくぐると、そこには私達と同じように猫の耳とシッポを生やした、獣人の姿に変わったバースリーが立っていた。


「リンメイとメイリンと一緒だ!」


 そう言って大喜びで、メイリンを抱いて、くるくると回る。


「わーい! わたしも、パパと一緒!」


 見ると、くるくると回るメイリンが獣人ではなく、人間の姿に変わっていた。


 ふと、据え付けられた姿鏡を見ると、私も獣人ではなく人間の姿に変わっていた。


 変身の魔法だ。


 転移の扉をくぐると、自動で魔法がかかるんだ。


 バースリーと一緒……。なんて素敵なんだろう!


 私達は、たまらなく嬉しくなって、くるくると踊るように回った。


○ 回想、終わり。


 細工物が出来ると、都アゼリアの市場に露店を出しに行く。


 今日は私が、その係。


 アムリアは塩と鉄によって、財政は極めて潤っているが、文化協力という形で露店に参加を求められている。


 基本、私達、アムリアの人々は隠れ住まなくてはならない理由を、それぞれ持っている。


 私達が生きていることを見つかっては、いけないのだ。


 だから、露店の参加は渋ったのだけど、鉄人達に『王母様』と呼ばれているアムリアの主クレア様が、こうおっしゃったのだ。


「隠れるために、生きているのではないのです。幸せに生きるために、隠れているのです」


「だから、見つかることを必要以上に恐れないで。もちろん、自分から見つかろうとされるのは困りますが、いざとなったら、私達が、とにかく、なんとかしますから」


「だから、幸せに生きましょう」


 具体的には細工物を売ったお金で、アゼリアのおしゃれなカフェで甘~いスイーツを食べましょう!


 隠れ里の女衆の心が、ひとつになった瞬間だった。


○ 思いがけない再会


 アゼリアの市場で露店を出して、細工物を売る。


 今日も、細工物は好評。


 持ってきた細工物が早々に売り切れて、店をたたみ。私は、他の露店を冷やかしながら係の特権……スイーツをいただくために、カフェに向かって歩いていた。その時。


「リンメイ!」


 聞き覚えのある声を聞くと同時に、まるで突進を食らうように抱きつかれた。


「生きててくれたんだ! やっぱり、ゴブリンになぶり殺されたなんて嘘だったんだ!」


 喜びの声を涙で震わせて、かつての冒険者仲間の斥候のリラが胸の中に居た。


 思わずリラの名前を呼びそうになって、慌てて口を押さえた。


 バレる訳にはいかない。


「やったぜ! やっぱりラプアシアに逃げ込んで無事だったんだな」


 リーダーの剣士ジーンが、嬉しそうに笑顔で言う。


「ほれ見ろ。じゃからワシは心配いらんと言ったんじゃ」


 笑顔を隠そうともしないドワーフの戦士ゴルバド。


 その後ろで密かに目に涙を浮かべて、喜びを噛み締めていた魔法使いのナタリーが、私の表情と仕草を見て、なにかに気付き、そして言った。


「3人とも……よく見てみなよ。似てるけど、人違いだよ? その人は、獣人じゃなくて人間だ」


 3人は驚愕で凍りつき、やがて膝を折って落胆し、地面に手をついた。


 ナタリーが私に仲間の勘違いを詫びて立ち去ろうとする。


「待って!」


 思わず叫んでしまった。


 いけないと思っていても、どうしても、このままお別れなんてイヤだった。


「見たところ、冒険者だよね? 私はメリーっていうの。よかったら、冒険の話を聞かせてくれない? カフェでスイーツ、おごるから!」


 強引に誘って、クレア様御用達のカフェに連れ込んだ。


 私が結婚で引退した後の話しを、リラとナタリーにはパフェとプリンアラモードを、ジーンとゴルバドには山盛りパスタを、おかわりさせてまで、めいっぱい時間を稼いで聞いた。


 私が抜けた後も、元気で楽しくやっているようで安心した。


 離れていた時間を埋めようと、いっぱい聞いた。


 私も、ここでの暮らしぶりを話せる範囲で、いっぱい話した。……ちょっと、惚気(のろけ)がはいっていたのは許して欲しい。


 楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまった。


「今日はありがとう。本当にリンメイと再会できたみたいで嬉しかったぜ」


 言葉に嘘のないジーンが言う。


「ほんと、お前さんは他人とは思えんわい」


 と、笑顔で言ってくれるゴルバド。


「もう、あたい達、友達だからね? また、会いに来るからね、メリー」


 両手で私の手を包み込んでリラが言う。


 ナタリーだけが無言だった。


 いよいよ、サヨナラを言って立ち去っていく。


 涙を浮かべて、その後ろ姿を見ていると、ふと、ナタリーが振り返って、こっちに向かって駆けてきた。


 そして、イタズラっぽい笑みを浮かべて、私の耳元でささやくように言った。


「お幸せに……元気でね、リンメイ(・・・・)


 唖然とする私を置いてナタリーは、なにごともなかったように仲間とともに行ってしまった。


 バレちゃった……。どうしよう。



 とりあえず、急いで帰って(里の女衆にスイーツのお土産を忘れず買って)クレア様に報告する。


 クレア様は関係各所に連絡して方針を決定。そして1ヶ月後、私は仲間達と再び再会した。変身する前の姿で。



「やっぱり、リンメイだったんだ! 絶対そうだと思ってたんだ」


 そう言ってリラに抱きつかれて泣かれた。


「絶対そうだって言ったのにナタリーが違うって言うから焦ったぜ」


 涙ぐんだジーンの声。本当に嬉しそう。


「ナタリーには、すっかり騙されたわい。じゃが、秘密にしなくちゃならんかったのじゃろう? 相変わらずナタリーは優しいのう」


 嬉しそうに笑うゴルバド。対してナタリーは申し訳なさそうに言った。


「生きてるのが子爵家にバレたら、またリンメイが殺されるわ。どうしても秘密にしておく必要があったのよ……」


 ごめんね、と言うナタリーを仲間達は誰も責めなかった。それどころか「よくやった」と誉めていた。


 ここは、竜教会の奥の部屋。


 教会のえらい人や、お城に勤める偉い役人さんが来てジーン達に詳細を説明し秘密厳守を約束させる。


 うん、クレア様と領主様に見えるんだけど……えっと、わざわざスミマセン。


 私は申し訳なさで、ずっと頭を下げていた。


「街外れに文官の別邸を用意してあります。しばらく、そこに住んで仲間達と旧交を温めて下さい。滞在費用は教会が持ちますので、みなさま、ゆっくりしていって下さい」


 と、クレア様が言って下った。さすがに隠れ里には連れて行けない。


 私達はバースリーとメイリン、仲間達と一緒に、しばらく別邸で住み、もてなした。


 それは心温まる、宝石のような時間だった。


 ラプアシアの都アゼリアの別名は『精霊王が治める美しき死者の都』


 その都をよく知る行商人は、こう言っていた。


「そうです。そこでは死んだ知り合いに出会うことがあると、うわさされています。ひょっとすると皆様の死に別れた、ご家族やご友人にも会えるかも知れませんよ」

2021年1月6日 読点を整理しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ