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43 閑話 レッドドラゴン討伐

○ 神々が造りし迷宮踏破の後くらいの話です。


 中央教会からクレアに、使者がきた。


 迂遠な話を要約すると、レッドドラゴンの討伐に、協力を要請する依頼のようだ。


 ひとまず「前向きに検討する」と返事して追い返した。



 (地上にある)エルフの国と、人間の国との間にある草原に、レッドドラゴンが住み着いた。


 魔界で縄張り争いに敗れ、満身創痍で追い出された、巣立ちしたばかりと思われる若いオスだ。


 人間界は魔界と比べ、生き物や魔物が比較的小型なため、ドラゴンのような巨体で大量の食糧を必要とする生物は、基本的に住み着かない。


 それでも住み着くとすれば、なんらかの事情のある個体……例えば、より強力な個体に棲み家を追われた個体などである。


 激しい争いの跡と思われる、傷だらけの体から察するに、まあ、そういうことだ。


 中央教会の使者は「手負いで弱りきった(ドラゴン)にとどめを刺すだけの簡単な仕事」というが、それは違う。使者の表情からも察するに、使者も分かって言っているだろう。


 手負いの(ドラゴン)は、なりふり構わない。健常なドラゴンを討伐するより、被害は甚大になることは予想に難くない。


 その被害を極力抑えようと、奇跡の聖女と名高いクレアの支援を求めたのだろう。



 ラプアシア領主の居城にある、妻達だけの秘密の部屋。


 サロンのようになっているそこに、クレアが他の妻達……キサラ、アリス、イリス、エミリーと顔を突き合わせていた。


「で? クレアは、どうしたいの?」


 キサラが問うと、


「報酬の額が、魅力です。領地経営の足しにしたいです」


 念のために言っておくと、ラプアシア領は大幅な黒字経営である。しかし、領主であるアゼル(アベル)が、無償で奉仕(ボランティア)をやろうと言い出すので、いくら持っていても安心できない。


 今まで問題が発生しなかったのは、アゼルはホウレンソウ(報告、連絡、相談)が徹底しているので、キサラ達(妻達)との相談と許可なしに、勝手に行動することがないことだ。


 経済的には余裕がある。だが、領地の財布の紐(財政)を握るクレアとしては、臨時収入は逃したくなかった。


「それに……」


 クレアが、もうひとつの理由を話した。


 それは、クレア達……アゼルの妻達のアゼルへの依存の度合いが、最近、増えているように思う懸念である。


 家族は互いに依存しなくては、生きて行けない。しかし、依存しすぎては、必ず、歪みを生じる。


「それで、この部屋に……アベルに内緒話をするために、あたし達を集めたのか……」


 イリスが、納得して言った。


「最終的には、アベルの許可が要るけれど、話しは煮詰めておかないとね」


 と、アリスが補強する。


「確かに、迷宮探索の時も、ここぞっていう時は、全部、アベル任せだったよね……」


 と、迷宮探索を振り返ってエミリーが言う。


「このままじゃ、私達、ダメになるわね……」


 キサラが、固く唇を結ぶ。



 キサラ達はアベル抜きで、レッドドラゴン討伐に行くことを、アベルに話した。


 アベルは心配しすぎて泣きそうだったが、最終的には折れた。


 真横に一列に並んで、お願いする妻達の顔が真剣だったからだ。



 広大な草原地帯に、陣は敷かれた。


 ドラゴンが持つ強固な魔法障壁を、魔力の波長に干渉して破壊するための、魔法使い約100人。


 ドラゴンが放つ強力な竜魔法を妨害する、魔法使い約100人。


 飛行するドラゴンを、落雷の戦術級集団魔法で叩き落とすための、魔法使い約100人。


 ドラゴンブレスを防ぐ戦術級防御魔法を集団魔法で展開する僧侶約100人。


 城塞すら砕く攻城兵器30機……竜の鱗すら貫くミスリルの矢尻をつけた弩砲(バリスタ)……を運用する兵士300人と、それを運搬補助する工作兵1000人。そして、決死の突撃兵100人。


 総勢約1800人の大部隊……いや、軍勢である。


 しかし、兵士達の顔色は優れない。この倍の数の軍勢を用意したって、レッドドラゴンの討伐は難しいだろう。魔王復活の影響で、どうしても、これだけの数しか用意できなかったのだ。



 レッドドラゴンの狩り場に侵入した軍勢は、ほどなくして、空の彼方に深紅の影を見る。


 影はみるみる大きくなり、全長100mは下らないレッドドラゴンが姿を現した。


 全身傷だらけで、翼も飛んでいるのが不思議なくらいボロボロだった。


 しかし、表情は凶悪に歪み、狂気を感じさせる血走った目をしていた。


 ……相当、気が立っている。


 それを見た兵士達は、死闘を覚悟した。


 僧侶達による勇気の集団魔法が、魂が根幹から消し飛ぶような竜の咆哮から軍勢の士気を、かろうじて保った。


 それが、開戦の狼煙となった。



 魔法使い達と僧侶達による、呪文の合唱が響き渡る。


 そこに容赦ない、竜の吐息(ドラゴンブレス)が吐かれた。


 紅蓮の炎の洗礼!


 辛うじて、僧侶達の防御魔法が展開された。


 しかし、致命傷は免れたものの、暴風のような勢いで吹き付けられた炎は、幾人もの兵士を再起不能にした。


 その時。


 聖なる光が軍勢を包み、あっという間に兵士達を、復活させた。


 負傷など、微塵も残っていない。


 奇跡の聖女クレアの加護だ。



 クレアはキサラと手を繋ぎ、魔力を同調増幅させ、即座に負傷兵を復活させる。アリスは、その横で軍勢に熱変動無効の防御魔法をかけて、ブレスの炎としての威力を封殺する。その3人の前にイリスとエミリーが大きな盾を持って立ち、3人を守る。


 幾度もブレスを吹きかけられるが、軍勢はそれに耐えた。


 強力無比な竜魔法は、魔法使い達の必死の妨害にあい、発動されない。


 そして、ようやく魔法障壁の中和が終わり、極大の稲妻がレッドドラゴンの翼を撃った。


 草原に不時着するレッドドラゴンに、突撃兵が殺到する。そして、手に持った長柄の槍で、レッドドラゴンの翼を地面に縫い止める。


 もがくレッドドラゴンに、随時、極大の稲妻が落ちて、レッドドラゴンの体を麻痺させる。


 むちゃくちゃに吹き付けられるブレスを、僧侶達とアリスが防御する。


 そして、ようやくバリスタの準備が整い、矢が放たれた。


 突撃兵は、退いていない。まさしく死を覚悟の上の、任務なのだ。


 突撃兵も巻き込んで極太の矢の過半数が、レッドドラゴンの体に突き刺さった。


 致命傷である。


 それでも、レッドドラゴンは、衰えない。


 稲妻が落ち、バリスタの矢が飛び、レッドドラゴンを幾度も打ち付けた。


 とうとう、レッドドラゴンが、地に伏した。


 やったか!


 そう思った途端、レッドドラゴンが拘束を振り払って、軍勢に向かって捨て身の特攻をかけた。


 軍勢を蹂躙しようと、迫る巨体。


 その前に、イリスが立った。


 そして、その捨て身の特攻を、受け止めた。


 微動だにしないイリスの頭上を飛び越えて、エミリーが金に輝くメイスを振り上げる。


 メイスは、レッドドラゴンの鱗の防御を突き抜けて、直接、脳に衝撃を与え意識を奪った。


 動かなくなったレッドドラゴンに、バリスタが、いくども、矢が尽きるまで砲撃する。


 そして……。


 軍勢は、レッドドラゴンを、討伐したのだった。



 レッドドラゴンの討伐は、信じられないほど軽微な損害で成された。


 兵士達が口々に奇跡の聖女と、ドラゴンブレスを防ぎレッドドラゴンの特攻を止め、意識が奪った冒険者達を誉め称える。


 草原に、歓声が止むことはなかった。



 泣き虫アベルに迎えられ、妻達はラプアシアに凱旋した。


「もう、こんな心配はさせないでよ?」


 と、泣き声で言うアベルから、妻達は、そっと、目を逸らしたのだった。



 クレアは報酬である金貨の山をアゼルに差し出し、誉めてくれるのをシッポを振り切って待つ愛犬のようにアゼルを見ていた。


 アゼルは思いっきり誉めて、撫でて、抱き締めたのだった。


 そのクレアの後ろで、キサラ、アリス、イリス、エミリーが、期待して列を作り順番待ちしていた。



 後日……。


 クレアに中央教会の本神殿に勤務するよう教皇からの勅命が下るも、クレアは、これをガン無視。


「私が、アゼル様の元を離れるなど、ありえません」



 同じく、後日……。


 冒険者ギルドがレッドドラゴンの特攻を止め、レッドドラゴンの意識を奪い、ドラゴンブレスの熱を無効化した冒険者達を探したが、ようとして見つけられなかったという。

2021年1月6日 読点を整理しました。

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