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42 閑話 パジャマパーティー

○ 40話 アベルの反省の後です。


 それは、万雷の拍手と、祝福の言葉。


「「「おめでとう! カレラ、オードリー、ウェンディ!」」」


 寝室、キングサイズのベッドと、ふわふわの毛足の長い、極上の絨毯の上をクッションまみれにして、アベルの妻達5人が、新しく妻になった3人……カレラ、オードリー、ウェンディを、優しさが溢れる笑顔で、迎え入れた。


「「「ありがとうございます、おかあさま方。私達、今、最高に幸せです」」」


 カレラ達、3人は、嬉しさで、涙を浮かべて言った。



 カレラ達、3人は、手土産に3本のお酒を持っていた。


 1本は、濃厚な甘さで、脳が(とろ)けそうになる、桃のお酒。


 もう1本は、胸が切なくなる、まるで恋のような甘酸っぱさが人気の、苺のお酒。


 最後の1本は、後味が、スパッと切れるように、スッキリとした、爽やかな甘さの、スイカのお酒だった。


 どれも、アベルの妻達……カレラ達の母達に、大人気のお酒だ。


 お酒を、なみなみと注いだ(さかずき)を行き渡らせて、キサラの号令で乾杯する。


 酒の肴は、カレラ達の、初体験だ。


 根掘り葉掘り聞く5人に、カレラ達3人は、真っ赤になって、しどろもどろに、受け答えする。


 新しい情報が、もたらされる度に、寝室に、姦しい黄色い悲鳴が響き渡った。


 カレラ達が、恥ずかしそうに、照れながら恋人指輪を見せると、アリスとイリスとエミリーも、右手に輝くプラチナの指輪を、自慢げに見せる。


 ふと、キサラとクレアを見ると、ふたりの右手にも、プラチナの指輪が光っていた。


 キサラがクレアと一緒に、頬を染めて報告する。


「アゼル様に、「いまさらだけど、ボクの恋人になって下さい」って……。なんだか、もう一度プロポーズされたみたいで、初心(うぶ)な女の子みたいに、胸が高鳴りました。とても嬉しくて、私、子供みたいに、泣いちゃいました」


「なんか「断られたら生きていけない、どうしよう」って、アベルの顔に書いてあったよね。私、笑っちゃった。……私は、プロポーズの時より、嬉しかったかも知れない。……私も……ちょっと泣いちゃった。ちょっ…ちょっとよっ?」


 アリスが、それを聞いて、感慨深げに言った。


「アベルって、寝取られ経験があるから、恋人(あたし達)がいつまでも側に居てくれるかどうか不安になってるとこあるよね……。あたし達が悪いんだけど、もっと自信持って欲しいなあ。あたし達、こんなに……もう、どうにかなっちゃいそうなくらい、アベルが好きなのに……」



 酔いもある程度まわってきた時、キサラが代表して、カレラ達に言った。ニヤニヤが止まらないという風で。


おかあさん達(私達)、知ってたわよ? あなた達、ずっと昔から、アベルのことを、ひとりの女として(・・・・・・・・)好きだったでしょう?」


 カレラ達は、焦った。わたわたと、杯を、取り落としそうになる。


 5人の追及の視線にさらされて、カレラ達は、観念して、真っ赤になって、首肯した。


「いつから? いつからなの?」


 お酒のせいか、それとも話題が話題だからか、赤い顔をしたエミリーが、弾む声で、3人に迫る。


 オードリーとウェンディによって、矢面に立たされたカレラが、どもりながらこたえる。


「はっきりと自覚したのは9歳だけど、もう7歳の頃にはすでに……」


 キャー! と、悲鳴のような歓声があがる。


「6~8年越しの恋だったんだ……改めて、良かったな、カレラ、オードリー、ウェンディ。初恋が実って」


「あ……ありがとうございます、イリスおかあさま……」


 杯を掲げて、イリスが祝福する。カレラ達が、赤くなって、恥ずかしさで、顔をうつむかせる。


「なにか、きっかけがあったのですか?」


 かなり出来上がっているクレアが、緩んだ笑顔で言う。珍しく深酔いしている。


 オードリーとウェンディが、カレラにうなずいて、カレラが話し始める。


「悪いことをした時、おとうさ……アゼルは、すごく厳しく叱るのだけど、その後、どうしてそれが悪いのか、丁寧に説明してくれて、その後、必ず、ぎゅって抱き締めてくれるの。それが、涙が出るほど、嬉しくて幸せで……」


 そこで、ウェンディが、話しを引き継いだ。


「その時、私達、おとうさ……アゼルに、父ではなく、男を感じてたんだ」


 それを、オードリーが引き継ぐ。


「一時、凄く悩んだよね……。『私達って、変態(ファザコン)だ』って」


 肉体の本能は、近親者を性的対象から除外する。カレラ達に、それがなかったのは、本能的に、血のつながりを感じていなかったからだろうか。


 カレラ達にとって、アゼルは、長年、恋い焦がれた、想い人だった。ずっと、父ではなく、ひとりの男と見ていた。元々、恋愛対象だったのだ。



「「「それでそれで、おかあさま方は、おと……アゼルのどこが好きなのですか?」」」


 カレラ達の逆襲に、真っ先に、呂律のあやしくなったクレアが答えた。


「ダメなところです」


 その答えに、キサラ、アリス、イリス、エミリーが吹き出した。


「「「でた! クレアのダメ男好き」」」


 4人のからかうような言葉に、クレアが反論する。


「私はダメな男が好きなのでは、ありません。ダメなアゼル様が好きなのです」


 そう言ってから、ふと、考えて、クレアが言った。


「……ああ、でも、そもそも、この世(ユーフォリア)には、男はアゼル様しかいませんから、間違いではありませんね……」


 みんなが、唖然とする。


 ……クレアにとって、アゼル(アベル)以外の男は、男じゃないんだ……。


 酔った勢いで、クレアが力説する。


「クレアはダメなアゼル様が好き。本当に、可愛い人。本当は気の弱い子供なのに、一生懸命、大人してるところが、守って助けて支えてあげたくなるのです。酔っぱらって、抱きついてきて、クレアの名前を何度も呼んで甘えて来るのですよ? その内、クレアの胸か膝で、安心しきって眠ってしまって……。知っていますか? アゼル様の髪って、強くて固くて、とても男らしいのですよ? それを自分だけのものにして、目を覚ますまで、撫でることが出来るのです。クレアには、酔ったアゼル様を介抱する大切なお仕事があるのですから、いつもは、お酒になんか酔っていられないのです」


 クレア特有(ユニーク)の理論である。でも、他の妻達にも、分かるところもあった。


 アベルは、時々、凄く子供っぽい。


 でも、やることはきっちりやるし、言うべきことはしっかり言う。


 でも、一生懸命、大人してるけど、本質は、泣き虫な子供。


 でも、大人になって欲しい時は、必ず、大人っぽく、振る舞ってくれる。


 そこらへんが、カッコいいなって思う。


 アリス、イリス、エミリーが、うなずいて言った。


「あたし達もね……」


 アリス達は、子供なアベルも、不良少年っぽいアベルも、好き。


 不良なアベルも、捨てがたい。


 好きな女の子の前で、精一杯、カッコつけようと、肩ひじはってるところが、可愛いって思うし、でも、突然、素直な子供になって、真っ直ぐ思いをぶつけてくれるところも好き。昔、仲良かった親友と再会したみたいで、嬉しくなる。



「「「キサラおかあさまは、どうなのですか?」」」


 キサラは、少し、困ったように、言った。


「私の場合は、少し複雑で……」


 アベルは、ラピータの王になることを断った。


「王になったら、政治のために、各部族の族長の娘を嫁にとらなきゃいけなくなるでしょう?」


 アベルが、心底イヤそうに、顔をしかめて言った。


「冗談じゃない。好きでもない女なんか抱けるか」


 アベルは繊細だから、よく知らない馴染みのない女の子には、気を許せないのよね。


 なんか手を広げて、新しい女の子に手を出すのじゃなく、すでに手に入れた女の子との愛を深めて行くのが好きみたいだし、それが性にあっているって感じの男の人だよね、アベルって。


 不特定多数に愛を広げるより、特定の相手と愛を深める。


 恋人としては、最高だけど、でも、王としては、成り立たない。


 王は、公人。みんなのものであって、少数の者が、独占しては、いけないのだ。国が動かない。


「私の女王としての政治形態が確立してたから、良かったようなものの、そうじゃなかったら、大問題だよ」


 キサラが、悩ましげに、ため息をついた。


「「「女王としての、おかあさまではなく、ひとりの女の子としての、おかあさまとしては、どうなのですか?」」」


 キサラは、パアッと、顔を輝かせて、言った。


「アベル、最っ高!」


 キサラが、興奮して、カレラ達に迫る。


「好きな女しか抱かないって、それって、私達が、本当に好きってことよね?! 嬉しい嬉しい、本当に嬉しい!」


 そこで、ふと、クレアが、呟くように、疑問を口にした。


「その理論では、アゼル様と結婚できるのは、幼なじみだったアリス達だけになりませんか? どうして、私とキサラが結婚出来たのでしょう?」


「あっ! それ、あたしが聞いたことあるよ」


 そう言ったエミリーに、キサラとクレアが、早くしゃべれ(吐け)と、強迫するように迫る。


「命を助けたから、再び、命の危険にさらされないように、守りたいって。自分には、キサラとクレアの命を救った責任があるって言ってたよ?」


 もう、二度と、命を危険にさらしたくない。絶対に、失いたくないから、手元に置いて、一生、守りたい。


「「「おとうさ……アゼルの中の、おかあさま達の価値の大きさを見た気がします……」」」



「クレアについては、こんなことも言ってたよ?」


 そう切り出したのは、キサラだ。クレアが、光速でキサラに振り返る。


「クレアは、恋で盲目になっているから、いくらでも騙せる」


「だから、ボクは、絶対に、クレアを騙してはいけないんだ」


「キサラやアリス、イリスにエミリーは、嘘をついても騙されてくれないけど、クレアは、進んで騙されようとするから、気をつけてあげないとね」


 クレア以外の妻達が、うんうんと、納得して、何度もうなずいた。


 アリスが、感想を述べる。


「エミリーとクレアは、アベルの言うことなら、なんでも聞くからね。特に、クレア。そうだ、クレアって、アベルになにか不満とかないの? なにか、こうして欲しいってこととか……」


 クレアは、考え込んだ。しかし、特に要望は……。


「……あっ」


 クレアが、思い付いて、声をあげる。


 他のみんなが、音速を超えて反応した。


「「「なになに? 言って言って!」」」


 クレアに、みんなが、迫る。


 クレアは、恥じらいながら、呟くように、言った。


「……眼鏡を……かけて、見せて欲しいです」


 沈黙が降りた。


「アベルって、視力いいよね?」


 眼鏡を、かける意味が分からない。


 全員の疑問の視線にさらされて、クレアが、恥じらいながら言った。


「コスチュームプレイ……コスプレです。色んなアゼル様が、見たいのです」



「アベルにとって、爵位やお金って、人を幸せにするための道具よね」


 クッションに寝そべって、つまみを食べながら、キサラが言った。


 みんなが、うんうんと、何度もうなずいた。特にクレアが、力強かった。


 貴族になることや、お金持ちになることを、目的に生きる者が多いのに、アベルにとって、それらは、ひとつの方法……手段であって、決して目的ではない。


 ただ、飢えた人々を助ける……泣いている人達を笑顔にするために、便利だから、爵位とお金を持っているという感じだ。


「アゼル様にとって、価値とは、幸せな笑顔ですから」


 やたらと、実感のこもった声で、クレアが言った。



 キサラが、まとめに入った。


「でも、アベルの、一番の特徴は『大丈夫』だよね。私達も手伝うけど、なにがあっても、とにかくなんとかしてくれる」


 クレアが、強くうなずく。


「はい、側に居て、とても安心します」


 アリスが、イリスが、エミリーが、明るく言う。


「「「そうそう、絶対に安全な避難場所が、すぐ側にあるみたい」」」


 カレラが、オードリーが、ウェンディが、力強く言う。


「「「アゼルの側では、胸を張って、真っ直ぐに生きて行ける」」」


 アベルの妻達は、誇らしげに、笑った。


 自分達の愛する夫を、誰かに自慢したい気持ちでいっぱいだった。



 カレラ達が、羨ましそうに、呟いた。


「「「でも、おかあさま達は、いいなあ。私達より、いっぱい愛されてる気がする」」」


 その言葉を聞いて、カレラ達の母達、全員が、「なに言ってんの」と、ぼやいた。


 イリスが、ぼやく。


「いつ頃だったかな? アベルが急に体臭を気にし出してさ……」


 アリスが、引き継ぐ。ぼやく。


「急にどうしたの? って聞いたら……」


 エミリーが、締める。ぼやく。


「カレラとオードリーとウェンディに「パパ、臭い」って言われたら生きて行けないって言ってたよ?」


 母達、全員が、呆れたため息をついた。


 キサラが、まとめる。ぼやく。


「まったく匂いがしないのも、落ち着かないから、みんなで嘆願して、ちょっと匂いを残してもらったのよね~」


「でも、カレラ達を愛してる極めつけが、アレよね?」


 母達、全員が、首肯した。


 娘達、3人が、首をかしげる。


 娘達の疑問に、クレアが答えた。


「あなた達、3人を引き取ったアゼル様が、まず、言ったのが……」



「カレラ達を愛せなくなるから、子供は作らない」と宣言したのだ。


 ボク(アベル)は、当然、カレラ達より、自分の子供のほうが大切で、愛してる。


 でも、そんな理由で、愛されなかったら、カレラ達が、可哀想だ。そんな失礼なこと、絶対にしてはいけない。


 カレラ達のことが、本当に大切で、愛したいから、子供は作らないでくれ。



 キサラとクレアは、納得したけれど、アリス、イリス、エミリーの必死の嘆願で、キサラとクレアだけは、アベルの子供を作ることを、許可させた。



「「「あたし達、3日3晩、土下座して、お願いしたのよね」」」


 アリスとイリスとエミリーが、苦笑した。


 カレラ達は、呆然として、言った。


「それで、うちには子供が、ビーナとタニアしかいないんだ……」


 と、カレラが、納得する。


「でも、待って?! 私達、ビーナとタニアと差別されたことなんて、一度も、なかったよ?」


 と、オードリーが、疑問をぶつける。


「そうだよ! 実際、セインに暴露されるまで、私達、自分達が、アゼルの子供じゃないなんて、微塵も思わなかったもの!」


 と、ウェンディが、驚愕する。


 母達が、声を揃えて言った。


「「「アベルは、あなた達と、自分の子供を、差別するような人じゃなかったのよ……。分け隔てなく、愛をそそいでいたわ……」」」


 私達が、嫉妬するくらいね。


 母達が、笑った。


 それは、愛の溢れる笑顔だった。



「でも、待てよ? もう時効じゃね?」


 イリスが、突然、声をあげた。


「そうよ! もう、カレラとオードリーとウェンディは、アベルの子供じゃなく、アベルの妻になったんだもの!」


 アリスも、気づく。


「……じゃあ、あたし達も、アベル(心の底から惚れた男)の、子供を産めるの?!」


 エミリーが、気付きを補強する。その声は、計り知れない喜びに震えていた。


 キサラとクレアも、喜びで、顔を輝かせ、声をあげる。それは、アリス達に遠慮して、言い出せなかった渇望だった。


「「ふたりめ! ふたりめが欲しい!!」」


 それに気づいてしまったら、もう、居ても立ってもいられない。


 キサラが、号令を出した。


「パジャマパーティー、終了! これより、アベル()を強襲する! 総員、我に続けーっ!」

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