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4 セインと未来の出来事

 分配された野草と木の実等、森の恵みを持って、アベルは家に帰った。


 帰り道でエミリーと会って、一緒に帰ることにした。


「ねえねえ、聞いて。今日、セイン様と一緒に神聖魔法の練習をしたんだよ」


 大人しいエミリーにしては珍しく興奮していた。


 セインとは、村長の5番目の妻の次男で、アベル達と同年代の、天界で通用するような超絶美形の男の子だ。


「セイン様は、ちょっと神父さまの話しを聞いただけで、ヒール(治癒)の魔法を使っちゃたんだよ」


 なにその有能。


 神聖魔法どころか魔法の才能が皆無のアベルは歯噛みして悔しがった。


 でも……。


「セイン様って、どんな人なの?」


 アベルの問いに、憧れでキラキラした瞳をして、エミリーは答えた。


「凄い人」


 エミリーって、心配になるくらい頭悪いなぁ。


『とりあえず「凄い」と言っておけばいい』なんて、思考の短絡にも程がある。



 家に帰ると、エミリーと協力して、木の実を干して、保存できる野草も乾燥させるために軒下に吊るし、保存の効かない野草を熱湯で消毒し、水切りをして一口サイズに切り、うっすらと塩をかけた。


 そして、分配の中にあった野ウサギの肉を焼いて塩を振り人数分に分ける。


 ひとり当たりサイコロ一個くらいの大きさしかないけれど、ごちそうだ。


 同じく野ウサギの骨を煮出して、塩スープを作る。


 調味料なんて塩しかない。しかも貴重品で少ししか使えない。


 以前に乾燥させておいた木の実を粉にして、水で練り合わせてパンもどきにする。


 熱を通して乾燥させて、保存食にして、食べる分以外を冷暗所に保管する。


 やがて、イリスが帰って来て、アリスとバーバラも魔法の修行を切り上げて、食卓についた。


「「「いただきます」」」


 全員で声を合わせて、夕食が始まる。


 夕食の話題は、いつも、その日の出来事の報告だ。


 今日はアリスもイリスも、興奮していた。


「聞いてよ、セイン様ってば凄いんだから!」


 そう言ったのは、アリスだ。


「あっという間に、(ファイヤー)の魔法を覚えたのよ!」


 アリスがスプーンを振り上げて力説する。


 それに乗っかったのは、イリスだ。


「セイン様は剣術も凄いよ! もう成人前のお兄さん達と対等に剣を振っているんだぜ」


 エミリーも興奮気味に、教会での出来事を話す。


 アベルは、ふと気になって、アリスとイリスに聞いてみた。


「セイン様って、どんな人なの?」


「「凄い人!」」


 うちの女子は馬鹿ばっかだ。


 アベルは、女子達の言葉の中に、セインの人柄に言及した意見がないことに不安になった。


 なんでも易々(やすやす)と出来る人が、必ず、心が美しいというわけではない。


『アイドルの追っかけみたいだな』


 時の精霊が、不思議なことを言っていた。


 バーバラは、いつも通り、ただ、ニコニコしていた。



 その日の夜。


 灯りが一切ない、暗いアベルの狭い部屋。


 硬いベッドに座り、薄いシーツにくるまって、時の精霊に詳しい事情を聞いた。


「未来でなにが起きたの?」


 不思議な言い回しだが、意味は通じた。


 時の精霊は、苦々しく言葉を口にする。


『神々を喰い殺す竜が死んじゃったんだ』


「えっ?! それってなにが悪いことなの? いいことじゃない?!」


 アベルのその反応を予測していたのだろう。時の精霊は、用意していた言葉を提出するように話し始めた。


『神々もそう思っていたんだ。でも、多大な犠牲を払って竜を撃ち破った後、気がついたんだ』


 時の精霊は、言葉を溜めて、アベルが心の準備をするのを待って言った。


『神々を喰い殺すことの出来る竜は、新たな神々を誕生させることの出来る竜だったんだって』


 アベルは、ゴクリと息を飲んだ。


『新たな神々の産まれることがなくなった世界は急速に衰退した』


『今、未来で起こっている危機は、世界の滅亡だよ』


 部屋に沈黙が降りた。


「ボクは、どうすればいいの?」


『神々に殺されずに、生き残ること』


「えっ?」


 首を(かし)げるアベルに、時の精霊が言う。


『神々に追い詰められた竜が、ある子供の魂の器の空きスペースに逃げ込んだんだ』


 どこかで、しかもごく最近、聞いた話だ。


「えっ!? まさかそれって……」


『そう。その子供とは、アベル。君のことだよ。君の無尽蔵の魔力の源は、神々を喰い殺す竜なんだ』


「えっ、いつの間に?!」


『気がつかないのも無理がないよ。神々を(あざむ)くくらい気配を消してるもん』


 あらまあ、びっくり。


「でもボクよわっちいから、神様にみつかったら、あっという間に殺されちゃうね」


 (死にたくない死にたくない死にたくないよー!)


 のんきに見えるが、心の声が駄々漏れだ。


『全ての精霊達が君を守るし、僕が力を君に授けるよ』


「力? ひょっとして、時間魔法!?」


『残念だけど、君に魔法の才能はないんだ』


 アベルは、がっかりした。


『でも、そんな君にも使える魔法が、ひとつだけある!』


 アベルが希望を瞳に浮かべて、虚空を見つめた。


 そして、時の精霊が言った。


『それは、『未来科学魔法』だ!』


 究極に進化した科学は、魔法と区別がつかない。


 いや、もう、むしろ魔法でいいじゃないか!


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