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37 閑話 アリス達の、その後

○ アリス達がアベル(アゼル)と結婚した直後くらいの話。新婚生活(?)


 アリスは、ラプアシアから通いで、バーバラの後を継いで、村の魔女をやっていた。


 通いと言っても、転移の魔法で一瞬で行き来できるので、毎日通っても負担が全然なかった。


 なぜか、アベルと結ばれてから、魔力が増大し、以前の魔力と比べると、約10000倍になったのだ。だから、長距離の転移でも、魔力の不足など皆無であった。


 今日もアリスは、ウェンディを抱いてバーバラの家に転移する。

 隠居したバーバラにウェンディを預け、魔女の大釜で魔法薬を錬成する。

 バーバラの世話で村に残った、アベルの同時存在は、いつものように、畑仕事に出かける。


 いつもの、生活。でも、今日は、ちょっと違った。


 それは、夕食時。厳密には夕食の支度から始まった。


 バーバラが、村の老人会に、孫を自慢するために、ウェンディを連れて出掛けたのだ。


 アベルとふたりきりになるチャンスで、アリスは、アベルに手作り料理を振る舞おうとしたのだ。


 まるで土木工事のような音がキッチンから聞こえてくる中、アベルがハラハラしながら待っていると、消し炭のような料理が出てきた。


 アリスは、悔しそうな、今にも泣き出しそうな顔をして、無言で料理を、アベルに差し出した。

 指先は血のにじんだ止血テープでぐるぐる巻きだった。


「不味かったら捨てていいから……」


 そう言った声は、悲しみの涙で震えていた。


 アベルは、無言で、料理を平らげた。


「……どうだった?」


 聞くのが怖い。でも、聞かないのはもっと怖い。


 アリスは、半分泣きながら、アベルに聞いた。


「本当のことを、言ってもいい……?」


 アリスは、泣き出すのを我慢して、こくりと、うなずいた。


「俺は……。いや、ボクはアリスに愛されているって思ったよ」


 アリスは、驚きで目を大きく見開いた。


 しばらくそこで固まって、そして、泣き笑いをこらえながら言った。


「味の感想じゃないじゃん」


 アベルは、朗らかに笑って言った。


「料理の真髄は、愛情だよ。アリスの料理には、それがいっぱい詰まってた」


 アリスは、嬉しさで涙して、やがて、涙を腕で拭って、言った。


「笑わないで、茶化さないで聞いて……」


 アリスは、胸に手を当てて、真っ直ぐにアベルを見て、告げた。


「アベル、愛してる」


 アベルは……アリスの想いを、真っ直ぐに受け取って、最高に優しい笑顔で答えた。


「ボクも、アリスを愛してるよ」


 アリスは、嬉しさで震え、感極まって、アベルの胸に飛び込んだ。


 アベルは、優しく包み込むように、アリスを抱き締めた。


 苦い料理に反して、甘い時が、ふたりに訪れたのだった。


○ イリスの場合


 ラプアシアの領主の城。


 その庭にある訓練場で、イリスが、兵士達と鍛練をしていた。


 カレラの子守りをしながら、その様子を見ていたアゼル。その姿を見留めたイリスが、兵士達を場外の訓練に追い出し、アゼルとふたりきりの状況を作った。


「アベル。ひさしぶりに、手合わせしないか?」


 どこか、緊張したように言うイリス。断られるのが、怖いのか、どこか声が震えていた。


 その様子を見て、いつもなら絶対に断るアベル(アゼル)が、練習用の木剣を手に取った。


 イリスとの手合わせは、一瞬で終わった。アベルの負けだ。


 尻餅をついた状態でイリスを見上げるアベルに、イリスは心底安心して、大きなため息を吐いた。


「良かった。まだ、アベルに勝てるところが残ってた」


 イリスは、アベルの手を引いて立たせ、代わりに自分が、アベルの前で、騎士のようにかしずいた。そして、懇願した。


「お願いだ。俺を、アベルの剣にしてくれ。剣を使った戦いは、俺に任せてくれ。俺は、アベルの戦士になりたい」


 愛する人を、守りたい。


 俺には、剣の才能がある。でも、それだけしかないんだ。


 すがるように見るイリスの肩に、アベルは剣を当て、力強く宣言した。


「ここに、イリス・ラプアシアを、我が守護戦士に任命する」


 イリスは、驚きの目で、アベルを見上げた。


 アベルは、その視線を、真っ直ぐに、真摯に受け止めた。


 体中に、信じられないほど、力が(みなぎ)るのを感じた。


 胸が燃えるように熱い。


 イリスは、喜びで涙を流した。


「ありがとう……アベル」


 立ち上がったイリスが、そこで、体をもじもじとさせて、真っ赤な顔で、目を伏せて、小声で消え入るように言った。


「あ……あああっ……愛してる」


 そう言うと、爆発したみたいに、顔を更に赤くした。


 アベルは、慌てて、イリスを抱き寄せて、自分の胸でイリスの顔を隠してあげた。


「うん。ボクもイリスを、愛してるよ」


 イリスの頭から湯気が上がる。


 アベルの胸の中で、イリスが可愛く、あわあわしてた。


○ エミリーの場合


 エミリーは、教会の使節団を率いて、他領の貧民街で、ラプアスで作ったお粥の炊き出しをしていた。


 手伝うのは、教会の修道女達と、地元のボランティア。そして、アベルの同時存在だった。

 もっとも、アベルは、連れてきたオードリーの世話にかかりっきりで、あんまり役には立っていないのだが……。


 炊き出しが終わると、地元の教会で、ラプアスの安定供給と引き換えに、炊き出しのアウトソーシングを依頼する。


 その領地で、地元民だけでの炊き出しが軌道に乗ると、次の領地に向かうのだ。


 教会のスタッフでチームを組み、その上、夫婦で……家族で力を合わせて、飢餓に立ち向かっていく。エミリーは、それに生き甲斐を感じ、充実していた。


 次の領地に向かう道の途中。夜営の焚き火の側で、眠るオードリーを抱いて、アベルに言った。乞うような声音だった。


「ねえ、アベル。お願いがあるの……」


 その声音が気になって、顔を上げるアベルに、エミリーは言った。


「あたし、神様より、アベルを信じたい。だって、あたしを……あたし達を救ったのは、神様ではなく、アベルだもの。お願い、あたしをアベルの僧侶にして……」


 エミリーが、祈るように、アベルの前に(ひざまず)いて、言った。


「あたしの、全てをあげる。心も体も、命や魂さえも……。お願い。あたしの全てを受け取って」


 アベルは……エミリーの全てを包み込むように、抱き締めた。そして、答えた。


「全部もらうよ。エミリーの全ては、ボクのものだ。もう、離さない。誰にも渡さない」


 エミリーは、喜びに震え、涙した。


 全身が、無上の愛で満たされ、力が無限に沸き上がるのを感じた。


 胸が燃えるように熱い。


 エミリーは、震える唇で、囁くように言った。心の芯から溢れ出した言葉だった。


「アベル……愛してる」


 言ってから、心から、無限に「愛してる」が溢れて止まらなくなった。


「ボクも、エミリーを愛してるよ」


 アベルは、優しく、キスで唇を塞いで「愛してる」を、全身で受け止めるのだった。






 アリス「エミリーだけキスした! ずるい、ずるい、ずるいー!」


 エミリー「えへへ~」


 イリス「……俺、ちょっと、アベル、襲ってくる」

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