35 閑話 イースラー男爵領の孤児達、後日談
○ リンドの妹分、ミーシャ視点です。
朝、太陽が昇る頃に、鶏の鳴き声で飛び起きる。
今日も時間ギリギリまで寝てしまった。
弟妹を起こして、着替えて一緒に1階に降りると、すでにイスカリーナかあさんと、リンドにいちゃん、そして、いつもお手伝いに来てくれる修道女見習いのチェルシーおねえちゃんが、朝食の準備をしてた。
「おはよう、みんな。朝のお仕事の前に、白パンだけは、食べて行きなさい」
どこか可笑しそうにクスクスと笑うイスカリーナかあさん。
リンドにいちゃんが、ラプアスで精製した甘い蜜を包んで焼いた白いパンを、時間停止保管庫から出して、ミルクの入った瓶と一緒に手渡してくれる。
誰よりも優しい、いつもわたし達を守ってくれるリンドにいちゃん。
わたし、大きくなったら、リンドにいちゃんの、お嫁さんになりたいな。
白パンを頬張ると、焼き立ての香ばしい香りが鼻を気持ちよく抜けて行く。
雑味がひとつもない、甘い旨味のパンに、口の中で、中身の蜜が絡んで、全身に染み渡るような美味しさが駆け巡る。
全身に力が沸いてくる。
食べ終わると、わたし達は、裏の鶏舎に駆けて行った。
巨大な鶏舎では、幾人もの大人と、その倍以上の子供達が、すでに仕事を始めていた。
ミーシャ達も、慌てて、友達と大人達に朝の挨拶をして、仕事に取りかかる。
卵を拾って、ケースに並べる。それを、時間停止保管機能の付与されたコンテナに入れて行く。
大人の男の人達と、成人前の力のある男の子達が、農場の肥料にするため、鶏糞を集めて、運んで行く。
大人の女の人達が運んできた飼料を、子供達みんなが協力して、エサ箱に入れて行く。
全員で汗だくになりながら、朝のお仕事をこなした。
○
家に帰ると、イスカリーナかあさんがお風呂を用意してくれていた。
わたしは弟妹と一緒にお風呂で汗を流した。
わたし達が、お風呂から出てくると、本格的な朝食がテーブルに並んで待っていた。
テーブルの中央に、籠に山盛りの白パンと、クセがあるけど好きな子もいる、精製してないラプアスで作った金色パン。
新鮮野菜のサラダ。シーザードレッシングが、たっぷりかけれらて、白く染まっている。
ゴロゴロと野菜が入ったコンソメスープが、いい香りのする湯気を立てている。
そして、小さな子供でも、食べられるように、サイコロ状に切られたステーキが、十分な量、皿に盛られている。
ここラプアシアは、主食がラプアスと肉なのだ。ミーシャのような平民の家庭でも、金銭的に無理なくお肉が食べられた。
「「「いただきます」」」
みんなで、声を合わせ、いただきますを言って食べ始める。
賑やかな食卓。幸せな空気。心地よい雰囲気。みんなの優しい笑顔。
涙がにじむほど、嬉しくて幸せな生活……。
この幸せを、誰に感謝すればいいのだろう。
イスカリーナかあさんと、リンドにいちゃん、チェルシーおねえちゃんには、いつも感謝の言葉を伝えているけど、「ありがとう」が心から、いっぱい溢れ出して、溺れちゃう。
「そんな時は、神様に受け取ってもらえばいいのよ」
イスカリーナかあさんに聞くと、そう答えてくれた。
「ラプアシアの神様は、誰なの?」
わたしが尋ねると、リスみたいに頬っぺたを膨らまして、お肉を食べていたチェルシーおねえちゃんが教えてくれた。
「一番古い精霊達が『神々の母』って呼んでいる竜ですよ」
わたしは、竜に感謝の祈りを捧げた。
○
朝食が終わると、みんなで学校に行く。
イスカリーナかあさんと、チェルシーおねえちゃんは、途中で別れて教会に。
智恵の魔方陣を刻んだタグのついたペンダントを首から下げて、蜜菓子を一個、頂いて食べ、お勉強が始まる。
蜜菓子は、今日は、グレープの風味がしてた。
この蜜菓子は、わたし達の間で、魔法のお菓子と呼ばれている。
食べると、頭が冴え渡るのだ。脳に必要なエネルギーが、全部入ってる感じ。
魔法のお菓子と、智恵の魔方陣のタグのおかげで、どれだけ頭を使っても、全然大丈夫。
午前中のお勉強が終わって、楽しみにしてた美味しい給食を食べて、午後もお勉強。
どれだけ知識を詰め込んでも、知恵熱も出さない。苦しくもならない。いくらでも頭に入って来る。逆に知識欲を満たされて快感。
心地よい疲労感でお勉強を終えると、ご褒美に、蜜菓子がもらえる。
今度は、オレンジ風味。爽やかで美味しい。蕩けるような甘味が、疲れを吹き飛ばしてくれる。
○
学校が終わると、少しだけ友達と遊んでから、鶏舎でお仕事。
お仕事が終わると、家に帰って、すぐお風呂。
お風呂から出てくると、テーブルには、夕食が並んでいる。いつもよりも、豪華!
あっ、今日はスピアさんとシズリさんが、来てくれていたんだ。
開拓民に誘ってくれたスピアさんは、たまにこうやって、暮らしに不自由がないか様子を見に来てくれる。
極上のお肉と、大きなケーキをおみやげに!
あっ! 今日は、おもちゃもだ!
スピアさんとシズリさんが、弟妹達に揉みくちゃにされてる。相変わらず大人気だ。もちろん、わたしも大好き。
○
まるで、パーティーのような、夕食が終わると、イスカリーナかあさんと、リンドにいちゃん、チェルシーおねえちゃんにスピアさんとシズリさんの前に、わたしが子供達みんなの代表で出て、お礼の言葉を告げた。
「いつも、ありがとう。わたし達、今、本当に幸せだよ!」




