33 閑話 冒険者酒場の噂話
○ 開拓黎明期の頃の話です。
ある街の冒険者ギルドに併設された酒場で、数人の冒険者達が、噂話に花を咲かせていた。
ほどよく酒もまわり、口も滑らかに話が弾む。
「おいおい、聞いたか? アゼルの奴、不毛の荒れ地に追放されたらしいぜ?」
「功を焦って「ナギア高地を登頂した」なんて嘘を吐いたんだ、当然だろ? 冒険者としては、優秀だったかもしれないが、人格は最悪だな」
「でも、不治の病だったイーステリア辺境伯爵令嬢に、世界樹の葉を使ったっていう噂もあるぜ?」
「おいおい、だったらなんで、不毛の荒れ地に追放されるんだよ? ガセだよガセ」
「そもそもな、世界樹の葉を王様に献上したら、貴族になれて、しかも、一生使い切れない金が手に入るんだぜ? 不治の病のイーステリア辺境伯爵令嬢に使う意味がわかんねえよ。伯爵に王様以上の報酬なんか用意出来ないんだから」
「それがなあ……」
「なんだよ?」
「アゼルに、そのイーステリア辺境伯爵令嬢が輿入れしたらしいぜ?」
「はあ?!」
「お前、そんな根も葉もない噂を信じるのか? 不毛の荒れ地に追放なんて、死刑宣告と同じだぞ? そんなところに、あの、子煩悩な伯爵が、自分の娘を嫁になんかやるもんか!」
「なんでも、伯爵は、不毛の荒れ地の開拓を、アゼルにやらせているって、話だ」
「あんな、雑草も生きていられないようなところで、なにが育つんだ?」
「なんか、天界から持ち帰った植物を育てているらしいぜ?」
冒険者達は爆笑した。
「だから、デマだって、デマ! 大嘘つきのアゼルだぜ?! デマに決まってるぜ」
○ 王宮での1幕
「国王様、お耳に入れたいことがあります」
「なんだ」
「ナギア高地登頂はデマだったそうです」
「またか。詐欺師はいなくならんな」
「まったくです」
「その詐欺師はどうした?」
「冒険者ライセンスを剥奪され、所属する村の長から、不毛の荒れ地へと追放されております」
「つまり、死刑か」
「そうなります」
「では、そのように手続きをせよ」
「御意」
こうして、アゼルは、法律上、死亡したことになり、死刑を受けた上で生きているアゼルは、死んだとされているアゼルとは、法律上、別人という扱いになった。
アゼルとイーステリア辺境伯爵は「これ幸い」と喜んだのだった。




