32 閑話 イーステリア辺境伯爵家の家族会議
○ アゼルがクレアの病気を治した直後の話です。
クレアが、ベッドで安らかな寝息を立てている頃。
「クレアが救われた。これ以上ない喜びだ。しかし同時に、大変な損失を被った」
沈痛な面持ちの伯爵に、その妻であるサレアが同意した。
会議室に集まった6人の兄妹達も同意にうなずく。
話をまとめるように、長兄のソードが言う。
「アゼル殿の言葉では、「報酬はすでに受け取っているからいらない。私はこれから詐欺師の謗りを受ける身の上だから、伯爵様に迷惑をかける。私に関わってはいけない」……だったな」
そう言ってアゼルは、なにも受け取らず去ったのだ。
ナギア高地の登頂をデマであったことにしなければならない、もうひとつの重要な理由がある。それは、国王への献上品を、伯爵が横取りしたことになってしまうからだ。
アゼルは、汚名を、その一身に被ることで、伯爵を守ったのである。
次兄のアクスが、傷みをこらえるような表情で言う。
「なんと高潔な人物だ……それに……」
その言葉を引き継いだのは、長女のケイトだ。
「自分のことよりも、辺境伯爵家のことを、大切に考えている。まるで、親友や家族のようではありませんか」
その言葉を、粗野な風貌の三男スピアが続けた。
「イーステリア辺境伯爵家は、クレアという家族を失わずに済んだが、アゼルという家族を失った……ということだ。確かに、これは大きな損失だな」
次女のシスカ、三女のセリカも、深くうなずいた。
イーステリア辺境伯爵家は、なにより人の絆を大切にする。家族全員が、この事態には、我慢できないほどの、悔しさを感じていた。
○
ソードが強い口調で言った。
「アゼル殿を養子に迎えて、この領地を継がせよう」
ソードは、報酬にイーステリア辺境伯爵領の全てを渡そうと言うのだ。
その言葉に、兄妹達が、声を揃えて、
「「妥当なところだな」」
「「「少し安い気もしますが、いいでしょう」」」
そう言った。兄妹達の価値観では、クレア以上に価値のあるものなどなかった。
母であるサレアがまとめた。
「基本方針は、それでいいでしょう。でも、まず、アゼル様が、なにを求めておられるのかを知る必要があります。ね? あなた」
「うむ。すでに影はつけてある。情報を待とう」
全員の合意で会議は終了したのだった。
○
「おとうさま、本当にアゼル様は、なにも求めなかったのですか?」
「ひとつだけ、頼みごとをされたよ」
「それは?」
「クレアの笑顔を守ってあげて下さい。と、頼まれたよ」




