28 閑話 女王キサラの政(まつりごと)
○ キサラが真面目に女王やってます。
キサラが、アベルの待つ、ふたりのプライベートルームに入って来た途端、盛大なため息を吐いた。
「どうしたの?」
アベルが問うと、キサラは心底嫌そうに言った。
「以前、5日5晩かけて解決しなかった議案が、また、奏上されたの……」
弱りきったように、ソファーに身を沈める。
「見せてもらっていい?」
キサラが、魔法で、虚空から、キサラが考えた議案の解決策を書いた書類を取り出し、アベルに渡す。
それを熟読したアベルが、あるひとつの項目を消して、キサラに返し、言った。
「それを持って、会議前に、まず、コリンズの部族の族長に見せて、相談してみて」
キサラは、不思議そうにしながらも、アベルの言う通りにした。すると……。
○
「アベルが消した項目を指摘されたわ」
キサラが、疑問を押し殺した声で、言う。
「見せて」
アベルが、書類を確認し、次に指摘されたところとは別の項目を消して、キサラに返して言った。
「次は、この書類を持って、サランズの部族の族長に、相談に行って」
キサラは、不思議そうにしながらも、アベルの言う通りにした。すると……。
○
「アベルが消した項目を指摘されたわ」
キサラが、なぜ、このようなことをしなくてはならないのかと問う声で、言う。
「じゃあ、次、どんどん行くよ」
そう言って、アベルは、同じようなことを、全ての部族にした。
そして、会議当日……。
○
「では、反対意見もないので、本件の議題は、女王キサラの提案通りのものとする」
議長の宣言を受けて、会議場に拍手が沸き起こる。
会議開始から、わずか10分のことだった。
○
「アベル! いったい、どんな魔法を使ったの?!」
プライベートルームに駆け込み、キサラがアベルに問い詰めた。
アベルは笑って、こたえた。
「こうすれば、全ての族長の意見が盛り込まれていることになって、彼らが、確かに政治に参加して協力しているっていう、役に立ったことの証明になっただろう?」
キサラが、うなずく。
「こうすれば、たとえキサラが「私は全ての部族を尊重し大切にしている」って100回言うより、彼らを尊重し大切にしている証にならないかい?」
キサラが驚きと共に「確かに」と呟いた。
「こうすれば、彼らの存在価値を高め、彼らに安心を与えことが出来るでしょう?」
キサラの議案には「完璧である」という欠点があった。それをアベルは、わざと完璧でなくして欠けている部分を作り、族長達に補完させた。そうすることによって、彼らに、活躍の場と功績を与えたのだ。
完璧な議案を提出することで「お前達は必要ない」と言っているのだから、議員である族長達が受け入れるはずがない。
そう、笑顔で言うアベルを、キサラはキラキラした目で見つめ、惚れ直したように、言った。
「アベル、凄い! アベルって、賢いのね」
アベルは、称賛がむず痒くて、苦笑して言った。
「ボクは賢くないよ。ただ、人情を大切にしているだけだよ」
賢いかどうかで言えば、完璧な草案を作れるキサラのほうが、圧倒的に賢い。ただ、世情に疎い。
神々の主神が、決定事項を押し付けるだけの政治に慣れてしまっていたキサラは、目から鱗だった。




