26 閑話 野良犬とアベル
○ アリス達を救い出す直前のお話です。
アリス達から、手紙が来ない。
アベルは、少し、焦っていた。
郵便事情が不自由な、この国で、手紙が届かないことなど、当たり前だ。事実、アベルも今まで、気にしなかった。
もう、とっくに王都に着いてる頃だよなあ……。
アベルの焦りは、そこである。王都からなら、比較的、手紙が届きやすくなるはずだ。
王都からイーステリアまでは聖地巡礼の道であり、イーステリアからは、ヘンリーさんが、引き継いでくれる。
なにか、あったのかも……。
不安に焦れて、でも、素直になれなくて、なにも出来ないでいるアベルの背中を押してくれたのは、キサラとクレアだった。
「「私達、アベル(アゼル様)の、ご家族に、ご挨拶がしたいわ(です)連れていって(下さい)」」
アベルは「なら、しかたないな」と言いながら、大慌てで出発した。飛空船セントエレメントまで、引っ張り出して。
○
王都に着くと、セントエレメントを上空に隠蔽したまま待機させ、アベルは飛び出して行った。
アベルが精霊達に呼びかけると、こたえたのは、王都の精霊だった。
「アリスとイリスとエミリーを探しているんだ。教えてくれ」
王都の精霊は、しれっとしてこたえた。
「アリスとイリスとエミリーを知ってる子なら教えてあげるわ。王城の牢獄……拷問部屋よ」
「どうして、そんなところに……」
戸惑うアベルに、王都の精霊は、やはり、しれっとして、こたえた。
「アリス達が王族から、無実の罪で、指名手配されてて、その居場所を知っているってことで、その子が拷問されているのよ」
アベルは、愕然とした。
そんなアベルに構わず、やはり、王都の精霊が、しれっとして言った。
「早く助けないと、死んじゃうわよ? あの子、どれだけ拷問うけても、全然、しゃべらないんだもの」
「時の精霊、力を貸して!」
余裕を完全に失って、アベルが時の精霊に呼びかける。
『引き寄せの未来科学魔法道具があるよ。すぐ使うね』
「やって!」
すぐに、アベルの腕の中に、右目がつぶれ、左耳が切り落とされた、激しい拷問によって傷だらけになった犬の獣人の女の子が現れた。
「もう、大丈夫だ」
息も絶え絶えの女の子が、アベルを、亡羊とした目で見ると、消えてしまいそうな弱々しい声で、言った。
「アリス…イリス…エミリー…そして、赤ちゃん達を…助けて」
アベルは、女の子が、自分のことを助けてと言わなかったことに、驚いた。
「いや、まず、君を助け……」
「ダメ! …赤ちゃん達が…死んじゃう…わたしの…こと…どうでもいい…から」
被せぎみに言った、女の子の必死の懇願に、
「分かった。道案内してくれ」
と、言って、女の子の案内で、王都を走り、スラムのゴミの山の麓にある廃屋に飛び込んだ。
「「誰か……助けて! 誰か……!」」
アリスとイリスの、悲痛な叫びが聞こえる。
アベルは、3人と赤ちゃん達の、辛うじて生存している姿を見て、声を上げた。
「間に合った!」




