23 閑話 バーバラの元に
○アリス達を救出し、バーバラの家に帰った時の話です。
「「「ただいま、バーバラ」」」
アリス、イリス、エミリーが家のドアを開けて、中に入り、声を揃える。
魔法の薬を陳列した棚で、魔法の薬を並べていたバーバラが、目を剥いて驚く。
でも、すぐに喜びに変わり、目の端に涙を浮かべた。
「よく無事で帰ってきてくれたねえ」
ふと、3人が抱く娘達に目を止めて、目を細めて、しわくちゃな顔の笑みを深める。
「まあ、その子達は、あなた達の子供ね? 幸せが増えたねえ」
バーバラは、幸せを噛み締めるように、しみじみと言った。
バーバラは「誰の子?」とは聞かなかった。ただ、自分は嬉しいんだ、と言わんばかりに、ただ、喜んで見せた。
3人は、バーバラが「なにも言わずとも分かってるよ。その上で、これは幸せなんだよ」と言ってくれているんだ、と分かった。なによりも、娘達のために。この子達を幸せの中で育てるために。
……祝福。
バーバラの気遣いに、3人の目に涙が浮かんだ。
○
「バーバラ、孫達を見ててよ。4人でお祝いのごちそうつくるからさ」
アベルがそう言うと、バーバラが、楽しそうな声で返事した。
「そうだねえ。最近は生活が豊かになって、毎日がごちそうだけど、今日は、うんと腕によりをかけておくれ」
アベル達は、快活に返事をして、炊事場に向かう。
○
料理が並んだテーブルに着いて、アリス、イリス、エミリーは、驚きと期待に目を輝かせていた。
香辛料をふんだんに使った、分厚い牛肉のステーキ。しかも、見事なさしが入った最高等級の肉だ。
畑で取れた、取れたての、新鮮野菜がゴロゴロと入り、大きな腸詰め肉が極上の出汁を出しているポトフ。
ミルキーで爽やかな酸味が効いたドレッシングで化粧した、新鮮野菜の山盛りサラダ。
テーブル中央で籠に山盛りにされた、時間停止保管庫から出てきた、焼き立てと思われる白パン。
それだけではない。3人は見た。
時間停止機能のついた食糧保管庫の棚に、ホールサイズのイチゴのショートケーキが乗っていたのを。きっと、あれがデザートだ。
「さあ、みんな、食べよう。あっ、デザートがあるから、その分はお腹、空けといてくれよな」
アベルの言葉に、3人は確信する。よだれが止まらない。
「「「いただきます!」」」
○
ステーキに、がぶりついたイリスが驚く。
「アベル! この肉、舌の上で溶けるぜ!」
白パンを、一口食べて、アリスが驚く。
「なに、この白パン?! ふわっふわでもっちりしてて旨味と甘味が凄いんだけど! えっ、ラプアスの芯で作ってるの!? 雑味が全然ないんだけど!」
サラダを一口食べて、エミリーが驚く。
「この野菜、新鮮で美味しい! それに、このドレッシング……ほっぺが、きゅってする! これ、好き!」
3人の反応に、アベルは口元を緩め、ふとバーバラを見ると、孫と遊びながら食べている。
「バーバラ? お行儀悪いよ」
バーバラは、嬉しそうに、言い訳する。
「だってねえ、かわいいじゃないか。しかたないんだよ」
終始和やかな雰囲気で、夕食を終えた。
○
夕食後の紅茶を飲みながら、3人はバーバラに報告した。
「「「私達、アゼルお兄ちゃん(笑)のところに嫁ぐことになったの」」」
アベルとアゼルの関係を知っている3人は、どこか含みのある発言をした。
それに対して、バーバラも、
「そうかい、アゼル(笑)のところにねえ。……アベル、幸せにしてあげるんだよ?」
と、アベルに振り向いて笑う。
「もちろんだよ。アリスもイリスもエミリーも、カレラもオードリーもウェンディも、幸せにして見せる」
アベルの力強い返事に、バーバラが笑みを深める。そして、忠告した。
「アゼル……ラプアシア男爵が保護するなら、王家もおいそれと手を出せないだろうけど、よけいなトラブルを呼び込むことはないんだから、極力、隠して秘密にしておくんだよ?」
「わかってるさ、バーバラ」
○
数日間、バーバラの家に居てから、アリス達は、アゼルのところに行った。
結構頻繁に里帰りすることになるのだが、それは別の話。
バーバラの世話に残ったアベル……の、同時存在……が、畑仕事をしていると、友達のゴンゾが、子供のピーチを抱いたレモニーと一緒にやってきた。
「よう、ゴンゾ。今日はどうした」
アベルが問うと、ゴンゾとレモニーが一緒に、恥ずかしそうにしながら報告した。
「俺達、結婚することになったんだ」
アベルは「やっとか」と呆れた。
「ずっと、ゴンゾがレモニーとピーチを助けてたからな」
アベルが言うと。
「当然だぜ。困ってる女の子を助けないなんて、男じゃねえ」
と、鼻の下を指で擦る。
「ピーチも、ゴンゾの子供として引き取るんだろ?」
「あったり前なことを聞くなよ。俺の子じゃないとかセインの子だとか関係なく、ピーチは可愛いからな。それに、子供を見捨てるなんて、男じゃねえぜ!」
堂々と胸を張るゴンゾを、アベルは眩しそうに見て、言った。
「幸せに……なってくれよ?」
「おう! 任せろ」
ふたりは笑いあった。
「お祝いに肉をやるよ。バーバラの家に来てくれ」
それを聞いてゴンゾが、大喜びした。
「おっ? いいのか。お前んとこの肉は、アゼルんとこの極上肉だから、旨いんだよなあ」
「いいぞいいぞ! いくらでも、持って行け」
アベル達は、笑顔で、笑いながら、イーストエンドの村を歩いて行くのだった。
それは、幸せな光景だった。




