2 3人の幼なじみ
ひとまず、時の精霊の用事を後回しにして、一緒に暮らしている、アベルと同じ年齢くらいの女の子達の、2階にある部屋に行く。
みんな、アベルと同じく老魔女のバーバラに引き取られた孤児だ。
ちなみにアベルは7歳。
部屋のドアを叩いて大きな音を立て、大きな声を出す。
「アリス、イリス、エミリー、朝だよ。起きろー」
しばらく待つが、返事も物音もしない。
アベルは「やれやれ」とため息を吐いて、ドアを開けて部屋に入る。
部屋は真っ暗だ。
微かに窓の木戸の隙間から漏れる光で、様子が分かる。
なお、窓ガラスなど、貴族の屋敷でもなければない。
ベッドがひとつだけ置いてある狭い部屋に、3人の幼女達が寝ている。
ひとりは、燃え立つような赤毛ロングの、気の強そうな女の子、アリス。
「ほら、アリス。起きなよ」
アベルが肩を掴んで揺らすと、
「うっさいわね、アベルのクセに」
と、不機嫌そうな声を出し、頭からシーツに潜り込む。
ひとりは短く刈り込んだ金髪ショートの、まるで男の子のような女の子、イリス。
「ほら、イリスも起きて」
揺さぶろうと、手を伸ばしたアベルの顔面に、無言でパンチをする。
すぐに手が出るのが、イリスの悪いクセだ。
ひとりは、前髪で目を隠した茶髪のボブカットの女の子、エミリー。
「エミリー、朝だよ」
「うう~ん、あと5分……」
もぞもぞとシーツを掻き寄せて頭に被る。
3人とも、目が覚めるような美幼女だ。寝てるけど。
アベルは腰に手を当て、ため息を吐く。
無言で窓に歩み寄り勢いよく木戸を開け、朝の刺すような陽光で部屋を満たす。
「「「やめれ~! 溶ける~」」」
「このヴァンパイアどもめ! いい加減起きろ」
ちなみに、念のため、3人はヴァンパイアではない。ただ、甘えてるだけの、普通の人間だ。
○
なんとか起こし、着替えを手伝ってやって、準備を終えて連れ立って降りて来る。
アリスは魔法の薬に使う薬草の下処理に、バーバラの居る魔女の大鍋がある部屋に行く。
イリスは朝練のための、剣の素振りに庭に行く。
エミリーは朝のお務めに、教会に祈りを捧げに行く。
アリスには魔法使いの才能があり、イリスには剣の才能が、そしてエミリーには神聖魔法の才能があった。
ちなみに、アベルには、魔法使いの才能も剣の才能も神聖魔法の才能も皆無である。
で、アベルはなにをやっているかというと、食事の支度である。
囲炉裏の灰の中に残して置いた火種を用いて火をおこす。
湯を沸かし、そこに乾燥させて保存していた野草をパラパラと浮かべる。
味付けに塩を入れるが、塩は貴重なので、ほんの少しだけ。
乾燥させて粉にした木の実で作った小さなパンもどきをひとりひとつずつ皿に出して並べる。
いつもの、この村では普通の朝食だ。
農家なら、家庭菜園で育った新鮮な野菜のサラダが付くのだが、村の薬剤師のような立場のバーバラの家には薬草畑しかない。
『栄養バランスなにそれって言うような朝食だね』
心の中に時の精霊の心配するような呆れたような声がした。
『食べられるだけで幸せだよ? 孤児院の子達なんか1日に寝る前にこれと同じ内容の1食だけなんだよ。ボク達はバーバラに拾われて良かったよ』
アベルも心の声で応えた。
ちなみにアベル達も、昼食はない。1日朝夕の2食が普通だ。
『この村は、貧しい村なんだね』
『ううん、どこも似たようなものだって行商に来るヘンリーさんに聞いたよ』
時の精霊は絶句した。
やがて、イリスとエミリーが帰って来て、アリスとバーバラを呼んで朝食にする。
パンが少し古くなって酸っぱかったが、これくらい普通だ。
食事とは娯楽ではなく、生きるためには、どんなに不味くても食べなくてはいけない苦行なのだから。
それでも、バーバラもアリスもイリス、エミリーも、笑顔で今日の予定を話していた。
だって、食べられるだけで幸せだもの。




