16 魔王復活と旅立ち
「俺は、もうだめだ」
村の男衆のリーダー的存在だったリヒターが、悔しそうに吐き捨てた。
利き腕が、大きく切り裂かれ、動かすことが出来ない。
今回も、採集はさんざんだった。
食糧を集める前に、強力なゴブリン達の襲撃が続いた。
明らかに、奴らは数を増やし、強くなっている。
採集に参加した者で、女子供含め、ケガをしなかった者はいない。
原因はそれだけじゃない。戦える男達が怪我でリタイアし、護衛の数が減っていたのだ。
そんな状況で、更に、リーダー的存在であるリヒターの脱落である。
採集物の確認に来ていた村長が決断した。
「森へ入るのは、やめよう」
幸い、国からの援助(と、いうことになっている)が、行商人のヘンリーを通して、充分な量を支給されている。
しばらく、様子を見るのがいいだろう。
「俺が強くなって、ゴブリンどもを退治します」
誠実そうに、かっこよく宣言するのは、大きく強く、そしてより美形に育ったセインだった。
若い娘達が黄色い声をあげる。
セインはいい気になって、胸をはった。
実際、セインと、アリス、イリス、エミリーのパーティーは、森に入って多くのゴブリンを討伐し、冒険者ギルドから、大量の賞金を稼いでいた。
……不思議と、その賞金は、村人どころか、アリス達にまで分配されていなかったが。
○ アベル13歳
村は決死の覚悟で森を開墾し、防護柵を広げ、耕作地を作っている。
そんな作業の合間にアベルは、友達のゴンゾとチニーと、村のウワサ話をしていた。
「おい、知ってるか」
「なんだ」
「レモニーの奴、妊娠したらしいぞ」
レモニーとは、アベル達と同年代の、気の弱い女の子だ。
「おいおい、相手は誰だよ」
狭い村だ。恋人が出来れば、一晩で村中の人が知ってしまう。アベルはレモニーに恋人がいるなど、聞いたことがなかった。
「それが……相手はセインらしいぜ」
「それって、玉の輿じゃないか。大人しいふりして、やるじゃん、レモニー」
ゴンゾが笑う。
しかし、情報源のチニーは息を潜めて言った。
「セインの奴、認知しなかったらしいぞ」
本当に俺の子供かって言って、レモニーを泣かせたらしいぜ。
「いやいや、この狭い村だぞ? みんな真実を知ってるって」
ゴンゾがそう言うと、チニーが肩をすくめて言った。
「えらい奴が、「白」って言ったら「真っ黒」でも「白」なのさ」
アベルは、その話を聞いて、セインとパーティーを組んでいるアリス達のことが、とても心配になった。
○
「おーい! 大変だ」
そこに、伝言板を持った門番が、大声をあげて走って来た。
尋常でない雰囲気に、アベル達が慌てる。
「おい、落ち着け! いったい、どうしたんだ」
激しく乱れる息を、なんとか抑えて門番が言った。
「魔王が復活した!」
○
伝言板を、アベルはゴンゾとチニーと一緒に覗き込んだ。
かつて、人間を滅ぼしかけた魔王の復活が大きく見出しに載っていた。
「王城にある聖剣を抜くことの出来る者を募集してるぜ?」
チニーが興奮して言う。
「聖剣を抜いた者は、勇者に認定され、お姫さまと結婚して王族に迎え入れるだってさ、スゲー!」
ゴンゾが叫んだ。
○
その日の夕食。
アベルにバーバラ、アリス、イリスとエミリー、みんな揃って、アベルの手料理を食べていた。
アリス達3人は、冒険者活動がメインとなり、自然と家事全般がアベルの仕事になっていた。
南の荒れ地にラプアシアが出来て、この村の食事は、格段によくなった。
夕食が終わった時、アリスが、イリスとエミリーに目配せして、切り出した。
「あたし達、セインと王城に行くわ。セインが勇者になるの」
「行くな!」
声を荒げ、椅子を倒して、アベルが立ち上がった。
「……なぜ、止めるのよ?」
訝しげなアリス。
「嫌な予感がするんだ……。絶対、不幸になる。とにかく行くな」
アベルの気弱な発言に、イリスが鼻で笑って、馬鹿にするように言った。
「そんな不確かな情報で、冒険を止める冒険者なんかいないぜ?」
エミリーは、不安を拭うように、アベルに言った。
「大丈夫よ、セインが一緒なんだから」
「それが、一番心配なんだよ!」
イリスが大笑いした。
「なんだ、アベル。嫉妬かあ?」
「はあ? なに言ってんの。自意識過剰じゃない?」
アベルの即答に、イリスはムッとした。
「いいか。セインは、女の子を性処理の道具としか見ていない外道だ」
吐き捨てるように言ったアベルの言葉に、3人は激昂した。
「「「なんてこと言うのよ! セインのことなんかなにも知らないクセに! アベルなんか大嫌い!」」」
エミリーの平手打ちがアベルの頬を打った。イリスの拳がアベルのみぞおちに食い込んだ。アリスの蹴りがアベルの股にめり込んだ。
3人は床に転がるアベルを軽蔑の目で見て、2階の寝室に向かった。
ひとりオロオロしてたバーバラが、心配してアベルに言った。
「どうなっちゃうのかねえ、あの子達」
あの子達が泣くのは嫌だよ。
アベルは、やれやれと、肩をすくめて言った。
「恋は盲目って本当だな。まあ、痛い目に遭わないと判らないだろう。取り返しのつかない失敗じゃなければ、何度でもやり直せばいいさ。どうせ心も体もボロボロに傷ついて帰ってくるだろうから、治してやれるように用意しておくよ。それと赤ちゃんのミルクも。娯楽のない田舎は、これだから嫌だよ」




