123 閑話 アゼルの社交
○ 122 サレアの望みの後です。
社交シーズンが来た。
アゼルも、第1婦人と第2婦人を伴って、王室主宰の社交会に参加するため、王城のサロンに訪れた。
一通りの挨拶の後、男と女に別れて、それぞれ歓談をする。
政治的、経済的な駆け引きに聡いアゼルは、それほど社交が苦手ではなかった。
そもそもアゼルは、社交……コミュニケーションというものを、実にシンプルに捉えていて、悩んだ試しがない。
社交……コミュニケーションの極意は『相手を大切に思う心』である。
それ以外の全ては、その応用である。
注意しなくてはならないことは『それなりに相手を大切にする』ことである。
人には相性というものがある。
親しくなっていい相手と、親しくなってはいけない相手がいるのだ。
誰彼構わず仲良くなんかなるな。
友達は選べ。
そういうこと。
その相手に、どこまでしてあげればいいのか? そして、逆に、どこまでしてもらってもいいのか?
これを見誤ると、対等ではなくなってしまう。
対等な友達ではなく、上司や部下……親と子供……奴隷と主人のような関係になってしまう。
隷属や従属などの格差を生じてしまう。
無料で、なにかをさせられたり、取られたりするようになり、それが常態化する。
そして、貴族は、そうなってしまって、被害を被るのが、自分の身のひとつではない。
自分の派閥……自分の味方まで被害が及び、迷惑をかけることになる。
領主は、もっと悲惨だ。
自分の領地の民衆まで、低い扱いを受けるのだ。
貴族とは私人ではない、公人なのだ。
自分の背中に背負っているのが、自分の命だけではない。
領地の民……全員の命を背負っているのだ。
そうそう、民衆と言えば。
民衆は、指導者である領主を正しいと信じて、従っている。
そんな領主は、自分が間違っていても、軽々しく、自分の間違いを認めることが出来ない。
間違ったことを指示する領主だと、民衆の信用を失い、民衆が領主に従わなくなるからだ。
領主とは……貴族とは、自分が間違っていても、それを認めることの出来ない愚物である。
アゼルは、出来るだけ、そのような事態を避けるため、領民と親しくなり、なんでも話しあえる……間違いを認め合える風潮を作っていた。
領民に教育を勧めているのも、その為だ。
俺みたいな素人が、間違わない……失敗しない訳がないじゃないか。間違ったら、みんなに本当のことを言ってもらって、注意してもらわなくっちゃ。
アゼルは、自分を知っていた。
アリス、愛してる。
○
アゼルがハザン子爵と、子供の話題で談笑している。
アゼルは、知っていた。
このハザンという男……アゼルの一族を暗殺しようとしている。
でも、笑顔で、子供の好物の話で盛り上がる。
貴族の社交では、普通のことである。
アゼルも、ハザン子爵を『それなりに』大切にする。
○
次に、ネイロ伯爵と歓談する。
ネイロ伯爵は自分の領地を経営する領主だ。
お互いの領地の経営状況や、近隣の現状など情報交換をして、ふと、ラプアシアからの食糧支援……ではなく輸入について、価格を下げるよう、要望を受ける。
アゼルは、曖昧な笑みと言葉で煙にまく。
アゼルは、諸侯に、生存に必要最低限の食糧支援をしている。
では、それだけで、諸侯が幸せな生活を送れるか?
その答えは否である。
アゼルは、必要最低限の食糧支援に金銭を要求していない。しかし、必要最低限以外の食糧には、比較的高く、金銭を求めているのである。
その減額は、常に求められ続けているのが、現状だ。
ただ、アゼルは、他領の幸せのために、自分の領地の民の幸せを犠牲にするつもりなど、更々なかった。
だから、いつも曖昧に笑い、決して交渉には応じず、煙をまくのだ。
○
次に来たのはノルマン男爵だ。
時節の挨拶の後、ノルマン男爵の息子とカレラとの婚約を申し込まれた。
アゼルは、知っていた。
このノルマン男爵。つい先日、カレラを暗殺しようと、暗殺者ギルドに行ったばかりだ。
暗殺対象に、自分の息子をあてがおうとする……。
これなど、人界の貴族の普通である。
貴族の社交など、妖怪の化かし合いだ。
アゼルは、心の中で、呆れた。
外に向けた顔は、輝くような笑顔である。
アゼルは、特に社交……コミュニケーションを苦にしていなかった。
鬼を大切にするとは、鬼を殺すことである。
罪深い死刑囚を大切にするとは、死刑を執行することである。
……どうやって、殺すか?
無害な笑顔の内で、アゼルは危険な笑顔で笑った。
忘れてはいけない……アゼルは、悪い男である。




