122 閑話 サレアの望み
スミマセン、短いです。
○ 116 暴力ダメ絶対の後です。
「サレア様……本当に申し訳ございませんでしたっ」
イーステリアの伯爵の城……その城主であるガーランド伯爵の妻であるサレアにアゼルが、深々と頭を下げる。
サレアは、ニッコリと笑って言った。
「正座」
「ハイっ!」
アゼルは、即座に……一瞬で正座した。
○
「いいですか? あなたのおかげで、私の社交の人脈はズタズタです」
「ハイっ! スミマセン!」
アゼルが恐縮する。
「あなたは、私の娘壻……つまり家族です。その家族の行いは、私の評判に直結します。それはいいですね? 分かっていますね?」
「ハイっ! 重々、承知しております!」
「あなたは、私の派閥の筆頭……言動には、十分に注意しなくてはいけない……分かりますね?」
「ハイっ!」
「貴族とは、富裕層……その集合体です。その集合体の常識を外れると、どうなるか……分かりますね?」
「ハイっ! 分かっております!」
「分かっていないから、ローンベルトを殴るのです」
ピシャリと、サレアがアゼルを叱る。
アゼルは、ただ、深く頭を下げた。
「言葉による交渉など、貴族の基本中の基本……常識です。いいですか? あなたは常識のない野蛮人の烙印を押されたのですよ?」
アゼルは、縮こまった。
「罪の謝罪など、暴力ではなく、金銭や利権の譲渡で行うものです。いいですね?」
「ハイ……」
アゼルには、抗弁の余地などない。ただ、素直に謝った。
サレアは社交家で、長年築き上げたコネクションがある。それは、派閥を越えた情報源であり、同時に、貴族達の思惑を誘導する情報操作の手段でもあった。
アゼルの今回の行いが、サレアの情報収拾と情報操作の手段を奪ったのである。
言わば、サレアの職を奪い、無職にしてしまったようなものだ。
サレアは悲しかった。
もう、私は、夫や娘壻の役に立てない……!
それが、なにより、悲しかった。
○
「立ちなさい……」
サレアは、アゼルを立たせ、正面に立った。
そして慈愛に満ちた抱擁をする。
「あなたは、貴族として、やってはいけないことをしました」
「私は、私のコネクションを失う被害を被りました……」
そこで、サレアが失笑した。
「でも、なぜでしょう? 嬉しいのです」
アゼルが驚いてサレアを見た。サレアが晴れ晴れしく笑って言った。
「私は……貴族である前に、ただの人だったのですね……非道なローンベルトが殴られたと聞いて、心から喜びが溢れます」
サレアが、力強く言った。
「アゼル……あなたは、私の誇りです、自慢の息子です。あなたが、クレアと結婚してくれて、本当に良かった……」
「あなたは立派な貴族ではない。立派な大人ですらない。でも、立派な人よ。そんなあなたが、クレアの夫で居てくれることが、本当に嬉しいわ」
そう言って、サレアは、幸せそうに笑ったのだった。
クレアを、幸せにしてやって下さい。
サレアの望みは、ただ、それだけだった。




