119 閑話 パジャマパーティー(-3+1)
○ 111 シャルの初めての後の話です。
キサラ達がお菓子とお酒を持って、シャルの寝室に行くと、シャルが床で土下座していた。
「大変、申し訳ありません」
謝罪するシャルの声と体が、激しく震えていた。
シャルがアベルの妻に加わり、無事にレオナも産まれ……アベルと結ばれ……そのお祝いの後、女の子達だけで、お祝いしようと、パジャマパーティーを、シャルの寝室で開催した。
これは、その時の出来事である。
○
唖然とするキサラ達に、シャルの謝罪は続いた。
「図々しくも、猿に穢された……汚れきった私ごときが、尊きアベル様に輿入れし、魔王の子を産んだ罪深い私が、栄光あるラプアシアに災いを引き入れました……度しがたい愚かな私です……どうか、お許し下さい……」
声が涙で震えていた。
言っていることに、当たっているところがあるだけに、キサラとクレアは、黙ってしまった。
……ど……どうしよう……。
キサラとクレアは困った。
困惑するキサラとクレアを置いて、アリスとイリスとエミリーが、シャルを助け起こした。
代表して、アリスがシャルに言った。
「あたしとイリスとエミリーに比べたら、シャルなんて可愛いものよ?」
シャルが……キサラがクレアが、驚きに目を見開いた。
「シャルはさぁ? アベルが浮気して出ていって、しばらくして子連れで帰って来て「養ってくれ」って言ったらどうする?」
シャルが……キサラがクレアが、驚愕に顔を強ばらせた。
そんなことされたら、気が狂う。
「あたし達がアベルにしたことって、そういうことなのよ、あたし達って、最低なのよ」
キサラ達は「そんなことない」と言った。でも、アリス達は首を横に振った。
「今だから、気づくことが出来たことだけど、あたし達は、ずっと昔から……出会った頃からアベルが好きだったの……だからセインのことは、完全な浮気よ。ただ、あたし達が、アベルに甘えてただけよ」
浮気して、浮気相手の子供を身籠った。そして、恥知らずにも、帰って来た。そして、言ったのよ「養って」って……。
「アベルは、そんなあたし達に「無事に帰って来てくれて、ありがとう、嬉しい」って言ったのよ?」
シャルが……キサラがクレアが、静まり返ってしまった。アリスが続けた。
「アベルは……あいつはあたしが「優しいね」って言ったらキョトンとしてた……そうだよね、もう、優しいなんてレベルじゃない……あいつって、バカなのよ」
「「「ちょっ! それは言い過ぎ!」」」
キサラ達が、声をあげるが、アリスは構わず続けた。
「あいつは……キサラが……クレアがあたしがイリスがエミリーが、そしてシャルが……子供達……カレラ、オードリー、ウェンディ、ビーナとタニア、そしてレオナが好き過ぎてバカになってるのよ」
アベルって、嫁バカの親バカ……。
アリスがシャルの肩に手を置いて、ハッキリと言った。
「あいつ……あたし達のためなら……シャルとレオナのためなら、なんでもするわよ……それこそ、シャルとレオナを守るためだったら、喜んでユーフォリア全体を敵にまわすわ」
キサラ達は、そこのところは、同意して頷いた。
アリスは、晴れやかに笑って言った。
「だから、堂々と、あいつの愛を受け取りなさい。それが1番、あいつを喜ばせるわ!」
アリスはそれに付け足した。
「あたし達の友情も受け取ってよねっ。あたし達だって、シャルとレオナのためなら、なんでもするわよ?」
そう言って、魅力的にウインクして見せる。
シャルは、そのあまりもの魅力に、頬を染めた。
○
なんとか、シャルを立ち直らせて、パジャマパーティーを始めた。
「でも、アリスって、凄いね……私には、あそこまで言えないわ」
キサラの言葉に、アリスは答えた。
「あたしって、ホラ……バカだから、言葉のあやとか理解するの無理なのよ。優しい嘘っていうオブラートのことを本当だって思っちゃう。だから、あたしはアベルと、嘘も誤魔化しもない本当のところで付き合うって決めたの」
ぶつかって、痛くて辛くて怖いけどね。
と言って、笑った。
キサラとクレアは、感心した。
私達に出来ないところで、アベルを支えてくれる……。
キサラとクレアは、密かに感謝したのだった。
そこで、ふと……キサラとクレアが疑問を口にした。
「「ねぇ、どうしてセインなんか、好きになったの?」」
アリスとイリスとエミリーが、口を揃えた。
「「「だって、顔が綺麗だから……」」」
「「そういうところ!!」」
キサラとクレアが、激しく突っ込んだ。
アリスとイリスとエミリーは、致命的な面食いである。
キサラが、アリス達に注意する。
「うん、そういうところが、アベルを凄く不安にさせてるからね?」
最初は誠実で優しかったし……体を許してから本性に気づいたって、後戻りなんか出来ないじゃない……。責任は取ってくれるっていう言質は取ったけど、反故にされたし……。
あぁ……セイン嫌い……憎い……。
誠実な良い人って、平気で人を深く傷つける裏切りの嘘をつくよね。
誠実な良い人……怖い……。
アリスとイリスとエミリーが、小さく抵抗した。
嘘に成れるのは、本当だけなんだよね。
○
基本的に、アリス、イリス、エミリーは、アホの子である。
アリスは、直情。イリスは、考えなし。エミリーは、ごくたまに、とんでもない勘違いをする。
エミリーの直感は、よく当たり、エミリーは自分の直感に絶対の自信を持っている。
なので、直感が本当に当たっているのかどうかという確認を怠る。
直感というものは、外れることがある。なのにエミリーは、外れているのに、直感を信じて突っ走る。その結果どうなるか……セインの例が、その結果のひとつである。
○
「今だから、気づくことが出来たよな」
イリスが言った。
それにエミリーが答える。
「セインとの冒険の旅は、近すぎて気付けなかったアベルへの愛に気づくための旅だったって……」
アリスが言った。
「アベルは、きっと、そこまで分かっててくれた。だから、温かく出迎えてくれたんだ……「ひとつ、賢くなったね……ホラ、旅は決して無駄ではなかっただろ?」って……」
イリスとエミリーが、笑って言った。
「「「いくらでも、失敗して来い。俺がついてるぞ」って、言ってくれたよね」」
それを聞いて、アリスが笑って言った。
「もう、セインみたいな失敗は二度としないけどさ」
アリスとイリスとエミリーが、大笑いした。
「「「もう、浮気なんて、ありえない!」」」
あたし達は、アベルへの愛に気づいた。あたし達は、アベルが好き!
もう、アベル以外の男なんて、見向きもしない、出来ない、アベル以外の男なんか男じゃない!
アベル以外の男なんて、カボチャか腐ったリンゴか道端に転がってる石ころだ!
○
「でも、これで、アゼル様の妻は、とうとう6人ですね」
美酒に酔って上機嫌で、ニコニコ顔のクレアが言った。
それを、申し訳なさそうに、シャルが否定した。
「いいえ……私が結婚したのは、側仕えのアベルです……アゼル男爵ではありません」
その言い回しに、キサラとクレアは、気づいた。
シャルは、アゼル男爵が、シャルとの結婚がバレることによって、政治的に窮地に立たされることを、防いでいるのだ。
アベルだったら、そうなっても、どうにかしそうだが、キサラとクレアは、シャルの気遣いが嬉しかった。
「「アゼル男爵の第6婦人の座は、永久欠番です」」
2人揃って、そう宣言した。
○
「で……シャル? アベルとの初夜は、どうだったの?」
エミリーの言葉に、キサラがクレアがアリスがイリスが、身を乗り出して言った。
「「「今回のパジャマパーティーの主旨はソレ!」」」
シャルはキサラ達の猛攻に、しどろもどろになって白状した。
シャルの赤裸々な告白に、キサラ達は内股でモジモジして身悶えた。
シャルの告白が終わると、キサラ達は真っ赤な顔で、お互いの意思を無言で確認し合った。
そして、キサラがアリスに、指示を飛ばす。
「アリス、やって!」
アリスが、杖を振り上げて、叫んだ。
「転移!」
アッー!
その夜、シャルの寝室にアベルの絶叫が響いたのだった。
○ 後日のパジャマパーティーで……
ふと、クレアが付け足すように聞いた。
「アリスとイリスとエミリーは、アゼル様のどこが好きですか?」
アリスが即答した。
「バカなところよ!」
「「「うわぁ……」」」
アリス以外の全員が呆れた。
「だって……アベルがバカじゃなかったら、あたしなんかに、見向きもしてくれないよぉ……」
アリスがメソメソと泣いた。
キサラが、アリスを抱き締めて、よしよしと慰めた。
「キ……キサラは、どうなの?」
クレアが、気まずくなって、話を逸らした。
キサラは、モジモジして、恥ずかしそうに言った。
「おかあさまに、似てるところ……」
「「「うわぁ……」」」
聞かない方が良かった?
「だって、アベルが、おかあさまみたいじゃなかったら、私なんか最初に見捨てられてたよぉ……」
アベルには、キサラを救う義理なんかなかったのだから。
キサラは、メソメソと泣いた。
「エ……エミリーは?」
クレアの声が上擦っている。
エミリーは、言いにくそうに言った。
「うじうじイジイジしてるとこ……」
「「「うわぁ……」」」
アベルって、最低じゃん。
「だってだって、アベルが、うじうじイジイジしてなかったら、あたしなんて、お払い箱じゃん!」
話し相手どころか、隣に立つことさえ出来ないよ!
エミリーも、メソメソと泣いた。
クレアが、でっかい冷や汗を流した。
「イ……イリスは、どうですか?!」
一縷の望みを託して、クレアが話を振った。
イリスが、モジモジして、恥ずかしそうに言った。
「お……男前なところ……」
クレアの顔が「これでもかっ」って程、輝いた。
「まともな答え来たー!」
両手を上げて歓声を上げる。
「だって、アベルが、俺より男前じゃなかったら、可愛がってもらえないよぉ……」
イリスまで、メソメソと泣き始めた。
場は混沌と化した。
「「「……で、クレアは?」」」
クレアは、胸を張って、ハッキリと言った。
「ダメなところです!」
「「「うわぁ……」」」
アベルって、ほんっとうに、最低じゃん。
「だってだって、アゼル様がダメじゃなかったら、私の助けなんか必要ないじゃないですか!」
クレアは……クレアは、役に立って、アゼル様に、いっぱい誉めて欲しいのです!
クレアまで、メソメソと泣き出した。
もう、どうしよう、この空気……。
「「「……シャル……助けて……」」」
キサラ達が、1人、静観していたシャルに助けを求めた。
シャルは、良い顔で、ハッキリと言った。
「シャルは、アベルの、嘘つきで意地悪で悪いところが、好きっ」
ふんっと、腕を組んで胸を反らし、何度も頷いた。
「「「うわぁ……」」」
どこまで最低なんだ、アベル!
「だって……アベルが、嘘ついて、意地悪して、悪いことしてくれなかったら、私……救われなかった……」
シャルも、メソメソと泣きだした。
もう、どうしようもない。
ぐだぐだと収拾がつかないまま、夜がふけていったのだった。
今日の、お酒は、悪いお酒だなぁ。みんなを、泣き上戸にしてる。
こういう日もある。
○ 閑話 アリスとイリスとエミリーの謝罪
「「「アベル、ごめんなさい」」」
アリスとイリスとエミリーが、アベルに深く頭を下げる。アベルは、戸惑った。
「ど……どうしたの? 3人とも……」
アリス達は、声を揃えて言った。
「「「セインに浮気して、ごめんなさい」」」
3人で相談して、素直に謝ろうという話しになったのだ。
「今さら、そんな昔の話しを持ち出すかぁ……」
どこか、ばつの悪そうなアベルが言った。
「アリスとイリスとエミリーが、そう言うなら、ボクも言わなきゃならないよ?」
アリスとイリスとエミリーは、首を傾げた。
アベルが、アリスとイリスとエミリーに、深く頭を下げて言った。
「キサラとクレアとシャルに浮気して、ごめんなさい」
アリス達は「あっ」と声をあげた。
アリス達の道理が通るなら、アベルの道理も通ってしまうことに気がついたのだ。
アベルが焦って、言い訳をした。
「でも、言い訳はさせてっ。シャルのことはともかく、キサラとクレアに出会ったあの頃は、ボクは、アリスとイリスとエミリーが好きだってことに気付いてなかったんだっ。アリス達が、冒険から帰って来て初めて、アリスとイリスとエミリーが好きだって気付いたんだっ」
アリスが、呆然として言った。
「あたし達と同じだ……あたし達って、お互い様だったんだ……」
イリスが、ため息と共に言った。
「なぁ……この話しは、もう、やめにしないか?」
エミリーが、頷きながら言った。
「うん……実りがないよね……」
アベルが言った。
「じゃあ、最後にひとつだけ……アリスとイリスとエミリーは、一方的に自分達が悪いと思ってるみたいだけど、それは違うからね? 夫婦なんだからさ、一緒に責任を持とう?」
具体的には、一緒に子供達を、幸せにしよう?
アリスとイリスとエミリーは、納得した。
「うん……あたし達って、似た者夫婦だもんね……」
「でも、俺達って……つくづくバカだよなぁ……」
「うん……もう、呆れて言葉も出ないよ……」
近付き過ぎると見えないものだけど、あんまりだ。
「いっぱい失敗して、いっぱい反省して、いっぱい学んで、夫婦で一緒に賢くなって行こう?」
アベルの慰めが身に染みた、アリスとイリスとエミリーだった。
「ねぇ、アリス、イリス、エミリー?」
ふいに言ったアベルの声に、アリス達は振り返った。
アベルが笑顔で言った。
「ビーナとタニアとレオナを、大切にしてくれて、ありがとう」
アリスとイリスとエミリーは、ハッとした。
つまり、そういうことだ。
アリス達は、声を揃えて言った。
「「「こちらこそ、カレラとオードリーとウェンディを愛してくれて、ありがとう」」」
アベルは、爽快に笑って言った。
「当然だよ。だって、カレラとオードリーとウェンディは、誰がなんて言っても、ボクの子供だもん」
アリスは……イリスはエミリーは思った。
あぁ……あたし達って、似た者夫婦だ……。
アリス達は、競い合うように言った。
「「「ビーナとタニアとレオナだって、あたし達の子供だもんっ」」」
アリスは……イリスはエミリーは、アベルと一緒に明るく笑い合った。
あたし達って、似た者夫婦。
アリス達は、その幸せを噛み締めたのだった。
隙は好きに通じる。モテモテのアベルは、隙だらけです。
もうそろそろ、冒険に行かせてあげないとなぁ……。
2020年11月11日 閑話 アリスとイリスとエミリーの謝罪を追記しました。
2020年11月12日 ビーナとタニアの名前を追記しました。……ビーナ、タニア、ごめん。
2020年11月13日 誤字修正しました。




