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117 閑話 新人冒険者ロッテ

○ 110 天使と悪魔と契約の後の話です。


 馬車が3台、森の街道を行く。


 それを冒険者が30人ほど護衛について歩いていた。


 まるで躾のされていない野犬のように粗野な冒険者達を率いるのは、Aランク冒険者パーティー『風の牙』……歌姫リンメイの元冒険者仲間達である。


 リーダーの剣士ジーン、斥候のリラ、ドワーフの戦士ゴルバド、魔法使いのナタリー……いつものメンバー……そこに、テイムされた魔獣……魔兎を連れた地味な……ふとすると居ることさえ忘れてしまいそうな地味で目立たない女の子がついて歩いていた。


 ドワーフの戦士ゴルバドが、女の子に話しかける。


「しかし、お前さんも……Sランク冒険者パーティー『精霊王の妻達』に加わるような実力者なのに、えらいのぉ」


 そこに斥候のリラが割り込んだ。


「村人の護衛任務は、冒険者の基本中の基本。新人研修に、この任務を選ぶなんて、さすがよね、分かってるぅ」


 そこで、言いにくそうに……申し訳なさそうに、リーダーの剣士ジーンが聞いた。


「ところで……名前、なんて言ったかな?」


 魔法使いのナタリーが注意した。


「ジーン! 失礼よ、名前を忘れるなんて……って、私も忘れちゃってる……」


 不思議と、何度聞いても覚えられないのだ。


 地味な女の子が小さく言った。


「私の名前は、ロッテ……」


 まるで、自分自身に言い聞かせるような声だった。



 魔王が復活し、魔物が活性化した世界で、それでも城塞都市以外で、生活を守る村や町があった。


 その理由は柵や壁など、防御が厚かったり、村人の戦闘レベルが高かったり色々だが、村や町だけで、生活が完結している訳ではない。


 どうしても村や町だけでは、補充出来ない生活必需品等があり、それを手に入れるために、都市に行く必要があったのだ。


 村の特産品を都市で売って現金を手に入れ、替わりに生活必需品を買って帰る。


 その道程の護衛に冒険者を雇うのが常であった。


 飛空船での空路を使った物流はエルフの国とラプアシアが、馬車を使った地上の物流は冒険者ギルドが握っている。


 飛空船は、主に都市間を行き来するので、当然、村や町の物流は冒険者ギルドに頼ることになるのだ。



 道程に、魔物が頻繁に襲ってくるが、腕っぷしの強い冒険者達によって、排除される。


 冒険者とは、モラルの低い、乱暴者の集まりばかりと言って過言でない。


 規律を守れる者は、兵士になるからだ。


 兵士の規律を守れるほど自制心がなく、犯罪者になるほど自制心がない訳ではない。


 自制心が……理性が強すぎると本音が聞こえず自分の人生を見失うが、自制心がなく本音ばかりだと、協調性を失い社会から外れる。


 冒険者とは、理性なき本音ばかりの、社会のはみ出し者である。


 魔物に乱暴を働いて殺し、素材を剥いで金にし、生活費……酒と博打と女に消える。


 一握りの英雄と呼ばれる冒険者達以外は、そんなものだ。


 ありていに言えば、多くの冒険者達は、我が儘(わがまま)である。我慢の出来ない我が儘な、大きくなっても大人になれない子供。


 冒険者の名誉のために言っておくと、これは風評被害の側面もある。悪い奴らは目立つのだ。それによって、冒険者のイメージが悪くなっている。


 自分の力で、村人の生活を守ることに誇りを持っている冒険者達も居るのだ。


 地味で目立たないが、彼らは村人達のヒーロー(英雄)である。



 夜の帳が降りる。


 その前に、街道筋にある頑強な柵に守られた村に入る。


 村の広場を夜営地に借りる賃量に、貴重な魔法のカバンや、魔法使い達の収納魔法で持ち帰った、倒した魔物から肉を解体して振る舞う。


 魔物肉は旨い。


 村人の貴重なたんぱく源である。


 普通の魔法のカバンや、魔法使い達の収納魔法は時間経過があるので日持ちはしないが。


 時間停止魔法が使えるのは、天界(ハイ)エルフくらいである。


 余った肉は急いで燻製小屋に持ち込まれて、保存の処理……燻製肉や干し肉にされる。



 食事が終わると、男性冒険者達は、広場でマントにくるまって地面で寝る。


 女性冒険者達は、村人の家に泊まらせてもらう。


 ロッテも、研修指導員でもあるリラとナタリーと共に、村人の家のひとつに入る。


 その入り口で、ふと、夜の闇に振り返った。


 しばし、闇を睨み……リラに呼ばれて家に入って行った。



 夜の闇に紛れて、魔王軍の幹部が、1部隊を引き連れて、ロッテ達が夜営する村に接近していた。


 人は魔物を倒すと、レベルが上がる。人として、より高次な存在になっていくのだ。


 では、魔物は?


 魔物は人を殺すと、より高次な存在になっていくのである。


 魔王軍の幹部が、少数のたった1部隊で人界の奥深くまで来たのは、自分だけが、より高次な存在になるためだ。


 村の柵を遠目に見えて、ほくそ笑む。


 その視線を遮って、1人の女の子が立ちはだかった。


 ふとすると居ることさえ忘れてしまいそうな地味な女の子だ。1匹の魔兎を従えている。


 幹部は、せせら笑った。


 たった1人と、たった1匹の魔兎でなにが出来る。


 その時、幹部は、まばたきをした。


 ん?


 幹部は、首をかしげた。


 魔兎が魔狼に変わっていたのだ。


 思わず目を擦った。


 魔狼が魔熊に変わっていた。


「なにをした!?」


 地味女に叫ぶ。


 視線を魔熊に戻すと、魔熊は牛さえひと飲みにしそうな、巨大な魔大蛇に変わっていた。


 幹部は、気味が悪くなり、巨大な火炎球を投げつけた。


 炎が消え煙が晴れると、そこには魔大蛇ではなく、魔竜が無傷で鎮座していた。


 幹部は、度肝を抜かされて、混乱に叫んだ。


「いったい、なんだ、ソイツはーっ!」


 魔王の幹部であるのに、このような魔物が存在するなど知らなかったのだ。


 地味女……ロッテは、魔物の正体を呟いた。


「不確定……」


 幹部の叫びに呼応して、部隊が一斉に魔竜に突撃した。


 部隊を犠牲にして、魔竜を倒した幹部が、血走った目で、ロッテに振り向く。


 その時、幹部は、魔竜から目を離してしまった。


 ロッテが魔竜を指差した。


 幹部が思わず魔竜を見ると、そこに魔竜の姿はなく、代わりに地面に冥府に続く穴が開き、亡者の群れが溢れだした。


 幹部は、正気を失くしたように叫び、無茶苦茶に亡者たちを凪払う。


 その幹部の頭を冥府の王が鷲掴みにした。


 不確定は、魔物である。


 しかし、なんの魔物であるのか、決まっていない。


 あえて言おう……不確定であることが正体なのだ。


 見るたびに、その正体は、変わる。


 正体を見極めたと思った瞬間に、次の正体に変態している。


 ……変わり続ける。


 不確定を倒したければ、目を逸らしてはいけない。


 (まばた)きもしてはいけない。


 完全に消滅するまで、瞬きもせず、見ていなくてはいけないのだ。


 殺しても、細胞のひと欠片さえ……血の一滴……塵の一粒でも残っていれば、目を逸らす度に、変態し生き返る。


 冥府の王は、幹部の頭を掴んだまま、冥府に帰って行く。


 幹部を飲み込んで、穴は塞がった。


 そこには、何事もなかったかのように、魔兎が、前足を上げて、立っていた。


 ロッテは……Sランク冒険者パーティー『精霊王の妻達』の新メンバー……シャルロットは、魔兎を抱いて村に戻った。そして、リラとナタリーの眠るベッドに潜り込んで、愛する夫の肌の温もりを想って眠りに就くのだった。



 何事もなく、朝が来た。


 冒険者達は、村人を乗せた馬車を守って都市を目指す……魔兎を抱いて、リラとナタリーと談笑して歩くロッテと共に。

 ありていに言う言葉って……ありふれた言葉って……みんながよく使う言葉って、自分以外の誰かが意味を込めた言葉なんだよね。つまり、自分の魂は込もっていない。だから、ありていの言葉を使いたくないんだよなぁ。

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