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114 閑話 サキュバスの日常

○ カチュアがサキュバスになった時の話です。


「これは支度金です」


 シャルロット様の奇跡で魔物……淫魔サキュバスに生まれ変わったあたい……カチュアに、玉座に座ったシャルロット様の指示で、私と同じ……サキュバスの1人が、小袋を手渡してくれる。


 中には、数えるのが苦労するくらいの量の銀貨が入っていた。


 ……金貨も数枚、入っている……。


 これ……贅沢さえしなければ、3年は生活出来るよね……?


 あたいは、畏れに青ざめた。


「ネル」


 シャルロット様の命が下り、立ち並ぶサキュバス達の列から1人、あたいの前に進み出た。


「世話係に命ずる。慣れるまで、一緒に行動するように」


「うけたまわりました」


 ネルと呼ばれたサキュバスが、うやうやしく礼をする。


 あたいはネルと共に、謁見の間を辞した。


 部屋を出た途端、膝から体重を支える力が尽きて、床にへたり込む。


 緊張が半端ない。


 こんな緊張は、たとえ人界の王様を前にしても……さらには魔王を前にしてもないだろう。


 ……まるで、神様を前にしているみたい。


 それは、先輩サキュバスであるネルも同じだったみたい……あたいと同じように、へたり込んでいる。


「シャルロット様は、あたし達の創造神様だからね」


 ネル先輩が言った。


 納得した。



 あたいは、驚愕した。


 竜が、群れを成して闊歩する世界の中にある館……そこの離れの寄宿舎に連れてこられたのだ。


 ……怖かった!


 いくらサキュバスでも、命がいくつあっても足りないよ!


 ネル先輩は「ここは安全だから」と言っていたが、安心なんか出来るか!


「まず、お風呂にする? それともご飯?」


 あたいの苦情を完全にスルーして、ネル先輩が新婚みたいなことを言った。


 ……って、お風呂?!


「ここ……地底大河の別荘には、温泉っていう天然のお風呂があるのよ……行ってみる?」


 あたいは、1も2もなく頷いた。


 お風呂なんて贅沢なもの、そうそう入れるものじゃない。


 ネル先輩の案内で、露天のお風呂に来た。


 そこは、世界の縮図だった。


 いくつものお風呂が、世界各地の特色で色分けされた、お風呂の天国だった。


 あたいは、おおはしゃぎで、ネル先輩と、お風呂のハシゴをして、温泉を満喫した。


 風呂上がりに、フルーツ味のミルクを飲んで、背もたれがリクライニングする椅子で休む。


 休憩を終えると、立派な食堂に連れて来られ、花畑で花が咲き誇るような、広いテーブルの上いっぱいに美しい料理が提供される。


 えっ、なに? あたい、今日、死ぬの?


 あたいは、ネル先輩に真意を視線で問い質した。


「シャルロット様は美食家で、家来であるあたし達にも、美食に慣れておかないと許さないって言って……」


 仕事のひとつだと思って欲しいっす。


 ネル先輩が「仕方がないのよ」と言って、苦笑いした。


 あたいは、戸惑いながら、料理に手をつけ……気がつけば夢中で料理を食べていた。


 なに、これ、美味しい! こんなに美味しい料理、食べたことない!



 まるで、王公貴族のような食事が終わると、館の一室で、悪魔のメイドから礼儀作法や教養の勉強……指導を受ける。


 勉強の前に、お菓子をもらい、知恵の魔法の加護を刻んだペンダントをしているので、苦痛がない。すんなりと知識が頭に入って来る。


 あたいは、知識欲の虜になって、夢中で勉強した。


 これ……自慰より快感かも……。



 勉強が終わると自由時間。


 ネル先輩が、生活用品や衣服を買うために、領都アゼリアの商店街に連れて行ってくれた。


 あたいは、ショッピングの楽しさに夢中になった。


 可愛い小物に頬を緩め、綺麗な服に夢中になった。


 事件は、ある服屋で起きた。


「あんたら……ひょっとして『夜廻り』かい?」


 店主の女将さんが、声を潜めて耳打ちする。


 夜廻りは、アゼリアでサキュバスの隠語だ。


「内緒ですよ? こっちが新入りで、その支度っす」


 ネル先輩が、小声で耳打ちする。


「夜廻りに金は取れないよ! タダで受け取っておくれ!」


 女将さんが、感謝の笑顔で、あたい達に、そう言ってくれる。


 あたいは、無料で、大量の服を持たされた。


「あらら、お金が浮いちゃったっすね……カフェに行くっす!」


 ネル先輩が、あたいの手を引いて、お洒落なカフェに連れて行ってくれた。


 まるで、心が虜になるような、とろけるように甘い、豪華で上品な甘味を、お腹いっぱい食べてしまった。


 大満足で、寄宿舎に帰って寝て、起きると仕事だ。


 夜のアゼリアを徘徊し、性犯罪者には、二度とアゼリアには来たくなくなる苛烈な淫靡な夢を……性の捌け口がなくて苦しむ者には、甘い……愛しく優しい淫靡な夢を見せる。


 最も……淫靡なのは夢だけ。


 自分自身の体は、まったく汚さなくていい。


 あたいは、喜んだ。


 もう、好きでもない男に抱かれなくていいのだ。


 やったー!


 諸手を上げて、喜んだ。


 そんな、極楽のようで、やりがいのある仕事をする、充実した生活が続いた。



 今宵も、悪質な性犯罪者を、淫靡な夢に沈める。


 今夜のターゲットは、態度の悪い冒険者達だ。


 満足して、路地を出た時、声がした。


「カーチャ……?」


 あたいを愛称で呼ぶ、懐かしい声がした。


「カーチャ! カーチャだろ!? 良かった……生きてたんだ!」


 振り返ると、そこには……。

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