108 閑話 魔王の子の誕生
○ シャル視点。
魔王との間に出来た子供が産まれた。
脳が蕩けそうになるほど可愛い女の子で、アベルと相談して決めていた名前……レオナと名付けた。
少し落ち着いたある日、アベルからお願いがされた。
「私とは、子供は作らないで欲しいのです」
一瞬、破局を恐れたが、目を見て完全に否定した。
これほど、愛に深い瞳を、私は知らない。
よほどの理由があると思い、聞いた。
「嘘をついても詮なきことと存じますゆえ、正直に申し上げます。私は、レオナ様が好きです。……ですが、申し訳ございません。自分の血を引いた子供の方が好きなのです。私とシャルロット様の間に子供が産まれると、私は、その子ばかりになって、きっと、レオナ様を愛さなくなります。それだけはしたくないのです」
嘘だ。
一掴みの真実を加味しているから、信じそうになるが、アベルの言葉には嘘がある。
私は、アベルの言葉にある嘘を、一瞬で見抜いた。
王族ほど、嘘に慣れ親しんだ一族もいない。
アベルほど、愛に深い男が、妻の子供を愛さないなど、考えることすら出来ない。
初めは、わだかまりもあるでしょう……でも、愛が深く強くなることはあっても、溝が深くなり愛情が薄れるなど、ありえないとしか思えないのだ。
だから、アベルの言葉は嘘である。
では、なぜ、アベルは嘘をついたのか……。
それは、きっと、母親である私……シャルロットから、レオナを守るためでしょう。
愛情のカケラもない、人類の敵である魔王との間に出来た子供と、誰よりも愛する夫との間に出来た子供の、どちらが好きか? どちらが大切か?
その答えは、誰でも知っているでしょう。
レオナが、母親の愛を、その一身に受けて、育つため、アベルは「自分が愛せなくなるから」と、嘘を言ったのだ。
レオナのために……。
レオナが、愛情に溢れる人生を歩めるように……。
愛を知らずに育ち、人の道を誤らないように。
そして、私のために。
大きさに違いがあっても、確かに私は、レオナを愛しているのだから。
アベルは、私がレオナを愛さなくなる理由を、なくしたのだ。
私に、悪い行いをさせないように……。
アベルは、妻と子を悪にしてしまわないために「悪いのは俺だ。文句があるなら俺に言え」と言ったのだ。
私の頬に、温かな涙が伝った。
アベルは……こんなに、私とレオナを……私の子供を大切にしてくれる。
「なぜ、そこまでしてくれるの……?」
私は聞いた。
アベルは、答えた。
「私は、シャルロット様の夫であると同時に、レオナ様の父親になりたいのです」
私を、レオナ様の父親にしてください。
そう言って、アベルは、深く頭を下げた。
「許します……レオナの父親になりなさい」
王女の言葉で、私は言った。
……言葉とは裏腹に……海よりも深い感謝の気持ちと、アベルに向かって溢れる愛の洪水に、溺れそうだった。
こんなに素敵な人が父親になってくれるなら……私を支えてくれるなら……たとえ魔王の子供だって、立派な人に育てることが出来る。
こんな人だから、私は、この人に、全てを捧げたいと、身が切れるほど、強く想うのだ。
でも、その前に、言わなくてはいけないことがある。
私は、頬をリスのように膨らませて、拗ねて言った。
「シャルって……呼んでくれなきゃイヤ……」
どちらが上か……ハッキリさせなくちゃいけないようですね……。
アベルは、私のことを尊いと言ってくれますが、私にとって、アベルほど、尊い人は居ないのだから。
2020年10月26日 アベルのセリフに追記しました。




