105 閑話 ラプアシアの淫らな夜
○ シャルと結婚した後、シャルが身籠った魔王の子供が産まれ、落ち着いた頃の話です。
ラプアシアには、様々な職業があるが、ラプアシアには存在しない職業もある。
まず、奴隷。
ラプアシアには、労働力が豊富にある。
まず、領民が全員働き者である。
その上、精霊に聖霊、エルフの国から借りている自動人形まで、労働力には事欠かないのだ。
もちろん、奴隷には労働力以外の需要もある。が、領主であるアゼルが、奴隷制度を蛇蝎のごとく嫌っていて、ラプアシアに導入しようとしなかったのだ。
そんな理由で、ラプアシアには、奴隷がいない。
次に、娼婦である。
ラプアシアでは、娼婦に身を落とさなくても生活が出来るのである。
また、領民の笑顔こそ至高と考える領主であるアゼルが、娼婦に身を落とそうとする女性の事情を、あらゆる手段で解決する。
そんな訳で、一部の者から要望もあるのだが、ラプアシアには娼婦はいない。
その要望のある一部の者が、酒場で愚痴っていた。
酒場の中央を占拠した、態度の悪い冒険者の1団だ。
「ラプアシアは、やっぱり、メシが旨い!」
「でもよう……やっぱ、メシの後は女だよなぁ」
「まったくだ! アゼルの野郎は、そこんところが、分かっちゃいねぇ!」
そこで男共は、息を潜めて、顔を近づけた。
「よう……今夜あたり、兎を狩りに行かないか?」
兎狩りとは、彼らの隠語で、女を集団で襲って強姦することである。
「おいおい……女を抱きたきゃ、ラプアシア以外の領地に行けばいいじゃないか」
ラプアシア以外の領地では、食糧難で生活が困窮し、娼婦に身を落とす女性が増えている。金さえ出せば、女に不自由はしないのだ。
「でもよう……やっぱ、ラプアシアの女は、別格だろう」
ラプアシアの女性は、清潔で健康で笑顔が明るい。ゆえに、美人が多いと評判なのだ。
「……やるか?」
「「「やろうぜ!」」」
男共は、声を合わせ、下卑た笑いを上げる。
酒場の片隅にある影の中に、闇が潜んで聞き耳を立てていることを知らずに……。
○
夜の闇に紛れて、都アゼリアの路地を男共が行く。
やがて、男共は、憐れな犠牲者を見つけて、後をつける。
ふと……犠牲者が人気のない路地に入った。
男共は、喜びの声を殺して、押し入る。
路地の奥。
そこで、犠牲者の女は、男共を待ち構えていた。
その不自然さに気づかず、男共は、舌舐めずりをして、女に迫る。
女は、顔を隠していたフードを取った。
そこには、赤く……妖しく輝く目があった。
その目を見た男共は、急に眠気に襲われた。
人気のない路地で、次々に眠りに落ちる男共。
それを見下ろして、女は、妖艶に笑った。
○
男共は、夢の中で、無数の痴女に襲われていた。
初めは喜んでいたが「やめてくれ」と言っても、次々に集団で性交を強要される。
精液は血が出るまで搾り取られ、男共は、搾り滓のようになって、路地に転がった。
○
朝が来て、路地から、げっそりと痩せ細った男共が、這いずって出てくる。
なんとか宿に戻り、食事をして、眠ると、次の日には、ラプアシアを、逃げるように出ていった。
○
隠れ里アムリアの海岸別荘の大広間で、主であるシャルロットに、赤い目をした幾人もの女性が、かしずいていた。
女性達の正体は、魔物……淫魔サキュバスである。
「性犯罪者の匂いのする冒険者の一団に、淫夢を見せて追い払いました」
サキュバスの代表であるサキュバスクイーンが、恐れながら報告する。
「ご苦労でした。褒美に魔力を授けます」
魔王など及びもつかない、濃密で甘美な魔力が、クイーンとサキュバス達に下賜される。
クイーンとサキュバス達は、あまりの快感にエクスタシーに達し、恍惚の表情で気絶した。
サキュバス達とクイーンは、目を覚ますと、シャルロットに礼をして、街の影に潜むために戻って行く。
いや……1人だけ残っていた。
残っていたサキュバスが、シャルロットに、恐れながら、願いを言った。
「好きな人が出来ました……人間の男です。添い遂げたく存じます……」
シャルロットは、そのサキュバスの覚悟を確認した。
「あなたは、愛の女神の半神と、美の女神の半神の奇跡で、なんの力もない弱い人間になりますよ? それで、あなたと相手は幸せになれますか? 笑顔で生きていけますか?」
サキュバスは、真っ直ぐにシャルロットを見つめて、強い心で誓った。
「幸せになってみせます!」
シャルロットは、慈愛に目を細めた。
そして、我が子に語りかけるように、優しく言った。
「後ろに、私達が居ますからね? 失敗を恐れず、とにかくやってみなさい」
サキュバスは、目に嬉しさで涙を浮かべて頷いた。
シャルロットは、側仕えを呼んだ。
シャルロットの……自分の子供を愛おしそうに抱いた側仕えが、事情を聞いて手配した。
実行は次の日になったが、サキュバスは、無事に、人間になった。
そして、周囲に助けられて、幸せな家庭を築いていったという。




