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101 閑話 シャルに書かされた……

○ 100 人形姫の直後の話です。


 悪い魔王から、お姫さまを助け出した。


 めでたしめでたし


 おしまい



 ……というのは、物語の中だけの話で、現実には、その先が、必ずある。


 生活能力のない、お姫さまが、お世話をする者もなしに放逐などされれば、それは死刑執行と同義だ。


 魔王から救出され、王家にも戻れない身重のお姫さまには、お世話をする者が不可欠である。


 で……それは誰がするのか?


 それは、責任者である。


 ここで、責任者とは誰か?


 それは、私……シャルロット王女の側仕えアベルである。


「「「アベル? ちゃんと責任取りなさいよ?」」」


 妻達全員が声を合わせる。


「はいっ、きっちり、責任を取ります」


 妻達は、夫であるアベルよりも、友達であるシャルロットの味方である。


 ……少し寂しい。けど、なぜか、寂しさよりも嬉しさが大きいのは、なぜだろう?



 少しでも、シャルロット様に親しみのある場所ということで、隠れ里アムリアの海岸別荘に住んでもらうことにした。


 妊娠中の過敏なシャルロット様を、刺激しないように、面識のある私……側仕えのアベルが、身の回りのお世話をする。


 それだけでは、身重のシャルロット様をカバーしきれないので、ベテランの子守りメイド……家政(火星)婦のマーサさんに、数人、来てもらった。


 マーサさんとシャルロット様を、顔合わせすると、シャルロット様が、驚きの表情で、ポツリと呟いた。


「綺麗な人……」


 ……どこが?


「チュルチュルチュル(アベル様、今、大変失礼なことを考えませんでしたか?)」


「……気のせいです」



 王家の戒律が行動基準だったシャルロット様は、王家から解放されて、どう生きればいいのか分からなくなってしまわれました。


 そこで、私は……。


「シャルロット様、今すぐに、シャルロット様がしなくてはならないことがありますよろしいですか?」


 シャルロット様は、素直に、コクりと小さく頷く。


「なにもしないことです」


 私の言葉に、シャルロット様は、疑問符を頭上に浮かべ、小首を傾げた。


 ……かっ、可愛い!


「なにもしないでいると、なにかをしたくてしょうがなくなります。そのしたいことを紙に書いてリストにして下さい。その中から、選んで、シャルロット様の、本当にやりたいことを見つけましょう」


 シャルロット様は、瞳に少しだけ、不安を映した。


 私は、出来るだけ優しく微笑んで、ゆっくり丁寧に語りかけました。


「大丈夫です、私が一緒ですよ」


 シャルロット様の瞳の、明るい色彩が輝いた。


 でも、すぐに、不安で瞳を曇らせて、小さく言った。


「……ずっと?」


 私は、その場にかしずいて、真心を込めて言った。


「はい……私は、命の大切さを知る尊きあなた様をお世話する側仕えであり、ずっと……一生、あなたを守る騎士でもあります」


 そう言って、(うやうや)しく、朱色のビロードに乗せた指輪を捧げる。


 ユーフォリアにおいて、守護騎士が王女に捧げる誓いの指輪だ。


 シャルロット様は、瞳を喜びに輝かせ、驚きの行動に出た。


 指輪を左手の薬指にはめたのだ。


「ちょっ、シャルロット様、違います! そこは結婚指輪をはめる指ですよ」


 そもそも、用意した指輪は、約束の指……小指用のサイズだったハズだ。


 こんなことをするのは……。


 私は、気配をたどって入り口に振り返った。


 入り口のドアに隙間を作って、トーテムポールのように覗き込む妻達がいた。


 私のジト目に気付いて、慌てて逃げようとして、逆に室内に雪崩れ込む。


 私を見上げて、誤魔化し笑いをして、逆に開き直って、妻達がシャルロット様を抱擁する。


「「「おめでとー! シャル、末長くお幸せに!」」」


 えぇー! 結婚じゃないんだから。


 ……違うよね?


 あっ、それより、アレ、言っとかなきゃ。


「シャルロット様、その指輪には、ある(まじな)いが込められています」


 シャルロット様が、こてんと小首を傾げる。


 うわぁ……凶悪なくらい可愛い。


「うおっほん! えっと……シャルロット様には、男を性的に誘惑し狂わせる、強力なオーラが、常時、出ております」


 シャルロット様が、驚きに目を見開いた。


「その指輪には、精霊の加護を付与しており、その指輪を受け取ることにより、その加護が、シャルロット様の魂に刻まれ、オーラを男性に伝えなくなります」


 シャルロット様が、期待に瞳を輝かせて、私を見る。


「これからは、普通の女の子の人生が送れますよ」


 シャルロット様は、突然、泣き出した。


 ビックリしてオロオロする私を、妻達が叱った。


「あーあ、アベル、女の子泣かせちゃダメじゃんか」


「そうよ! 妊娠中は、ちょっとしたことで不安になるものよ?」


「ちょっと! ボーッとしてないで抱き締めなさいよっ」


「アゼル様? シャルは不安なのです」


「アベル、あなた、男でしょう?!」


 戸惑う私の服の裾を、シャルロット様が、すがり付くように掴んだ。


 私は、それで覚悟を決めて、お腹の赤ちゃんを苦しめないように、出来るだけ優しく、包み込むように抱き締めた。


 シャルロット様は、私の胸で、小さな女の子のように、泣きじゃくった。


「いっぱい、泣いていいからね……もう、泣いてもいいんですよ」


 シャルロット様は、今まで溜め込んでいた悲しみ、苦しみの全てを吐き出すように、大きく泣き出した。


 妻達も、シャルロット様を抱き締めた。


 全員で、シャルロット様を、優しさで包み込んだ。


○ シャルロットサイド


 魔王から……それどころか、王家からも解放されて、私は、椅子に座って呆けていた。


 私を、私の外から強制的に支配していた力の全てが霧散した。


 そして、私は、生き方を見失った。


 まるで、捨てられた子犬……。


 でも、なのに、この心の温かさはなに?


 ふと、見ると、側仕えのアベルが、かしずいて、私の手を、両手で包み込むように重ねていた。


 目は、真っ直ぐに、私の目を見ている。


 大丈夫ですよ。ホラ、私がここにいますから。私は、どこにも行きません。ずっと、一緒ですよ。


 目が、そう言っていた。


 男の人の手は、いつも、嫌がる私を逃がさないように、力任せに掴むものだった。


 アベルの手は、私の胸も腰も掴まず、ただ、包み込むように、手に触れている。


 手から、心の芯まで温めるぬくもりが、優しさとともに伝わる。


 アベルの目は、私の胸や臀部ではなく、私の瞳を見ている。


 ……私……初めて、男の人に、見てもらえた。


 そんな気がした。



 住居として、いつもの海岸の屋敷が与えられた。


 また、ベテランの子守りメイドが数人つけられた。妊娠期間の補助、出産から育児まで完璧にサポートして下さるとのことだった。


 私など、足元にも及ばない美しい女性だ。


 この屋敷で、私のすることは、なにもない。


 それによって、どこか、私が不要な存在であるかのような気持ちになると、側仕えであるアベルが、私に紙とペンを渡して言った。


「なにもしないことです。そうすれば、その内、なにかをしたくて仕方がなくなります。その、したいことを、この紙に書いてリストにして下さい。その中から、シャルロット様が、本当にしたいことを見つけましょう」


 私に、自分のしたいことを見つけるなんて、出来るの?


 少し不安になった時、アベルが言ってくれた。


「大丈夫です、私が一緒ですよ」


 その言葉で、なにか追い詰められるような、危機感が消えた。


 でも、もう1つ、欲しかった。


 私は、求めた。


「……ずっと?」


 アベルは、その場にかしずいて、私の本当に欲しかった言葉をくれた。


「はい……私は、命の大切さを知る尊きあなた様をお世話する側仕えであり、ずっと……一生、あなたを守る騎士でもあります」


 そう言って、(うやうや)しく、朱色のビロードに乗せた指輪を差し出してくれた。


 それは、ユーフォリアにおいて、守護騎士が王女に捧げる誓いの指輪だ。


 無上の喜びに、受け取る指が震えていた。


 私は、迷わず、指輪を左手の薬指にはめた。


「ちょっ、シャルロット様、違います! そこは結婚指輪をはめる指ですよ」


 知っている。


 でも、ここにはめれば、アベル以外の男が、寄ってこなくなると思ったのだ。


 お願い、アベル……私を守って。


 もう、あなた以外の誰にも、抱かれたくないの!


 その時、室内に友達のキサラ達が雪崩れ込んで来た。


 ひょっとして……ずっと、見てた?


 キサラ達は、誤魔化し笑いをして、開き直って、私を抱擁する。


「「「おめでとー! シャル、末長くお幸せに!」」」


 それは、まるで結婚の祝福だった。


「シャルロット様、その指輪には、ある(まじな)いが込められています」


 アベルの言葉に、私は、こてんと小首を傾げる。


 なぜか、アベルが、顔を赤くした。


「うおっほん! えっと……シャルロット様には、男を性的に誘惑し狂わせてしまう、強力なオーラが、常時、出ております」


 私は、驚きに目を見開いた。


 そんな……じゃあ、私は……。


「その指輪には、精霊の加護を付与しており、その指輪を受け取ることにより、その加護が、シャルロット様の魂に刻まれ、オーラを男性に伝えなくなります」


 私は、期待に瞳を輝かせて、アベルを見る。


「これからは、普通の女の子の人生が送れますよ」


 私は、どうしていいか分からないくらい喜びに震え、泣き出した。


 もう、男性に怯えて生きなくていいんだ。


 オロオロするアベルを、キサラ達が叱った。


「あーあ、アベル、女の子泣かせちゃダメじゃんか」


「そうよ! 妊娠中は、ちょっとしたことで不安になるものよ?」


「ちょっと! ボーッとしてないで抱き締めなさいよっ」


「アゼル様? シャルは不安なのです」


「アベル、あなた、男でしょう?!」


 私は、戸惑うアベルの服の裾を、すがり付くように掴んだ。


 助けを求めた。心が折れそうだった。


 アベルは、そんな私を、優しく、包み込むように抱き締めてくれた。


 私は、アベルの胸で、小さな女の子のように、泣きじゃくった。


「いっぱい、泣いていいからね……もう、泣いてもいいんですよ」


 私は、今まで溜め込んでいた悲しみ、苦しみの全てを吐き出すように、大きく泣き出した。


 アベルは、私の苦しみも悲しみも、全て、受け取って抱き締めてくれた。


 ……アベルって、大きい。


 キサラ達も、私を抱き締めてくれた。


 全員で、私を、優しさで包み込んでくれた。


 あぁ……生きてて良かった。


 心の底から、そう思った。


 泣き止んで、顔を上げた時、アベルがキサラ達に睨まれて、私の前に押し出された。


 私は、小首を傾げた。


 アベルは、どこか観念したような表情を作って、それから、真剣な眼差しで私を見た。


 そして、言った。


「今さらかもしれませんが、聞いて下さい」


「私が、シャルロット様に近づいた理由は、家族であり恋人である大切なアリスとイリスとエミリーの命を、シャルロット様が助けて下さったからです」


「命には命を……そう思い、私はあなた様の命を救いたい……そう思いました」


「でも、いざ、シャルロット様を、お救いして、気づいたのです」


「命を救うだけではダメだと」


「命を救った後も、守り、養い……幸せにしなくてはならないと……」


 アベルが、私の手を包み込むように、握った。


「私は、あなたを……あなたと、あなたの子供を守りたい」


「一生、守りたいのです」


「それが出来なければ、私は男ではいられません」


 アベルは、言葉が私の心に入るのを待った。


 私の心の準備が出来てから、アベルは告白した。


「シャルロット様……好きです」


「結婚して下さい。一生、あなたと子供を守ります。私を男にして下さい」


 私は、どうしていいのか分からなかった。


 心が、千々に千切れて、なにも分からなくなってしまった。


 でも……。


 この頬に止めどなく流れる温かな涙は、なんなのだろう。


 言葉もなく、涙を流す私に、アベルが意地悪を言った。


「お返事は、シャルロット様の、左手の薬指についている指輪がして下さっている……それでよろしいですか?」


 私は、息を飲んで、自分の左手の薬指を見た。


 そこに指輪をはめたのは、紛れもなく自分自身だった。


 私は、もうすでに、プロポーズを受け取っていたのだ。


 私は、消えそうな小さな声で言った。


「シャルって……呼んで……」


 アベルは、優しく……温かく微笑んで、私の名前を呼んでくれた。


 私から、なにも奪わない……逆に温かな心を与えてくれる……私の心をポカポカにしてくれる声で呼んだ。


「……シャル」


 私は、震える声で答えた。


「私なんかで、よければ……」


「なんかなんかじゃ全然ないよ。シャルは、命の大切さを知る尊い人だ」

 夢にシャルが出てきて「後日談を書け、さもないと家のリビングの床を剥ぐ」と脅されました。すっごく怖かった……。


 想定を大幅に上回り、予想外の展開となり、プロットから大幅に外れ、半ばストーリーが破綻しました、どうしよう。


(まぁ、これくらい登場人物が元気でないと、書いてて面白くないのですが……)


 シャルの子供に気を取られて、シャル自身の設定を煮詰めることを怠っていました。


 全て、私の未熟が原因です。


 大幅にストーリーを修正するか、それともいっそ始めから書き直すか……。


 すこし落ち着いてから、考えたいと思います。最悪、この101話を消します。悪しからずご了承下さい。


 なお、初期プロットでは、アベルの妻は、アリス1人だけでした。どうしてこうなった。

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