05.五人の朝ヂュン
ぢゅんぢゅん、ぢぢぢぢ……
スズメの鳴き声……にしては何や野太いな……をアラーム代わりに目を覚ます。
寝台から上半身を起こして部屋を見渡すと、ユーリアとアナベル、それからエルヴィーラとハンネローレがしどけなく横たわっとった。彼女らの、眠っとってもなお艶めいた姿態と、未だ部屋に残る女の匂いに、ウチは思わず頬がだらしなく緩むのを抑えきれんかった。
* * * *
衝撃の光景――本物の魔法の発現を目にした直後、彼の発言でウチはまた衝撃を受ける事になった。実の娘のハンネローレを、ウチの《従士》にして欲しい、と言わはったんや。
これまでの部族の意志決定は、第三・四世代による合議制で、最長老であるオババが調停役をしとったそうや。と言うのも、PMCであった頃の名残りか「上官」……即ち上位世代には絶対服従っちゅう掟があって、「真の」最上位世代であるウチが(眠っとっただけやけど)存在しとる以上、それが一番納得出来る方式だったワケや。
「――しかし、ごく緩いものとはいえ、我々は権力を保持しているのです」とヴィレームは続けた。
(こないな年上を呼び捨てにするんは気ぃが引けるけど、「ヴィレームはん」と尊称(っちゅうのも大袈裟やけど)付けて呼んだら、「貴女は族長なのですから、権威を示すためにも皆を等しく呼び捨てにして下さい」って本人から言われたんや。
……べっ、別にウチが無駄に偉そうにしとるワケやないんやからね!
オババ?彼女のは親しみを込めた愛称やからええねん)
それは兎も角、それを行使出来、かつ恩恵に浴する立場におると、手離したがらん奴が多少は出て来る。年ぃ取ってくると、尚更に。
加えて、ウチが最上位世代にも関わず年若いのも問題で、今まで命令しとった第五世代と同年代のウチが上に立つっちゅうのは、内心では面白うない、と。……面倒臭っ。
そういう厄介な政治に時間をかけとうはない。そこでヴィレームの出番となる。彼は第三世代で、しかも《戦士》とはまた異なる立場として一目置かれる《呪術医》や。
「そんな僕が、娘にして弟子であるハンネローレを貴女に託す。これは、彼らへの明確な意志表示となるでしょう。……それに、初めての娘の我儘を許してやりたくて」
「……我儘て?」
純粋に疑問に思うて聞いてみると、それまで大人しく控えとったハンネローレがすっと進み出て来て、ウチの前に立った。親父はん譲りの銀の長髪と、ぱっちりとした目の中で輝く琥珀色の瞳の淑やかな雰囲気の持ち主や。手弱女っちゅう表現は、こういう子のためにあるんやろな。乳もユーリアと同レベルで、なかなかのバランスや。
「吾の願いとは、ハクト様の許に侍らせて頂く事で御座います。
――そ、その……一目惚れ、で御座います……」
ハンネローレは俯くようにはにかむと、顔を真っ赤にして、指をもじもじさせながらそう言うた。……何やこの可愛い生き物。
「そりゃあ光栄な事っちゃ、嬉しいで♪ ……でも本当にええんか、二人とも?」
ウチはエルヴィーラとハンネローレの腰に手をやって、ぎゅっと抱き寄せた。二人の柔かいモンがウチのそれと当たって、互いにむにゅりと形を変える。うーんえっちやん。
「――言っとくけど、ウチはかな~~り助平やで?」
「はっ、はい! 不束者ですが、精一杯ご奉仕致します!」
「ハクト様と出逢ってより、吾は既に貴女の物で御座います。えぇ、心も肢体も……」
敢えて悪戯っぽく言うてみたのに、何やこの、真面目で真っ直ぐで、ほんで……可愛いやらしい返答は。
「よぉし……その言葉ホンマかどうか、寝室でゆっくり確かめさせて貰おうやないか。
ユーリアとアナベルも一緒に、な……♡」
二人を更に近く抱き寄せて、その耳元に囁くと、ウチはアレコレをゆっくり確かめるために、四人を連れて早速寝室……ゲフン、部屋に戻っていった。
* * * *
――で、翌朝。その結果が目の前の光景というワケや。
でっかい寝台の中央にはウチ、その両隣にユーリアとハンネローレ、折り畳み式のソファベッドにエルヴィーラとアナベル。ウチの性へk……性格を見越して家具を交換してくれとった、仲間の慧眼は流石やわ。……ARに残されとった伝言を読んで遠い目になったんは秘密やけど。
エルヴィーラとハンネローレに電化製品その他の文明の利器……特に前回と同じくボディソープ、シャンプー、コンディショナーを初体験してもろて、その後はウチにとっても初体験の……“五人囃”。
エルヴィーラは普段とうって変わって、自分の事よりも他の女を優先してその悦びに共感する、健気な尽くす系になっとった。ハンネローレに至っては清楚な雰囲気を砲丸投げの勢いで投げ捨てて、最後までウチに絡んできよった。アナベルをも上回る積極性を発揮するとは魂消たなぁ。
ともあれ、ウチは四人の《従士》……嫁はんを全員満足させたのやった。やたら頑丈に産んでくれた、顔も知らんお母んに感謝やで。
「ぁ……シノ様。おはようございます」
「あぁ、エルかいな。おはようさん……んちゅ」
最初に目を覚ましたんはエルヴィーラやった。流石は(普段からトップレスやけど)トップの《戦士》だけあって、体力の回復が早いな。挨拶を交わすと、エルヴィーラは横になっとったソファベッドから起きてきて、目覚めのキスを落としてくれる。上体の傾きに合わせてかすかに揺れるマシュマロにぽつんと咲いた、鮮烈な扶桑花が目に眩しい。
“エル”は彼女の愛称や。彼女を気軽に愛称で呼べる人が居らんくなっとったせいか、えらい喜んでくれた。ちなみに“シノ”はウチやで。八上 紫乃。覚えとる?
「くあぁぁ~っ……オリジ、いえ、シノ様。ぉ、お早うござぃます……ちゅ」
「シノ様ぁ……昨夜も素敵でしたぁ♡……んく」
「リーアにアナ、おはようさん。アナは開口一番それかい……んっ」
続いてユーリアとアナベルが挨拶してくる。伸びをしながら起き出してきたユーリアは、昨夜を思い出したんか、挨拶の途中で顔を赤うしつつ、それでもキスをしてくれる。アナベルはベッド脇に膝をつくと、ウチに甘える様にしなだれ掛かってきて、唇やのうて先端の薔薇石英にキス(?)をしてきた。何処までもブレん娘やなぁ、と苦笑する。
その頃になって、やっとハンネローレがウチの隣で「ふみゅう……」とか鳴きながら身じろぎし始める。こん中でイチバン体力無いくせに、最後まで乗っかって来るからや……。
「ふぁ……嗚呼、シノ様……。 吾は……吾は、あんなに愛して頂いて、誠に果報者で御座います。……んく」
「ハンネ……アンタなぁ」
未だに寝ぼけ眼のハンネローレは殆ど身を起こさずに述べ立てると、慎ましやかな樺色でウチのお腹をくすぐりながら、ウチの腰に手を回してもう片方の薔薇石英にキス(?)をしてきた。ハンネローレよ、お前もか。
何だかんだ言いながらも、ウチにこんなにも愛情を捧げてくれる四人の嫁はんに囲まれて、幸福感で一杯になる。
こうして嫁はんらを愛称で呼ぶんも、ウチを本名で呼ぶんも、今のようなプライベートな空間でだけ、と取り決めた。特に本名を教えた時の喜びようは相当やった。「これは我が身達だけの秘密なのですね……♡」なんて、まるで宝物を貰うたように嬉しそうに微笑まれたモンやから、思わず抱き締めてもうたわ。
ぢぢっ、ぢゅん、ぢぢぢ……
姦しいウチらに応えるみたいに、再びスズメの合唱が聞こえてくる。ちゅうかホンマにスズメなんか?
「おや……近くにバイオスズメがいるようだな。ふむ、朝食にちょうど良い」
ユーリアが棚に置いとった弓矢を手に取って、窓をそうっと開いた。
…………。ばいお?
キリキリキリキリ……と音を立てて弓を引き絞るユーリアの背筋が盛り上がる。ウチの嫁はん格好良えなぁ……後で背筋触らせてもらお♪
ユーリアの放った矢がびょうと空気を切り裂いて、標的に過たず突き刺さる気配があった。
ぢぢぢっ! ばさばさばさ……!
仲間の死に驚いて、スズメらが一斉に飛び立つ。赤・青・緑とかの原色が目に痛い、翼開長五十センチほどの鳥が窓を横切ってくのが見えた。
でっか!スズメでっか!! そら声も野太いわ!!
「流石リーア、見事な腕前ね。私でも、ああも正確に頭を射抜けないわ」
「ふふ……エルに素直に褒められると、くすぐったい様な怖い様な、奇妙な気分だな」
「あら、言うじゃない。今夜、思いっ切り啼かせてあげようかしら?」
ほんの昨日までギスギスした間柄やったこの二人が、こないに親密な雰囲気で会話しとるんを聞くと、微笑ましいやら誇らしいやら、って気分になれたんやろうけど、スズメ・リアリティ・ショックで呆然としとって聞き逃してしもた。
ちなみに、バイオスズメは美味かった。
けど……幾らスズメやからって、姿焼きは堪忍してんか?!グロいわっ!!
シノちゃんの能力値大公開。
※()内はサイバーウェア等による強化後の値。
【強靭】6
【敏捷】5
【反応】5(7)
【筋力】6
【魅力】5
【直観】5
【論理】3
【意志】3
(人間の能力値は通常1~6、平均3。サイバーウェア等による強化限界値は9)