04.呪術医のチカラ
難産でした(表現力の限界的な意味で)。
日刊ペースで投稿してる人って、どんな脳細胞してるんですかね。(しろめ)
決着の直後、ウチは興奮した人々にもみくちゃにされた。部族最強の《戦士》やったエルヴィーラを、たった四秒で伸してしもたからや。
ヴォーパルバニーの本当の強さを初めて目の当たりにしたんやから、その興奮は当然のモンやと言えた。中には「あぁ、祖霊よ……感謝します……ッ」って、言葉を詰まらせて泣き出す男性もおった。
……やめてんか、その外見はウチ(の腹筋)に効く。
そんな中、エルヴィーラが三人の女の子の助けを借りて、よろよろと近付いてきた。頬は腫れ上がっとるし、盾越しに衝撃を受けとった左腕も青痣だらけで痛々しい。けど憐憫の情とかは湧いて来ん。この女は――それだけの事を言うた。
周囲の人らがおずおずと距離を置いて、固唾を飲んでウチらを見守る。ウチが彼女に如何なる裁定を下すんかを聞き逃すまいと、水を打ったような静寂が訪れた。
エルヴィーラはウチの前に跪くと、顔を上げてウチの言葉を待った。
「――目ぇ、覚めたか?」
「はい……。愚かな私めの不明と傲慢を、貴女様の聖なる一撃で糺して頂きました。
ただ徒に力を揮う輩は、更に強い力に蹂躙される……貴女様は、まさしく祖霊の化身でございました……」
ホンマは頬の腫れのせいで、もっとモゴモゴした発音やったけど、彼女はウチをまっすぐと見据えて迷いなくそう言うた。なーんかズレとる気もするけど、反省しとる様やし、まぁ良えか。あと聖なる一撃にはツッコまん。ツッコまんでぇ……!
ウチが頷いてみせると、エルヴィーラから爆弾発言が飛び出した。
「オリジン様……。私を、不肖このエルヴィーラを、貴女様の《従士》に加えて頂けませんでしょうか?」
周囲に大きなどよめきが起きる。ウチも勿論驚いたし、ユーリアとアナベルもぽかんと口を開けとる有様や。
《従士》っちゅうんは、《戦士》に仕える部下にして恋人みたいなモンや。
……ウチらの部族は結婚の概念が無うて、自由恋愛とか性に対して結構寛容なんや。子供が産まれたら、部族の皆で面倒を見る。
せやけど、《従士》はただ一人の《戦士》に身も心も捧げる。言ってみれば、これが結婚の代わりになるんかな。
彼らが素質――片足だけ〈ラプトル・レッグ〉を換装出来た者を含む――を見出した若い子に、戦いなんかを仕込むために側に置くワケやな。逆に、若い子の方から申し込む事もあって、《戦士》のお眼鏡に適えば成立する。
ただ、《従士》が晴れて《戦士》になればこの関係は(個人的な仲は兎も角として)解消されて、今度は自らが《従士》を持つ権利を得る。つまり、既に一人前の《戦士》が誰かの《従士》になる言うんは極めて異例で、エルヴィーラの懇願は前代未聞の事やった。
まぁウチは族長やさかい、護衛の意味(と、本人たっての希望)で《戦士》ユーリアと、その《従士》アナベルが付いたけども。
……エルヴィーラが、ウチを縋る様な眼差しで見詰めてきとる。これは……断れへんなぁ。何より、これからウチが改革の大鉈を振るう事になった時、この「前代未聞」が良え意味で前例になるかも知れへん。
「ん、分かった。ジブンの覚悟、受け取ったわ。ウチと一緒んなってくれるなら百人力や。これから宜しゅうな」
「……! あ、有難う御座います!このエルヴィーラ、全身全霊でお仕え致します!!」
ある意味において彼女を利用することへの償いを込めて、ウチはしっかり彼女を見詰め返してその手を握る。
目の端に光るモンを滲ませてウチの手を握り返してくるエルヴィーラ。彼女やユーリア、アナベル――ひいては部族民全体が強くないと生き残れん環境の住人であって、「より強い指導者」の言う事を聞くっちゅう素地が出来とらんと、ここまですんなり話が進む事は無かったやろなぁ。
* * * *
そんな感じで大団円な雰囲気の中、一人の年嵩の男性がウチらの元に近付いてきた。
「失礼。そろそろエルヴィーラ殿を治療して差し上げたいのだが……」
「あぁ、これはヴィレーム様。忝い」
あのエルヴィーラが「様」付けした男性は、ヴィレームて名前のようや。
服装はオババの物に近いローブ状で、一般的にズボンを穿いとる男性には珍しい……ちゅうか彼以外に見た事がない。そのローブには様々な装飾品が付いとって、護符っぽい感じがする。手には兎の足や羽飾りの付いた長い筒。ほんでトドメに、赤う塗られた兎耳バンド。
背後には、よう似た服装(赤い兎耳含む)をした二十手前くらいの姉ちゃんがおって、バイオモニター搭載型の高級医療キット――ただし、やたら年季の入った――を両手に提げとる。
ふむ、察するところ、医者とその助手かいな?赤い兎耳は赤十字の代わりと見た。
ウチの表情を読み取って、アナベルが説明してくれる。
「ヴィレーム様は第三世代のお一人でぇ、部族で最も力のある《呪術医》なんですよぉ。後ろに控えてらっしゃるのがぁ、ハンネローレさん。ヴィレーム様の娘さんにして一番弟子ですぅ」
第三世代っちゅう事は……えぇと、六十歳前後か。んでもってハンネローレが娘さん……って、えらい年の離れた親子やな?!
ともあれ、彼らがエルヴィーラを治療してくれはるらしいけど、呪術医なぁ……。まぁ医療キットの指示に従うとれば滅多な事にはならんやろし、いきなり怪しい薬を使おうとせん限りは止めんとこか。
様子を見とったら、ヴィレームはんは持っとった筒の、白い石――石雪花石膏やろか?――で出来た先端に火を落とした。そしたら、中に仕込んどったらしい何かが燃えて、甘い匂いのする煙が辺りに立ち込めた。
(後で聞いたら、あれは聖なるパイプて呼ばれる物で、中に詰めとったんは烏羽玉や各種香草を混ぜた、儀式用の煙草らしい)
ヴィレームはんは煙を吸い込みながら、何やらドコの言語かも分からん呪文を唱え始めた。うわ、胡散臭ぁ。
こら止めた方が良えかなぁ、と思うてウチが動こうとした――その瞬間。
ヴィレームはんの顔が、兎に変わった。
…………は?
ウチが呆気に取られとると、彼の手が優しげな緑色に光った。その光がエルヴィーラに触れたら……彼女の傷がドンドン塞がっていくやないか!
う? ……え、はぇ? どええぇぇぇえっ?!!?!
何やアレ!何やアレぇぇ?!まさか煙の幻覚作用やないやろな!?!
余りな出来事にウチが口をあんぐりさせとると、ユーリアが自慢げな笑み……ぶっちゃけドヤ顔を浮かべて言うてきた。ムカつくけど可愛い。
「如何ですかオリジン様、我が部族の《呪術医》は。これほどの遣い手、《大崩壊》前にもなかなか居なかったのではないかと思うのですが」
「あ……あぁ、せやね……全クソノ通リヤネHAHAHAHAHA」
“なかなか”どころか“そもそも”居らへんかったわアホかぁぁぁ!
誰かツッコミ代わってんかぁータスケテー?!
ヴィレームの顔が兎に変わったのは、“シャーマニック・マスク”と呼ばれる現象です。
(『4A』p.219)
ところで、ハクトと女の子たちの「ジェスチャー(意味深)」のアレコレについての詳細は、需要あるんですかね?
夜想曲な姉妹ペェジで、題して「荒野のエロエロ兎」とか。