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01.これまでの事と、これから

「こらぁまた……エゲツない事になっとるなぁ」

 あのてんてこ舞いな目醒めから一日経った夕方。ウチは目の前の光景を見て、何度目かの溜め息をついた。

 ここは《キャピタル・ウェイストランド》と呼ばれる大地――ウチはてっきり「北米大陸」って名前やと思うとったんやけどな~――の南部、フォートワースの街……の跡地。その名も“バニーシティ”。

 うん、ウチが同僚たちと眠りについてから二百年も経てば、そら地名も変わるわなぁ。変わってんのは地名ばかりやのうて、地形もやけど。

 見渡す限りの荒野ウェイストランド、そして瓦礫。僅かに残る建物は、身を寄せ合うみたいに見窄(みすぼ)らしく見えた。

 去り際に狐耳の姉ちゃんが渡してくれたテキスト『5分でわかる!《大崩壊》 ~コールド・スリープ覚醒(ホット・シード)者への手引き~』によると、北米大陸……いや、世界は《大崩壊》っちゅう大騒ぎに見舞われたらしい。

 都市管理コンピュータの暴走から始まって、ウチらがコールド・スリープを決断するきっかけになった核兵器の応酬、食糧不足による暴動、ミュータントの発生……。正直言うて、ウチらが想定・想像しとったより酷い有様や。そらもうショックやったでぇ。

 んでまぁ、ショックのあまり二度目の、そして「覚めへん眠り」を選ぶ人もおるらしゅうて、あのソラスっちゅうお医者はんが随分心配してくれはった。身体の調子は万全やったから次は心とばかりに、記憶なんかに障害は無いか、って。

「大丈夫や、心配あれへんで。ウチは――」


 ――ウチは八上(やかみ) 紫乃(しの)、24歳。性別、女性。

 職業はPMC『ヴォーパルバニー』のコントラクター(請負人)で、コードネームは“ハクト”。日本支社大阪支部に所属しとったけど、仕事ぶりを認められて米国の大きな拠点のひとつ、フォートワースで上級士官課程に入ったんや。

 せやけど、めでたく少尉になるかならんかって時に、米国による核兵器発射と某国の報復核のニュースが飛び込んできて――

「――んで現在に至る、っちゅうワケやな……」

 ウチはそう呟いて、背後の気配に振り向いた。そこには、昨日の目醒めにも立ち会うとった皺くちゃの婆ちゃん……通称“オババ”ことイザベラと、彼女を抱えて佇む女、それからその後ろに控える姉ちゃんの、あわせて三人の同胞(・・)がおった。


 現在へと時が移る、凡そ百年前。フォートワースの街は比較的被害が少のうて、『ヴォーパルバニー』の基地も無事やった。目覚めた同僚らは互いに幸運を喜んで、市街地に僅かに残ったお人らとも合流したそうや。

 けど、その喜びも束の間。街は壊滅の危機に瀕しとった。原因は、都市管理コンピュータを司る超AIの暴走。

 何故か、コンピュータからSINデータの殆どが消え失せとって、そのせいで正規市民も、彼らに「雇用」されている事で存在が許されていたウチらのようなSINレス(下層の非正規市民)も区別無く、テロリストや生物兵器と認識されて、戦闘ドローンの標的になったらしい。せやからこそ市街地は(・・・・)無事やったんや。何でも、あの核兵器の応酬も、データ消失を「攻撃を受け、国民の大半が死滅した」と判断した結果だとか。

 ほんで、自分らが生き残るにはこれしかない、と決心した同僚らは、超AI率いるクロム鋼の軍団に戦いを挑んだ。ドローンやカメラの監視を潜り抜けながら、数年かけて武装や侵入経路を準備しはったんや。

 その甲斐あって、見事に超AIを破壊して、街には百年ぶりの平穏が訪れたんや。

 ――『ヴォーパルバニー』の全滅と引き換えに。

 残ったんは、彼らの……数年の間に儲けた子供らと、ほぼ戦う術を知らん街の大人ら。

 そっから彼らは、日々を生き抜き、戦い抜き……《大崩壊》以前やったら何でも無いような病気や事故で人が死に、経験と知識が喪われ……。

 ほんで、今。果敢に戦うた彼らの名前を継いだ部族、『ヴォーパルバニー』の面々……これまでの出来事を語ってくれたオババらがウチの前におる、っちゅうワケや。

 ……正直、《大崩壊》の事を聞いた時よりショックやった。


 ウチも一緒に目醒めたかった!

 ウチも一緒に戦いたかったッ!

 ウチも一緒に……死にたかった…ッ!!


 けど、(うずくま)って声も無く慟哭するウチを気遣わしげに伺うオババを見て、何やらストンと胸に落ちた。

 この人らは、ウチの同僚の、先輩の……仲間の家族や。ウチがこうして最後に目醒めたんは、ウチの故郷の神さん……大国主神(オオクニヌシノカミ)の、この子らを守ってあげんさい、ちゅう計らいかもしれへん、って。

 せやから、ウチはオババにこう言うたんや。


「ええで。ウチが――このハクトが、アンタらの族長になったるわ!」


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